商業登記の積極的公示力と民法112条との関係・・・

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商業登記の積極的公示力と民法112条との関係・・・

最判昭和49年3月22日(約束手形金請求事件)
民集28巻2号368頁、判時737号85頁、判夕308号195頁

<事実の概要>

AはY株式会社の代表取締役であった。

Aは、昭和41年11月18日、同人が知らない間に取締役を退任させられていたが、Aの代表取締役の資格喪失の登記は昭和43年12月28日に至るまでなされなかった。

Aは、同年12月19日、銀行よりY社名義の手形用紙50枚の交付を受けていた。

Aは、昭和44年1月20日ころ、自己の退任登記がなされたことを知り、同日以降はY社代表者名義の手形を振り出しはしなかったが、それまでの間に既に、Y社代表取締役名義をもって、Bにあてて数通の約束手形を振り出していた。

このようにして振り出された約束手形の1通が、BからCへ、そしてCからXへ裏書譲渡され(当該約束手形を以下、「本件手形」という。)、Xがそれを所持している。

本件手形はAの代表取締役退任登記後に振り出されたものであった。

Xは本件手形を支払期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。

そこでY社に対し手形金の支払を求めているのが本件である。

原審は、Aの代表権喪失に関しBの善意無過失を認定した上で、Bは「商法上代表権喪失の登記を対抗される善意の第三者であり、かつ、民法112条の善意の第三者にもあたるものというべく、Y社は同条の代表権消滅後の表見代理の責任を負うべきである」として、Xの請求を認容した。

これに対してY社が上告した。

<判決理由>破棄差戻し

「株式会社の代表取締役の退任及び代表権喪失は、商法188条及び15条によって登記事項とされているのであるから、(商人の取引活動が大量的反復的に行なわれ、利害関係をもつ第三者が不特定多数に及ぶことから、商人と第三者の利害調整を図るために登記事項を定め、登記に消極的・積極的公示力を付与した)法の趣旨に鑑みると、これについてもっぱら商法12条のみが適用され、右の登記後は同条所定の「正当の事由」がないかぎり、善意の第三者にも対抗することができるのであって、別に民法112条を適用ないし類推適用する余地はないものと解すべきである。」

よって本件においては、「Xは、Bにおいて、Aより右手形の振出交付を受けた際、右代表権の喪失につき善意であり、かつ、商法12条所定の「正当の事由」があったことを主張立証することによってのみY社に右手形金を請求することができるにとどまり、Bの善意無過失を理由に民法112条を適用ないし類推適用してY社の表見代理責任を追求することは許されない。」

(代理権消滅後の表見代理)
民法第112条 代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

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不正の目的による商号の使用・・・

東京地判平成10年7月16日(商号使用禁止請求事件)判夕985号263頁

<事実の概要>

X社は昭和59年2月18日に、生花・鉢物・苗木の仲卸及び販売等を目的として設立された有限会社であり、「有限会社甲野ガーデン」という商号を登記している。

Y社は、平成8年4月15日に、生花・鉢物小売等を目的として設立された有限会社であり、その商号はX社と同一である。

Y社設立に至るまでの事情は以下の通りである。

AとBは、昭和49年に婚姻し、「甲野ガーデン」の名称で生花販売業をはじめた。

昭和59年、X社を設立してこれを会社組織とし、Bが代表取締役に、Aが取締役に就任し、Aが仕入及び経理業務を、Bが日常の販売業務を担当していた。

AとBは、Aの女性問題などをきっかけに不仲になり、平成元年8月、ついに離婚するに至った。

離婚後BはX社の代表取締役及び取締役を辞任し、代わりにAが代表取締役に就任したが、平成2年初めには、BがAの元に戻って内縁関係となり、Bは再びX社の業務に携わるようになった。

A及びBは、X社の本店所在地にあった居宅兼店舗を取り壊して、新たに居宅兼店舗となる建物(以下、「本件建物」)を建築したほか、平成3年4月にはBが再びX社の取締役に就任した。

平成4年ころ、再びAに女性問題が生じたため、BはAとの関係を清算することを決意し、平成5年4月、東京家庭裁判所に財産分与の調停を申し立てるなどした。

平成7年11月、AはX社を一時休業することとし、従業員2名を解雇するとともに、得意先にも店舗をいったん閉鎖する旨を連絡した。

以来X社は一切営業活動を行なっていない。

しかしBは、A・Bの長男Cの手伝いを得ながら、従前と変わることなく本件建物において「甲野ガーデン」という名称で生花販売業を続けた。

平成8年1月、Aは本店建物を出て、他所で生活するようになった。

同年3月、X社の社員総会が開催され、Bの取締役解任決議がなされた。

Bは、Cがその代表取締役、Bが取締役に就任した。

以来、本件建物においては、それまでと同様B及びCが生花販売業に携わっている。

本件訴訟においてX社は、Y社が不正の目的をもってX社と同一の商号を使用しているなどとして、当該商号の使用の差止めを求めている。

<判決理由>請求棄却。

「商法21条1項の「不正の目的」とは、他人の営業を表示する名称を自己の営業に使用することにより、自己の営業を当該名称によって表示される他人の営業と誤認混同させようとする意思をいうものと解するのが相当である。

本件においては、前判示のとおり、Y社の実態はX社の実質的経営者の一人であったBの営業活動が単に法人成りしたものであり、本件建物におけるY社の営業は、実質的には、従前のX社の営業がその実質的経営者の一人であるBにより同一の形態でそのまま継続されているものにすぎないから、Y社に商法21条1項の「不正の目的」があるとは認めることができない。」

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類似商号の使用と不正競争防止法による使用差止請求・・・

最判昭和58年10月7日(商号使用差止等請求事件)
民集37巻8号1082頁、判時1094号107頁、判夕513号145頁

<事実の概要>

X社は、アメリカ合衆国ミルウオーキー市所在のマンパワー・インコーポレイテッドの子会社として、昭和41年に設立された株式会社である。

X社は設立以来、その商号である「マンパワー・ジャパン株式会社」及びその通称である「マンパワー」という名称を用いて、事務処理請負業、すなわち、顧客の需要に応じて通訳、翻訳者、英文・和文タイピスト等各種の専門技能者を顧客の事務所又はその指定する場所に出向配置して依頼された事務を処理したり、X社の事務所に持ち込まれた翻訳等の事務を完成するなどの業務を行なっている。

Y社は、昭和51年に東京都内に本店を置いて設立された株式会社であり、その商号である「日本ウーマン・パワー株式会社」の名称を用いて、X社と同じ事務処理請負業を営んでいる。

X社の商号及び通称である「マンパワー」という名称は、遅くともY社が設立された昭和51年頃には、既に本店のある東京都をはじめとし、札幌市、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市、福岡市などX社の支店のある地域及びその近傍地域においてX社の営業活動たることを示す表示として広く認識されており、X社は、X社とY社を同一営業主体であると間違えたX社やY社の顧客から、問い合わせを受けたことがあった。

X社が、平成5年改正前不正競争防止法1条1項2号に基づき、Y社の「日本ウーマン・パワー株式会社」なる商号の使用の差止を求めたのが本件である。

<判決理由>上告棄却

「ある営業所が不正競争防止法1条1項2号にいう他人の営業表示と類似のものか否かを判断するに当っては、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、呼称、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのを相当とする。」

「X社の商号の要部は周知のものとなっていたその通称の「マンパワー」という部分であるのに対し、Y社の称号の要部は「ウーマン・パワー」という部分であるというべきところ、両者は、「マン」と「ウーマン」の部分で相違しているが、現在の日本における英語の普及度からすれば、「マン」という英語は人を意味し、「ウーマン」を包摂する語として知られており、また、「パワー」という英語は、物理的な力のほか人の能力、知力を意味する語として知られているといって差し支えないこと、X社とY社はいずれも本店を東京都内において前記事務処理請負業を営んでおり、右各事業は人の能力、知力を活用するものであって、両者の需要者そうも共通していることを考慮すると、両者の需要者層においては、右「マンパワー」と「ウーマン・パワー」は、いずれも人の能力、知力を連想させ、観念において類似のものとして受け取られるおそれがあるものというべきであるうえ、X社の商号の「ジャパン」の部分及びY社の商号とは全体として類似しているものと受け取られるおそれがあるものということができる。

以上によれば、X社の商号及びその通称である「マンパワー」という名称とY社の商号とが類似しているとした原審の認定判断は正当として是認することができる。」

「不正競争防止法1条1項2号にいう「混同を生ぜしむる行為」は、他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が同人と右他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をも包含するものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記事実関係によれば、Y社は、X社の周知の営業表示と類似のものを使用して、Y社とX社とを同一営業主体として誤信させる行為ないし両者間に緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をしたものであって、結局、Y社は、X社の営業活動と混同を生ぜしむる行為をしたものということができ、これと同旨の原審の認定判断は正当として是認することができる。」

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被許諾名称の事業外使用と名称使用許諾者の責任・・・

最判昭和55年7月15日(約束手形金請求事件)
判時982号144頁、判夕425号74頁、金法943号40頁

<事実の概要>

ガス配管工事、プロパンガス、ガソリンなどの販売等を業とするA株式会社代表取締役Bは、昭和48年末ころYに対し、「精華住設機器 Y」の名称で商売をしたいので氏名の使用を認めて欲しい旨申し入れ、Yはこれを許諾した。

その後Bは、C銀行D支店との間で「精華住設機器 Y」名義で当座勘定契約を結んで預金口座を開設し、この口座を利用してA社の営業に関連してY名義の約束手形を振り出していた。

Bは当座勘定取引についてYの了解を得ていなかったが、Yは、当座預金残高が不足になった際Bから現金を受領して入金手続を行なうなど、Bによる取引を知りつつ黙認していた。

Xは昭和51年ころ初めてBから「精華絨設機器 Y」振出名義の約束手形の割引を依頼された。

そこでC銀行D支店に振出人の信用状態を照会したところ、いずれも決済されている旨の回答を得たため、Xはその後3回にわたって手形の割引に応じ、これらの手形はいずれも決済された。

本件手形も、BがA社の営業に関連して、前記当座預金口座を利用し、振出人を「精華住設機器 Y」、受取人をBとして振り出したものである。

そしてXは、Bの割引依頼に応じて、Y振り出しの手形と信じて本件手形を割り引いて取得し、昭和52年5月12日に支払場所において提示して支払を求めたが拒絶された。

そこでXはYに対し手形金の支払を求めたが、Yが振り出しを否認したため、Xは前商法23条の名板貸責任を主張した。

原審は前商法23条の類推適用によりXの請求を認容し、Yが上告した。

<判決理由>上告棄却。

「Bに「精華住設機器」を冠した自己の名称を使用して営業を営むことを許諾したYが、右の名称使用を許諾した営業の範囲内と認められるガス配管工事やプロパンガスその他の燃料の販売を業務内容とするA社の営業のためにY名義で振り出された本件手形につき、Bが右の名称を使用して営業を営むことがなかったにもかかわらず、これまでにその名称でC銀行D支店との間で開設した当座勘定取引口座を利用した前記振出名義の約束手形が無事決済されてきた状況を確かめた上でその裏書譲渡を受けたXに対し、商法23条の規定の類推適用により、手形金の支払義務があるものとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

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