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戻裏書と人的抗弁・・・
最判昭和40年4月9日(約束手形金請求事件)
民集19巻3号647頁、判時410号53頁、判夕176号105頁
<事実の概要>
Yは、本件約束手形をAに振出し、AはBに、BはCにそれぞれ裏書譲渡した。
その後BはCから戻裏書を受けて再び本件手形を取得し、それをさらにXに裏書譲渡した。
BがCから戻裏書を受けたのは、Bが解散したためCから手形割引を終了させるため
再譲渡したいとの申し入れを受けBがこれに応じたという事情がある。
XがYに手形金を請求したところ、Yは次のように主張して手形金の支払を拒んだ。
本件手形はYがAに売買代金支払のために振出したものであるが、BはAの資産状態が悪くY・A間の売買契約支払のために振り出したものであるが、BはAの資産状態が悪くY・A間の売買契約はAの不履行により解消されるであろうことを知りながらAから本件手形の裏書譲渡を受けたので、悪意の取得者であり、かつAが倒産して上記売買契約の不履行が確定したのであるから、YはBに対して本件手形金を支払う義務はない。
XはBから隠れた取立委任裏書を受けた者であって、YはBに対する上記の抗弁事由をXにも対抗できる。
かりに隠れた取立委任裏書でないとしても、XはA及びBに関する上記事情を知りながら本件手形を取得した悪意の取得者であって、YはXに対して本件手形金を支払う義務はない。
第1審ではX敗訴。
第2審は、最判昭和37・5・1民集16巻5号1013頁を参照し、「たといX主張の事由があり、Bが右事由を知ってAから(本件手形を)取得したとしても、BからCが・・・善意で右手形を取得した以上Cから更に裏書譲渡を受けてCの有する手形上の権利をそのまま承継取得したB・・・に対しても、またBから右手形の裏書譲渡を受けたXに対しても、・・・X主張の事由をもって本件手形金の支払を拒絶することはできない・・・。
このことは、Xに対する裏書がかくれた取立委任か、通常の裏書かによってなんら左右されない」と判示して、Xが勝訴。
Yは、戻裏書の場合には、最初の裏書取得と戻裏書による取得との間にたとえ善意の取得者が介在したとしても、最初の裏書取得が悪意の取得である以上、その抗弁事由の対抗を受けることは確定した判例であり、学説上も多く異論をみないと主張して、上告した。
<判決理由>破棄差戻し。
「本件にあっては、善意の取得者たるCから裏書譲渡を受けたBは、もともとCに対し本件手形を裏書譲渡したものであり、更にCより戻裏書を受けた関係にあるから、事実関係が原判決参照の前記判例(上記最判昭和37・5・1)の場合と異なるものといわねばならない。
手形の振出人が手形所持人に対して直接対抗し得べき事由を有する以上、その所持人が該手形を善意の第三者に裏書譲渡した後、戻裏書により再び所持人となった場合といえどもその手形取得者は、その裏書譲渡以前にすでに振出人から抗弁の対抗を受ける地位にあったのであるから、当該手形がその後善意者を経て戻裏書により受け戻されたからといって、手形上の権利行使について、自己の裏書譲渡前の法律的地位よりも有利な地位を取得すると解しなければならない理はない。
それ故、本件にあっては、振出人たるYは、戻裏書により再び所持人となったBに抗弁事由を対抗できるものといわねばならず、BからXに対する裏書譲渡が隠れた取立委任によるものであるとすればXに対してもこれを対抗しうることになるわけである(当裁判所昭和・・・39年10月16日第二小法廷判決参照)。」
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手形金の請求と権利の濫用・・・
最大判昭和43年12月25日(約束手形金請求事件)
民集22巻13号3548頁、判時542号21頁、判夕230号135頁
<事実の概要>
Yは金額33万円余の約束手形を受取人・振出日白地でAに振出した。
Aに他から割引を受けさせ、一部手取り金の融通を得させるためであった。
AはXに対して1万4000円の借入金を負い、電話加入権を担保に差し入れていたが、返済を怠り担保を処分されそうになったので、Aは自分が実権を握るB株式会社の名義で受取人欄を補充し、振出日も補充した上で、本件手形をB名義でXに裏書した。
手形が満期に不渡となったので、XはYに手形金の請求をする本訴を提起した。
ところが、XはAの利息不払いを理由に担保の電話加入権を売却処分し、売得金17万5000円をAの債務弁済に充当してしまっている。
そこで、Yは、これによりAの債務は完済されており、Xは手形をAに返還すべきであると主張した。
第1審ではX勝訴、控訴審ではX敗訴。
Xは上告した。
<判決理由>上告棄却。
「思うに、自己の債権の支払確保のため、約束手形の裏書譲渡を受け、その所持人となった者が、その後右債権の完済を受け、裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のないかぎり右手形を保持すべき何らの正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき実質的理由を失ったものである。
然るに、手形を返還せず手形が自己の手裡い存するのを奇貨として、自己の形式的権利を利用して振出人から手形金の支払を求めようとするが如きは、権利の濫用に該当し、振出人は、手形法77条、17条但書の趣旨に徴し、所持人に対し手形金の支払を拒むことができるものと解するのが相当である。
右の法理に照らし、本件手形の振出人たるYは、前示事実関係の下においては、Xの本件手形金の支払い請求を拒むことができるものと解すべきであるから、裏書の原因が消滅したから手形上の権利が当然に裏書人に復帰する旨の原判決の判断は是認できないが、原判決は結局結論において正当であって、論旨は理由がない。」
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手形金額「壱百円」と「¥1,000,000」の重複記載・・・
最判昭和61年7月10日(約束手形金請求事件)
民集40巻5号925頁、判時1206号3頁、判夕618号34頁
<事実の概要>
Y株式会社が振出した約束手形には、金額欄に漢数字で「壱百円」と記載され、その上段に算用数字で「\1,000,000-」と記載され、100円の収入印紙が貼付されている。
X株式会社は裏書によってこの手形を取得し、100万円の手形としてYに手形金の支払を請求した。
第1審が手形金額を100円としたのに対し、原審判決は、①漢数字も数字だが手形の外観自体から数字による重複記載のいずれか一方が他方の誤記であることが明らかな場合には手形法6条2項の適用はなく、②手形振出日である昭和55年4月28日の貨幣価値からして金額100円の手形が振出されることは経験則上ほとんどあり得ないし、100円の収入印紙を貼付した金額100円の手形が振出されることは常識上ありえないから、漢数字による金額記載には「壱百」と「円」の字の間に「万」の字が脱漏しているとして、100万円の請求を認容した。
Yは上告した。
<判決理由>破棄自判(結果として、Xの請求は100円のみが認容された)。
「本件手形の「壱百円」という記載は、手形法6条1項にいう「金額を文字を以て記載したる場合」に当るものと解すべきである。
けだし、同条項において文字による記載を数字による記載に比し重視しているのは、前者が後者よりも慎重にされ、かつ、変造も困難であるからであると解されるところ、前示の「壱百円」という記載は右のような文字による記載の趣旨に適った記載方法であるということができるのであり、また、このような記載が文字による記載に当るものと解しないと、仮名文字による記載が現実的でないことに鑑み、同条項の対象とする文字による記載がありえないことに帰し、不合理だからである。」
「本件手形上に記載された手形金額については、同条項を適用して右金額を100円と解するのが相当である。
思うに、同条項は、最も単純明快であるべき手形金額につき重複記載がされ、これらに差異がある場合について、手形そのものが無効となることを防ぐとともに、右記載の差異に関する取り扱いを法定し、もって手形取引の安全性・迅速性を確保するために設けられた強行規定であり、その趣旨は、手形上の関係については手形の性質に鑑み文字で記載された金額により形式的に割り切った画一的な処理をさせ、実質関係については手形外の関係として処理させることとしたものと解すべきであるところ、原判示のように、100円という小額の手形が振出されることが当時の貨幣価値からしてほとんどありえないこと及び本件手形に貼付された収入印紙が100円であることを理由として、本件手形における文字による金額記載を、経験則によって、算用数字により記載された100万円の明白な誤記であると目することは、手形の各所持人に対し流通中の手形について右のような判断を要求することになるが、かかる解釈は、その判定基準があいまいであるため、手形取引に要請される安全性・迅速性を害し、いたずらに一般取引界を混乱させるおそれがあるものといわなければならないからである。」
反対意見「手形法6条1項は、手形上に手形金額が文字と数字とにより重複記載されていて、その金額欄に差異がある場合について、手形金額の不確定により当該手形が無効となることを防止するため、文字によって記載された金額を手形金額とする旨を定めているが、右は、通常の手形金額の重複記載の場合の解釈規定であって、手形面上の記載自体から文字による金額の記載が数字により記載された金額の誤記であることが明白である場合にまで文字により記載された金額を手形金額とする趣旨ではなく、かかる場合には、数字により記載された金額が手形金額である解するのが相当である。
思うに、手形行為の解釈については、手形面上の記載以外の事実に基づいて行為者の意思を推測して、記載を変更したり補充したりすることは、許されないが・・・、このような手形面上の記載自体を解釈するについては、一般の社会通念、習慣等に従って記載の意味内容を合理的に判断すべきであって、文字による金額の記載が誤記であることが手形面上の記載自体の解釈から明白である前示のような場合には、手形金額の不確定により当該手形が無効となることはなく、また、文字による記載が数字による記載よりも重視されるべき理由もないからである。」
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白地手形成立の要件・・・
最判昭和31年7月20日(約束手形金請求事件)
民集10巻8号1022頁、判時82号18頁、判夕62号55頁
<事実の概要>
Y株式会社は、金融依頼の目的をもってAに対し、約束手形用紙に、支払地・支払場所・振出地を記載した上、振出人Y株式会社常務取締役Bとして記名捺印し、会社印を押印し、金額・満期・振出年月日・受取人の各欄を空白にしたまま、これを当時のYの経理部長で監査役であったCの手を経て交付し、その際、もし金融する人が具体的に決まった場合は、空欄の部分をCにおいて記入補充し、かつ、手形金額の下には必ず同人の印鑑を押印することを約した。
CはさらにDにこの旨を告げて金融依頼のため本件手形を交付したが金融は実現せず、本件手形は振出日・満期・金額を補充されてEからX株式会社に交付され、Xが受取人欄に自己の名を補充した。
XがYに手形金を請求したところ、原審判決は、本件手形は未完成で振出されたいわゆる白地手形として効力を有するとした上、Y・A間の約定についてXが手形取得時に知っていたことの立証もEに受取人欄の補充権がないことの立証もないから、約定違反をXに対抗できないとして請求を認容した。
Yは上告した。
<判決理由>上告棄却。
本件「の場合、手形の交付を受ける手形振出の相手方その他の他人に対して、手形の白地要件の補充顕を与えたものでない点において、通常の白地手形の振出しと異なること論旨指摘のとおりであるけれども(かかる手形の振出をも、白地手形の振出を以て呼称することの当否はしばらく措き)振出人たるYにおいては、他日約旨に従って手形要件の補充された場合にその文言に従って振出人として手形上の責任を負担する意思をもって本件手形に記名押印したものであることは明らかであり、又、本件手形は振出人の意思に基づいて流通におかれたもの解すべきであるから、振出人たるYは、たとえ、手形の白地要件がYとAとの約旨に反し、手形転々の途上において右約旨と異なる補充がせられたとしても、手形の所持人が悪意又は重大な過失で手形を取得したものでない限り、その違約の故を以て所持人に対抗することのできないことは、手形法77条2項10条の法意に照らし、明らかであるとしなければならない。
本件において、その後、本件手形の白地要件が前示YとAとの約旨に反して補充せられたことは原判決の認定するところであるけれども、Xがその手形取得にあたり、この点について悪意もしくは重大なる過失のあったことは原審においてYの立証しないところであるから、Yはその抗弁をもってXに対抗することを得ず、Yは手形要件の補充された本件手形の文言に従ってその責任を負担すべき義務あるものとして原判決の判断は正当であるといわなければならない。
又、本件手形が受取人空欄のまま振出された事実の認定せられる以上、手形上の権利は手形の引渡しのみによって移転せられるものと解すべきは勿論である。」
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