署名後意思によらずに流通した手形と署名者の責任・・・

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署名後意思によらずに流通した手形と署名者の責任・・・

最判昭和46年11月16日(約束手形金請求事件)
民集25巻8号1173頁、判時653号107頁、判夕271号184頁

<事実の概要>

Y株式会社は取引先Aに対する買掛金支払のために代表取締役Y1・取締役Y2と共同振出の形で受取人欄白地の約束手形を作成し、Y1は会社の経理係Bに当該手形を手渡し、A来社の際に交付すべきことを指示したが、Bが机上に手形を置いたまま買い物に出た間に何者かによって当該手形は盗取された。

その後、手形はYと何ら取引関係のないCによって取得された際に受取人欄がCの商号によって補充され、さらにXに割引のために裏書譲渡された。

XからYに対して手形請求訴訟された。

原審は手形の署名者はその作成した手形が第三者の手中に帰することによって当該手形の交付があったものと認められる外観を作成し、手形に対する第三者の信頼を生ぜしめたものというべきであるから、流通性を本質とする手形取引保護の要請から振出人は悪意または重過失なくして当該手形を取得した第三者に対して責を負うとし、Yの責任を肯定した。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「手形の流通証券としての特質に鑑みれば、流通におく意思で約束手形に振出人としての署名または記名押印をした者は、たまたま右手形が盗難・紛失等のため、その者の意思によらずに流通におかれた場合でも、連続した裏書のある右手形の所持人に対しては、悪意または重大な過失によって同人がこれを取得したことを主張・立証しないかぎり、振出人としての手形債務を負うものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに・・・YのAに対する買掛代金支払のため、Yら・・・において、本件約束手形用紙に、受取人のみを白地としたうえ、共同振出人としてそれぞれ署名または記名押印し、Aに交付するためBに保管させているうちに盗取され、その後転々してXがこれを取得するに至ったが、右手形は、その受取人欄が補充されていて、裏書の連続があるといい、そして、Yらにおいて、Xがこれを悪意または重大な過失により取得したことについて主張・立証しない、というのである。

以上の事実によれば、Yらは、合同してXに対し本件手形金支払の義務があるというべきである。」

なお、少数意見が以下のように付されている。

「約束手形の振出人が、流通におく意思で、手形要件の具備した手形に署名または記名押印したときは、その段階で、振出人として手形債務を負担するための要件である手形行為が完成(ただし、白地手形としてなされた場合は、白地手形として完成)すると解するのが相当であり、この手形を受取人その他第三者に交付することによりはじめて手形行為が完成すると考える必要はない・・・。

したがって、右のような手形が、盗難・紛失等のために、振出人の意思によらないで流通するようになったとしても、連続した裏書のある当該手形の所持人に対しては、手形法16条2項の適用によって、悪意または重大な過失によって同人がこれを取得したことを主張・立証しないかぎり、振出人としては、手形上の債務を免れ得ない。」

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手形行為の表見代理における第三者・・・

最判昭和36年12月12日(約束手形金請求事件)
民集15巻11号2756頁、判時287号23頁、金法299号10頁

<事実の概要>

Y寺では、昭和27年12月23日ころ、Bの斡旋により、Y所有にかかる立木の売買契約の成立に向けて前渡金が受領できる見込みとなった。

そこで、Y経理部長Aは、「Y経理部長A」なる記名ゴム印と印章をBに預け、前渡金の受領を依頼した。

しかし、売買契約はまもなく不成立に終わり、前渡金も受領するには至らなかった。

その後Bは、Aの承諾を得ることなく、当該ゴム印と印章を使用して、振出人を「Y経理部長A」とする約束手形を作成し、昭和28年3月20日、これをCに交付した。

Cは、本件約束手形の割引をXに依頼し、Xは、この手形にCの裏書を得て、同年4月25日、被裏書人欄に自己の氏名を記入し、自ら本件約束手形の所持人となった。

なおCは、本件約束手形の交付を受けた当時、これが正当な権限によって作成されたものではない事情を十分に察知しており、Xもまた同様であった。

Xが本件約束手形金の請求をなしたところ、原審がその請求を棄却したため、Xが上告した。

<判決理由>上告棄却。

「約束手形が代理人によりその権限を越して振出された場合、民法110条によりこれを有効とするには、受取人が右代理人に振出の権限あるものと信ずべき正当の理由あるときに限るものであって、かかる事由のないときは、縦令、その後の手形所持人が、右代理人にかかる権限あるものと信ずべき正当の理由を有して居ったものとしても、同条を適用して、右所持人に対し振出人をして手形上の責任を負担せしめ得ないものであることは、大審院判例(大審院大正・・・14年3月12日判決、同院民集4巻120頁)の示す所であって、いま、これを改める要はない。

原判決によれば、原審は、Yの経理部長Aの代理人であったBがその権限外であるにもかかわらず、右経理部長の記名印章を冒用して本件約束手形を振出し、その受取人であるCが、本件約束手形の交付を受けた当時、右Bにおいて何ら正当の権限なくしてこれを作成交付したものであることを十分察知して居ったものであるとの事実を認定して居る。

されば右判例の趣旨によれば、右認定の事実関係に下においては、本件約束手形の被裏書人であるXが、仮に所論の如く、右Bに、本件約束手形振出を代理する権限あるものと信ずべき正当の理由を有しておったとしても、Yは、Xに対し本件約束手形上の責任を負担しないものとなすべきである。」

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手形偽造と民法110条の類推適用・・・

最判22巻13号3382頁、判時546号90頁、判夕230号177頁

<事実の概要>

Aは、昭和34年から昭和35年頃にかけてB信用金庫より金融を受け、B宛ての約束手形を振出した際、当該手形に親族であるYの保証を得ていた。

この手形の書換に当ってYは、その都度実印をAに託し、保証契約締結ないし手形の振出しにつき代理権を与えていた。

Xも、Aに対して手形貸付の方法で金融を行なってきたが、XはAがBより金融を受ける際にYの保証を得ていたことを知っており、自らの貸付に際してもYからの保証を得ていた。

Xは、振出人Aら及びY(共同振出し)、受取人X、額面金70万円の約束手形を保有していたところ、昭和37年12月までの分割払いで返済すべき旨、そして分割払いを1回でも怠った場合は期限の利益を失う旨の準消費貸借契約を締結した。

しかし、支払期日に至ってもYが割賦金の弁済をしないとして、XがYに対して貸金返還請求を行なった。

これに対してYは、本件手形中、共同振出人とされているY名義の部分は、AがYの実印を勝手に使用して作成したものであるとして争った。

原審が、表見代理に基づくYの責任を肯定してXの請求を認容したため、Yが上告した。

<判決理由>上告棄却。

「本人から手形振出の権限を付与されていない他人が、手形上に自己の名義を表示することなく、直接に本人名義の署名または記名捺印を手形上にあらわす方式(いわゆる機関方式)により手形を振出した場合に、第三者において右他人が本人名義で手形を振出す権限があると信ずるについて正当な理由があるときは、本人は、右他人のなした手形振出しについてその責に任ずべきものと解するのが相当である。

けだし、前記の場合、機関方式による手形振出は、その形式においては、本人から手形振出しの権限を付与されていない他人が本人の代理人としての資格を表示して自ら署名または記名捺印をする方式(いわゆる代理方式)による手形振出しとは異なるけれども、右はいずれも無権限者による本人名義の手形振出しである点において差異はないところ、無権限者によりいわゆる代理方式による手形振出しがなされた場合には表見代理に関する規定の適用を肯定すべきものであるから、第三者の信頼を保護しようとする表見代理の制度の趣旨から実質的に考察すれば、無権限者が機関方式により手形を振出して本人名義の手形を偽造した場合においても、右表見代理に関する規定を類推適用し、代理方式による手形行為が無権限者により為された場合と同様の法律関係の成立を肯定するのが相当であるからである。

ところで、・・・Aは、Yから本件手形振出しの権限を付与されていないのに、本件手形の振出人欄に直接にYの名義を記載して本件手形を偽造したが、右は・・・AがYから付与されたBに対する手形振出等の代理権の範囲を超えてしたものであり、かつ、XはAにY名義で本件手形を振出す権限があると信ずるについて正当な理由があったというのであって、・・・原審の右認定はこれを是認することができる。

そして、手形偽造の場合においても表見代理に関する規定の類推適用があると解すべきことは前記のとおりであるから、・・・Yは、民法110条の類推適用により、本件手形について振出人としての責に任ずべきであると解するのが相当である。」

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手形の偽造と手形法8条の類推適用・・・

最判昭和49年6月28日(約束手形金請求事件)
民集28巻5号655頁、判時746号3頁、判夕311号130頁

<事実の概要>

Yは、振出人を「甲製作所代表乙」、受取人を自らが代表者であるA有限会社として、約束手形4通を振り出した。

本件手形は、AからXらに対し商品取引代金の支払または手形割引のためい裏書交付されたが、その際Yは、Aが振出人から商取引の代金決済のためにこれを取得したものである旨説明し、Xらも振出人と受取人とは別人であると考えて本件手形を取得した。

ところで、「甲製作所代表乙」とは架空人の名称であった。

Yが本件手形の振出人として上のような名称を使用したのは、受取人として記載されたAが、Xらに本件手形を裏書する際、第三者振出しのいわゆる商業手形であるかのように見せかけて、その信用を高めるためであった。

Xらは、Yに対し、次のように主張して手形金の支払を求める訴えを提起した。

第1に、振出人乙の名称はYの別名であるから、Yは振出人としての責任を負うべきである。

第2に、Yは架空人名義で手形を振出したものであるから、手形法8条に準じて、手形振出人の責任を負うべきである。

第1審、原審ともXの請求を認容したが、原審の理由は手形法8条の類推適用によるものであった。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「Yは、本件手形振出しにあたり、架空人である「甲製作所代表乙」名義を冒用したものであって、偽造手形を振出したものと認めるべきものであるところ、偽造手形を振出した者は、手形法8条の類推適用により手形上の責任を負うべきものと解するのが相当である。

けだし、手形法8条による無権代理人の責任は、責任負担のための署名による責任ではなく、名義人本人が手形上の責任を負うかのように表示したことに対する担保責任であると解すべきところ、手形偽造の場合も、名義人本人の氏名を使用するについて何らの権限のない者が、あたかも名義人本人が手形上の責任を負うものであるかのように表示する点においては、無権代理人の場合とかわりはなく、従って、手形署名を作出した行為者の責任を論ずるにあたり、代理表示の有無によって本質的な差異をきたすものではなく、代理表示をせずに直接本人の署名を作出した偽造者に対しても、手形法8条の規定を類推適用して無権代理人と同様の手形上の担保責任を負わせて然るべきものと考えられるからである。

そして、このように解すると、手形の偽造署名者に対しては、不法行為による損害賠償請求という迂遠な方法によるまでもなく直接手形上の責任を追及しえるし、また、手形偽造者が本来の手形責任を負うべき債務者として追加されることによって、善意の手形所持人は一層手厚く保護され、取引の安全に資することにもなるものと思われるのである。」

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