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取締役の注意義務違反行為と株主が直接取締役に対して損害賠償をすることの可否・・・
東京高判平成17年1月18日(損害賠償請求事件)
金判1209号10頁
<事実の概要>
A社は、肉食製品の加工製造販売等を業とする株式会社であり、Y1の子会社である。
Y1社が製造販売した乳製品を喫食した消費者に食中毒を発症する事故が続発したことを原因として、Y1社グループのブランドの信用が低下し、A社の販売する食製品の売上が減少し、その経営状態が悪化した。
その後、A社は、牛海綿状脳症の国内発生に伴う牛肉販売不振対策として立てられた救済買上制度を悪用して対象外の牛肉も対象牛肉であると偽って売却する牛肉偽装事件を起こし、これが発覚したため、販売する食製品の売上が極端に減少し、経営危機に陥った。
結局、A社は解散しその株式は無価値となった。
そこでA社の大株主であったXが、A社の代表取締役ないし取締役であったY5、Y6、Y7、B、C及びDは、法令を遵守して経営をするべき義務を怠った不法行為により、A社の牛肉偽装事件を発生させ、解散に至らしめたとして、これらの者に対して損害賠償を求める訴訟を提起した(なおXはY1社及びその取締役Y2ないしY5に対しても損害賠償を求めているが、ここでは省略する)。
第1審は請求を棄却した。
Xが、Y5ないしY7についてのみ判決を不服として控訴した。
<判決理由>控訴棄却。
「株式が証券取引所などに上場され公開取引がなされている公開会社である株式会社の業績が取締役の過失により悪化して株価が下落するなど、全株主が平等に不利益を受けた場合、株主が取締役に対しその責任を追及するためには、特段の事情がない限り、商法267条に定める会社に代位して会社に対し損害賠償をすることを求める株主代表訴訟を提起する方法によらなけらばならず、直接民法709条に基づき株主に対し損害賠償をすることを求める訴えを提起することはできないものと解すべきである。
その理由は(1)上記の場合、会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあること、(2)仮に株主代表訴訟のほかに個々の株主に対する直接の損害賠償請求ができるとすると、取締役は、会社及び株主に対し、二重の責任を負うことになりかねず、これを避けるため、取締役が株主に対し直接その損害を賠償することにより会社に対する責任が免責されるとすると、取締役が会社に対して負う法令違反等の責任を免れるためには総株主の同意を要すると定めている商法266条5項と矛盾し、資本維持の原則にも反する上、会社債権者に劣後すべき株主が債権者に先んじて会社財産を取得する結果を招くことになるほか、株主相互間でも不平等を生ずることになることである。
以上のことを考慮して、株式会社の取締役お株主に対する責任については、商法266条が会社に対する責任として定め、その責任を実現させる方法として商法267条が株主の代表訴訟等を規定したものと解すべきである。
そして、その結果として、株主は、特段の事情のない限り、商法266条の3や民法709条により取締役に対し直接損害賠償請求をすることは認められないと解すべきである。
また、株式が証券取引所に上場されるなどして公開され多数の株主が市場で株式を売買している公開会社においては、株主は、特段の事情のない限り、いつでも自由に市場において株式を処分することができるので、取締役の過失により株式会社の業績が悪化して株価が下落しても、適時に売却することにより損失を回避ないし限定することができるから、株主に個別に取締役に対する損害賠償請求を認める必要も少ない。
もっとも、株式が公開されていない閉鎖会社においては、株式を処分することは必ずしも容易ではなく、違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には、実質上株主代表訴訟の遂行や勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定し得るから、このような場合には、前記の特段の事情があるものとして、株主は民法709条に基づき取締役に対し直接株価の下落による損害の賠償をすることもできると解すべきである。」
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子会社管理に関する取締役の責任・・・
東京地判平成13年1月25日(損害賠償請求事件)
判時1760号144頁、金判1141号57頁
<事実の概要>
A株式会社の100%子会社であるB株式会社のさらに100%子会社であるC株式会社は、昭和56年、ニューヨーク証券取引所の会員となった。
ニューヨーク証券取引所は、平成2年8月8日、C社が米国証券取引委員会規則によって維持すべきとされる自己資本金額を維持せず、また不正確な定期報告書をニューヨーク証券取引所に提出したとして、同規則違反を理由にC社に対して18万米ドルの課徴金を課し、C社は同額を納付した。
さらに平成7年10月25日、ニューヨーク証券取引所は、同様の違反行為についてC社に対して100万米ドルの課徴金を課し、C社は同額を納付した。
A社の株主であるXらは、100%孫会社であるC社の損失はそのままA社の損失となるとして、A社の取締役であるYらに対して株主代表訴訟を提起した。
その理由として、Xらは、①A社にはC社がニューヨーク証券取引所に提出する定期報告書について提出前にYらの承認を取り付けなければならないとの内規が存在していたところ、Yらが証券取引委員会規則に違反した内容の定期報告書の提出に承認を与えたこと及び課徴金の支払を承認したことは、取締役の注意義務違反に当る、②仮にC社の経営をA社に報告すべき内規がなかったとしても、C社の営業規模から行っても、また、A社に及ぼす影響の大きさからいっても、A社取締役にはC社の経営を監視するためのA社の内規を制定すべき義務があったのであり、Yらはその義務の履行を怠ったと主張している。
<判決理由>請求棄却。
「親会社と子会社(孫会社も含む)は別個独立の法人であって、子会社(孫会社)について法人格否認の法理を適用すべき場合の他は、財産の帰属関係も別異に観念され、それぞれ独自の業務執行機関と監査機関も存することから、子会社の経営についての決定、業務執行は子会社の取締役(親会社の取締役が子会社の取締役を兼ねている場合は勿論その者を含めて)が行なうものであり、親会社の取締役は、特段の事情のない限り、子会社の取締役の業務執行の結果子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害を与えた場合であっても、直ちに親会社に対し任務懈怠の責任を負うものではない。
もっとも、親会社と子会社の特殊な資本関係に鑑み、親会社の取締役が子会社に指図するなど、かつ、親会社の取締役の右指図が親会社に対する善管注意義務や法令に違反するような場合には、右特段の事情があるとして、親会社について生じた損害について、親会社の取締役に損害賠償責任が肯定されると解される。」
以上の一般論を前提に裁判所は、次のように判示し、Yの責任を否定した。
「本件において、C社(及びB社)の法人格が濫用されているとしてこれを否認するに足りるXらの主張立証はない。」
「C社の会計処理のあり方やC社がニューヨーク証券取引所に提出する定期報告書の内容の決定についてYらがC社に指図をした事実並びにC社のニューヨーク証券取引所に対する違反事実の認定への同意及び課徴金の支払についてYらがC社に指図した事実は、いずれも認めるに足りない。
なお、Xらは、Aに本件内規が存在することを前提として、Yらが証券取引委員会規則に違反した内容の定期報告書に承認を与えたこと及び課徴金の支払を承認したことは、取締役の注意義務違反に当るとと主張するが、右承認が前記の「実質的に子会社の意思決定を支配した」と評価しうるかという点はさておいても、そもそも本件において本件内規の存在を認めるに足りる証拠は全くない。
また、XらはC社は実質的にはAの支店に過ぎないとして、C社がAに業務内容を報告していたと認めるべき旨主張するが、この点についての立証もない。」
「Xらは、YらにはC社の経営を監視するための内規を制定すべき義務があったのにこれを怠ったため、前記損害が生ずるに至った旨主張する。
しかしながら、Xらの主張の内規を制定すべき義務がYらに存することの法律上あるいは条理上の根拠についてXらは具体的な主張を行なわないのでこの主張も失当である。」
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取締役の会社に対する責任と寄与度に基づく賠償額の算定・・・
東京地判平成8年6月20日(損害賠償請求(株主代表訴訟)事件)
判時1572号27頁、金判1000号39頁
<事実の概要>
株式会社Aの株主Xは、A社が関税法・外為法所定の各手続を経ずにミサイルや戦闘機の部品を不正に売却・輸出し、罰金・制裁金の支払及び売上高の減少・棚卸資産の廃棄等の損害を被ったとして、取締役Y1~Y3の善管注意義務・忠実義務違反を主張し、株主代表訴訟を提起した。
A社は、昭和61年9月までの間戦闘機部品甲を、平成元年4月までの間修理済みミサイル部品乙を輸出した(乙子商品は昭和61年い不正輸入)。
Y1は、昭和61年6月にA社の代表取締役社長、翌年6月には代表取締役社長に就任し、同年9月に不正取引の報告を受けた。
Y2は昭和60年6月A社の取締役となった後、昭和61年11月に下請企業で偶然に乙の修理を現認して12月ころ不正取引を知った。
Y3は当初から甲及び乙の不正取引に関与しており、昭和61年6月に取締役に就任した。
米司法省は、平成3年に甲輸出を理由としてA社を刑事訴追し、A社は司法取引を行って24億円余を支払い、ライセンス供与停止処分を受けた。
A社はまた、通産大臣の許可を得ないでした甲・乙の不正輸出全体を理由として、通産省から全製品の輸出禁止処分を受けた。
これらに伴いA社は特別損失を計上した。
本件本案前の争点は、代表訴訟前の訴提起の請求における原因事実の特定性であり、本案争点は甲輸出を含めた取締役就任時点以降の法令違背行為に関する監視・監督責任の有無、甲輸出を理由の一部として生じた我が国行政処分等による損害とYらの関与の因果関係、及び責任額であった。
本案前の争点、米司法省の処分による損害およびY3の責任に関する判示は省略する。
<判決理由>一部認容、一部棄却。
「甲・・・は、・・・両被告(Y1,Y2)が右事件を知ったときには、既に不正取引は終了していた。
・・・取締役には会社に損害を及ぼすべき従業員の違法行為を発見し阻止する一般的な注意義務がある・・・。
しかし、本件甲の取引は取締役会の決裁事項や報告事項になっていなかった上に・・・秘密裡に進められていた・・・取引高、規模等において他の取引と比較して際立っているような事情も・・・認められない。
また、Y1・・・Y2の・・・就任後は、わずか3ヶ月間に4回の取引が行われているだけである。
・・・取締役に要求される通常の注意を払えば、本件不正取引を知る以前に、これを発見できたはずであるとまで断定することは困難である。
したがって、Y1及びY2は、甲の不正取引については、取締役としての善管注意義務・忠実義務懈怠の責を負わないというべきである。
・・・乙の不正輸出・・・を発見できなかったことをもって、取締役としての監督・調査義務を懈怠したものとまで認めるに足りる証拠はない。
・・・乙の不正輸出は、関税法及び外為法に違反し、会社に重大な不利益・損害を及ぼす蓋然性の高い行為であるから、右不正輸出を知りながらこれを阻止せず承認した両被告の行為が取締役の善管注意義務・忠実義務に違反することは明らかである。
確かに、両被告は既契約分で要修理品として輸入済みの乙に限って契約の履行を承認しただけで、不正輸出を積極的に支持したわけでも、取引の全てに責任を承認しただけで、不正輸出を積極的に支持したわけでも、取引の全てに責任を承認しただけで、不正輸出を積極的に支持したわけでも、取引の全てに責任があるわけでもない。
この点は・・・損害賠償責任の金額を定めるに当って考慮すべきであるが、取引を中止すればそれによるトラブルを避けられず、過去の不正輸出も露顕することになって会社が多大な損失を被る可能性があったとしても・・・右事情は、Yらの善管注意義務違反・忠実義務違反の判断に影響を及ぼすものではない。」
「A社は、・・・輸出禁止処分に伴う棚卸資産の廃棄損失・・・不祥事に伴うライセンスの一時停止により出荷不能となった棚卸資産の廃棄損失・・・をそれぞれの損害と因果関係のある通産省の処分については、・・・甲の不正取引が、理由の一部となっているが、・・・乙の不正輸出も右処分の理由となっている以上(右処分は一個で、理由毎に分割することはできず、かつ、乙の不正輸出の事実が、甲の不正取引と比べれば無視できるというほどの軽微であるともいえない)、Y1、Y2の有責行為と右処分との因果関係は否定されず(乙の不正輸出がなければ、これを理由の一部とする処分もない)、ひいては・・・損害との因果関係も否定されない・・・。」
「・・・棚卸資産の廃棄損については、Y1、Y2は、原因事実の一部にしか責任がなく、しかも、責任の認められる乙の不正輸出に対する関与の度合いも限定されたものである。
このような場合、条件的な因果関係が認められるからといって、生じた損害の全額について責任を負わせるのは酷であって、寄与度に応じた因果関係の割合的認定を行なうことが合理的であり、・・・2割・・・の限度でY3と連帯して責任を負うものと認めるのが相当である。
また、甲の不正取引と乙の不正輸出の両者について責任の認められるY3についても、取締役としての責任は全事実にわたるものではない点等を考慮し、・・・4割・・・について割合的因果関係を認めるのが相当である。」
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退任取締役による従業員の引き抜きと忠実義務・・・
東京高判平成元年10月26日(損害賠償等請求控訴事件、附帯控訴事件)
金判835号23頁
<事実の概要>
X株式会社の代表取締役Aは、昭和55年暮れ頃、Yに対し、経営多角化のためX社に設置する予定のコンピューター事業部の部長に就任して欲しい旨要請した。
Yは3年後に独立させる等言われたのでこれを承諾し、翌年4月に義弟のBをXに入社させ、5月にX社のコンピューター事業部長に就任した。
Yは、X社入社後、C、Dらを引き抜いて部の陣容を整え、社員のプログラマーやしシステムエンジニア等の人材を他の企業へ派遣して成果を挙げた。
Aは、Yの働きぶりを評価し、なお将来の活躍を期待して取締役への就任を要請し、昭和58年1月にYはX社の取締役に就任した。
しかし、同年6月ころX社の集中移転をめぐってAとYが対立し、Yは独立を決意して同月にB、C,Dらを集め、参加を呼びかけた。
Yは更に、同年9月にも部下3名を自宅に招き、同様に独立参加を勧誘した。
CがAにこの事を打ち明けると、Aは、Yの独立行動が刺激されてX社に混乱が生ずることを懸念し、直接Yに確かめずに急遽Yのコンピューター事業部長の職を解いて子会社Eの取締役兼技術部長として出向させた。
Yは出向後59年3月に退職した。
同年2月から3月にかけ、計9名の従業員がX社を退職した。
同年4月3日、Yほか退職者3名を含めた7名が発起人としてF社を設立し、取締役に就任した。
設立登記前後にX社を退職した残り6名がF社に雇用され、コンピューターソフト関係の業務を開始した。
X社は訴訟を提起し、Yが取締役としての忠実義務に違反したことによる損害(新人教育費用、7名の一斉退社による逸失利益及び信用低下による精神的損害)の賠償請求、Yの受け取った取締役報酬の不当利得返還請求を行なった。
Yは、X社がAのワンマン経営であって取締役会は形骸化しており忠実義務違反を問われることはない、Yの退社とその他従業員の退社には因果関係がない等と主張した。
原審は、7名の引き抜きに対する340万円の支払を命じた。
Yは控訴した。
控訴審は逸失利益の一部のみを認めた。
<判決理由>原判決変更、請求一部認容。
「プログラマーあるいはシステムエンジニア等の人材を派遣することを目的とする会社においては、この種の人材は会社の重要な資産というべきものであり、その確保、教育訓練等は、会社の主たる課題である・・・。
したがって、この種の業を目的とする株式会社の取締役が、右のような人材を自己の利益のためにその会社から離脱させるいわゆる引き抜き行為をすることは、会社に対する重大な忠実義務違反であ・・・る。」
「・・・G、H、Iは、退職の時期が同一であり、それぞれ退職の際の理由として挙げたことに反し、直ちにFに雇用されていること、Yが元上司であることに照らすと、特別の事情がない限り、YからB・・・と同様に勧誘を受けたものと推認され、右特別の事情を認めるに足りる証拠はないから、同人らも右勧誘に応じて退職したものと認められる。
しかし、・・・Jは・・・残り1年の学業の継続に確信を得ることができなくなり、・・・Kは、・・・A・・・が女子社員を全員辞めさせようという考えであると聞かされたことなどが重なってX社を退職する決意をするに至り、Lは、K・・・の件を聞いたり、自らは出向先・・・などを非常に苦痛に感じX社を退職する決意をするに至ったことが認められる。
そうすると、J、K、Lについては、Yの勧誘により退職したと認めることはできない。」
「Yは、・・・4名が退職したことによりX社が被った損害を賠償する義務を負うものである。」
「・・・プログラマー等・・・の従業員については必ずしも代替性がないわけではなく、Aは・・・Yが独立しようとして動きだしたことを聞知するや、昭和59年1月には他社から約8名を引き抜き、同年4月にも、5、6名を採用し、同年度のX社のコンピューター事業部としての利益は、前年度に比較して減少していないこと、この種従業員の新人教育には最低3ヶ月を要することが認められる。
・・・Bら・・・の退職後3ヶ月の期間があれば、X社のコンピューター事業部の体制は、元の状態に回復することが可能であったものというべく、右の期間の逸失利益をもって、右4名の引き抜きと相当因果関係にある損害と認める。」
「取締役が忠実義務に違反する行為をしたからといって、当然に報酬を受ける権利を失うものと解することはできない。
・・・X社は、右取締役在任期間中、専ら自己のために独立の計画を実現する行動をしていたと認めるに足りる証拠はなく、かえって、Yは、X社のコンピューター事業部長、後にはE社の技術部長を兼務し・・・部長としての職務に従事し成果を挙げていたこと、Yに対するX社からの報酬は、右部長の職務についての賃金部分と区別されていなかったことが前掲証拠により明らかであるから、このような事実関係のもとにおいては、Yの取締役の報酬を不当利得に当ると認めることはできない。」
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