スーパー・テナント関係に対する名板貸責任の類推適用・・・

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スーパー・テナント関係に対する名板貸責任の類推適用・・・

最判平成7年11月30日(損害賠償請求事件)
民集49巻9号2972頁、判時1557号136頁、判夕901号121頁

<事実の概要>

Xは、昭和58年2月、Yの経営するスーパーマーケットの屋上でペットショップを営んでいたテナントのZ(補助参加人)からインコ2羽を購入した。

ところが、このインコからオウム病クラミジアを保有しており、Xの家族がオウム病、さらにはオウム病性肺炎にかかり、家族の一人が死亡するに至った。

YとZのテナント契約では、(1)Zは、店舗の統一的営業方針等の理由からYの承諾した取扱品目(ペット)について営業するものとし、Yの承諾なしにこれを変更することができないこと、(2)Zの賃料の一部は売上額を基準とした変動賃料であり、YがZの売上金を毎日管理し、これから賃料、共益費その他の諸経費を控除してZに返還するという方法で支払われていたこと、(3)Zは、営業時間、商品物品の搬入搬出等の日常の営業行為又はその付随行為につき、Yの定める店内規則を遵守すること等が定められていた。

昭和58年当時、Yの本件店舗ではZを含めて約12のテナントが入っていた。

Y経営部分とテナントであるZとは、顧客案内用の館内表示板の表示の文字の色や、販売方式、制服や名札の有無、包装紙やレシートなどが異なっており、テナントの賃借部分の前に天井からテナント名を書いた看板が吊り下げられていた。

また、本件店舗の外部には、Yの商標を表示した大きな看板が掲げられており、テナント名は表示されていなかった。

そこでXはYに対して、前商法23条の名板貸人としての責任を主張し、損賠賠償を請求した。

第1審(横浜地判平成3・3・26)は、Zの営業がYの営業に組み込まれ、その一部となっているかのような外観を呈しているとして前商法23条を類推してYの責任を肯定した。

控訴審(東京高判平成4・3・11)では、Yにおいて、「買い物客が誤認をするのもやむを得ない外観を作出し、あるいは、Zがそのような外観を作出したのを放置、容認していたものと認められる場合で、しかも、Yに商法23条にいう商号使用の許諾と同視できる程度の帰責事由が存すると認められるとき」に前商法23条の類推は可能であるが、本件ではそのような外観はなかったとして、Yの責任は否定された。

Xは上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

「Zの売り場では、Y直営の売り場とは異なり、独自のレジが設けられて対面販売方式が採られていたが、Zの取扱商品であるペットは、その性質上、スーパーマーケット販売方式になじまないものであって、仮にYがそれを販売するにしても、対面販売の方式が採られてもしかるべきものといえるから、このことから買い物客が営業主体を外観上区別することができるとはいえない。

Zの従業員はYの制服等を着用していなかったが、営業主体が同一の売り場であっても、その売り場で取り扱う商品の種類や性質によっては、他の売り場の従業員と同一の制服等を着用していないことは、世上ままあり得ることであって、このことも買い物客にとって営業主体を外観上区別するに足りるものといえない。

Zの発行するレシートにはZの名称が記載されていたが、レシート上の名称は、目立ちにくい上、買い物客も大きな注意を払わないのが一般的であって、営業主体を区別する外観としての意味はほとんどない。

ZはYと異なる包装紙や代済みテープを使用していたが、これらは買い物客にとってはYの包装紙等と比較して初めて判明する事柄であって、両者の営業を外観上区別するに足りるものとは言い難い。

Zの売り場の天井からはテナント名を書いた看板が吊り下げられており、また、本件店舗内数箇所に設けられた館内表示板には、テナント名も記載され、Yの販売する商品は黒文字で、テナント名は青文字で表示されていたが、天井からの看板は、横約40センチメートル、縦約30センチメートルという大きさからして、比較的目立ちにくいものといえるし、館内表示板は、テナント名のみを色で区別して記載しているにすぎないから、買い物客に対し営業主体の区別を外観上明らかにしているものとまで言い得ない。

してみれば、これら事実は、これを個々的にみても、また総合してみても、買い物客にとって、Zの売り場の営業主体がYでないことを外観上認識するに足りる事実ということはできない。

以上によれば、本件においては、一般の買い物客がZの経営するペットショップの営業主体はYであると誤認するのもやむを得ないような外観が存在したというべきである。

そして、Yは、前記・・・のように本件店舗の外部にYの商標を表示し、Zとの間において、・・・出店及び店舗使用に関する契約を締結することなどにより、右外観を作出し、又はその作出に関与していたのであるから、Yは、商法23条の類推適用により、買い物客とZとの取引に関して名板貸人と同様の責任を負わなければならない。」

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事業譲渡と労働契約関係・・・

大阪高判昭和38年3月26日(仮の地位を定める仮処分事件)
高民16巻2号97頁、判時341号37頁、労民14巻2号439頁

<事実の概要>

Y株式会社は、鉄鋼材・鉄鋼2次製品の売買等を営む商業部門、及び、港湾運送・回漕陸運荷役等の事業を営む運輸部門からなる会社であった。

Xは、昭和36年5月11日、Y社の運輸部門に雇用されたが、同年7月29日、体格等が作業員として適当でないことを理由として解雇の意思表示がなされた(第1の解雇)。

Xは、かかる解雇を無効としてY社の従業員としての仮の地位を定めることを求める仮処分を申請し、原判決(神戸地裁姫路支判昭和36・12・13労民集12巻6号1055頁)は、上記の解雇は、Xが共産党員ないしその同調者であることを理由とするものであるから、労働基準法第3条に反し無効であり、XはY社の従業員たる仮の地位を有すると判示した。

ところでY社は、昭和34年の港湾運送事業法改正により港湾運送事業が登録制から免許制とされたことに伴い、経営の都合上、運輸部門を分離独立することとし、同部門に関する営業設備資材得意先などの営業組織一切を新たに設立する会社(A株式会社)に譲渡するとともに、同部門の従業員は現職現給のまま新会社に承継させることとした。

Y社の上記の計画は昭和36年1月16日の臨時総会で承認され、昭和37年1月25日頃、労働組合はこれを了承し、従業員も異議なくこれに同意した。

そこでY社は運輸部に関する営業を新会社に譲渡すると共に従業員との間の雇用関係を同年1月31日かぎり終了し、翌2月1日付けで新会社に引き継いだ。

Y社は、Xに対しては、原仮処分判決に基づく取扱をなしてきたが、運輸部の廃止に伴う上記の取扱については通知をしなかった結果、Xからは何の申出もなく、Y社はXに対し、運輸部が廃止されたことを理由に、昭和37年3月27日付書面をもって解雇の意思表示をなし(第2の解雇)、Xが予告手当の受領に応じなかったので、これを供託した。

Xは、Xの職場がなくなったことを理由とする第2の解雇は、第1の解雇の目的を達成するための一方法たるに過ぎず、Xの思想信条を理由としてXに不利益な別異な取扱をなすものであり、無効というべきであると主張している。

本判決は、原判決同様、第1の解雇はXの思想信条を決定的理由としてなしたものであって労働基準法第3条に違背し無効であるとした上で、第2の解雇について以下のように判示した。

<判決理由>原判決取消、申請却下。

「営業は主観的観察においては商人の継続的な営利活動を意味するが、客観的に観察すると、証人の一定の営業のための組織的一体としての機能的財産であり、現代の企業においては、この組織化された機能的財産は、これに企業に組み入れられた労働者の労力が結合して、一体的な有機的組織体を構成している。

・・・企業に従属する労働者は、特定の企業所有者あるいは企業経営者に対して労働を提供するというよりは、むしろ企業自体に奉仕する人格的存在である。

ところで企業の譲渡は、前述の客観的意味における有機的組織体としての機能的財産の移転を目的とする債権契約であり、その履行によって譲受人がその営業の主体となるものと理解されるのであるが、その動機は企業自体が一個の経済的価値を有するものとして取引の対象性を有するところであり、その経済的価値は企業の有機的一体性を害しないで行なわれるところに維持発現される。

(企業の経営組織が縮小変更されることなく譲渡される場合、集団的労働関係もそのままの状態で新主体に承継されるか又は承継されるのと同様の措置が採られるのが一般的あり、)この労働関係を承継存続させることは企業が社会的公共的要請に応えるゆえんでもある。

・・・(企業譲渡に際し労働契約関係が承継存続される旨を定めた一般的規定は存しないが、)特殊的な例証として船員法第43条がある。

すなわち、船舶所有者の変更(相続、会社の合併その他包括承継の場合を除く)があったときは、船員の雇入契約は当然終了し、この終了の時から船員と新所有者との間に従前と同一条件の雇入れ契約が存するものとみなされる。

・・・又商法第103条によれば、企業組織の変更を伴わない会社の吸収合併、新設合併の場合、存続又は新設の会社は、合併によって消滅した会社の権利義務を承継するものであるから、労働契約関係も当然承継移転する。

この場合は地位の包括承継であるのであるが、企業組織の変更を伴わない企業主体の変更の一場合であることが着眼さるべきであろう。

以上述べてきた労働契約の組織法的性格を基底において労働問題の円満な解決という企業への社会的要請、船員法にみられる一つの前駆的法解決、包括承継の場合における商法の規定等をかれこれ考察すると、企業の経営組織の変更を伴わないところの企業主体の交替を意味するがごとき企業譲渡の場合においては、その際に付随的措置として労働者の他の企業部内への配置転換がなされるとか、その他新主体に承継せしめない合理的な措置が採られる等と件の事情のないかぎり、従前の労働契約関係は当然新企業主体に承継されたものと解するのが相当である。

右労働関係の当然承継がなされる場合には、それが集団的性質を有することに鑑み、労働者の個々的同意を必要とせず、直ちにその効力を生ずると解するのが相当である。(民法625条の修正理論)

かような場合に右の如く解しても、特段の事情なきかぎり、一般には労働者にとってなんらの不利益をもたらすものではないからである。

しかし、もし、特定の労働者が企業の譲受人との間に労働関係の継続を欲しないならば、新主体に対し退職を申し入れ、即時解約をなすことができると解すべきである。(船員法第43条第2項は、船員に新船舶所有者との間に存するものとみなされる雇入れ契約について解除権を与えている。)

試用工は、はじめから本工に採用されることを予定して雇い入れられるもので、試用期間というのはその間に本工とするにふさわしい適格を有するかどうかをテストするためのものであるから、以上述べたところは試用工についても異ならない。」

本件の事実によると「Y社は昭和37年1月31日運輸部を廃止し、部門に関する企業を包括的に新会社たるA社に譲渡し、その従業員について新会社に承継させない等格別の措置がとられたものと認めるべきである。

そしてXは第1の解雇が無効である以上Y社の企業譲渡の当時Y社の運輸部における従業員たる地位を有していたものというべきであるから、Xの右従業員たる地位も他の従業員と同様右企業譲渡により当然新会社に承継せられたといわなければならない。

もっとも・・・新会社においてXの採用拒否あるいは就労拒否が予想せられるけれども、これは別途に争われるべきで、このことのゆえをもって、XとY社との雇用関係ないし労働関係が前記のとおり既に終了したことの認定を左右するものではない。

またY社がした前記第2の解雇は、すでに従業員ではないものに対する解雇の意思表示であって、なんの効力も生じないが、その無効は本件の判断にいささかも影響を与えるものではない。」

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事業譲渡と商号の続用・・・

最判昭和38年3月1日(約束手形金請求事件)
民集17巻2号280頁、判時336号37頁

<事実の概要>

米穀その他の食料品及び薪炭類の販売を目的としていたA有限会社(有限会社米安商店)は、昭和31年の9月から10月にかけて、約束手形を5通合計75万円を、Bに振り出した。

BはこれをXに裏書譲渡し、Xはこれらの手形を支払期日に支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。

A社は、支払期日に先立つ昭和31年11月26日に解散し、その営業はY合資会社(合資会社新米安商店)に譲渡されていた。

Y社はA社に従業員・器具・社屋を引き続き使用し、A社と同様の主要食料及び薪炭類の小売販売業を営んでおり、またさらに主要食料販売に関して、その登録官庁に対し、従前のA社の主要食料販売に関する一切の債権債務をY社が承継した旨の届書を提出していた。

そこで、XがY社に対して、手形金を請求したのが本件である。

Xは第1審ではY社が「合資会社新米安商店」の商号を使用しているのは、A社の「有限会社米安商店」の商号を続用するものであるから、前商法26条1項に定める責任を負うことも合わせて主張した。

第1審、控訴審ともXの請求は認容された。

特に控訴審では営業譲渡の事実を認定した上で、「有限会社米安商店」と「合資会社新米安商店」とでは会社の種類を異にし、かつ「新」という継承的字句がくわえられたのみで、商号の主体部分とみられる「米安商店」には変動がないのであるから、前商法26条の関係では商号の続用と認められる、とした。

Y社は上告した。

<判決理由>破棄自判、請求棄却。

「会社が事業に失敗した場合に、再建を図る手段として、いわゆる第二会社を設立し、新会社が旧会社から営業の譲受を受けたときは、従来の商号に「新」の字句を附加して用いるのが通例であって、この場合「新」の字句は、取引の社会通念上は、継承的字句ではなく、却って新会社が旧会社の債務を承継しないことを示すための字句であると解される。

本件において、Y社の商号である「合資会社新米安商店」は営業譲渡人であるA社の商号「有限会社米安商店」と会社の種類を異にしかつ「新」の字句を附加したものであって、右は商法26条の商号の続用にあたらないと解するのが相当である。」

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ゴルフクラブの名称を継続使用したゴルフ場の事業譲受人と預託金返還義務・・・

最判平成16年2月20日(預託金返還請求事件)
民集58巻2号367頁、判時1855号141頁、判夕1148号180頁

<事実の概要>

A株式会社は「淡路五色リゾートカントリー倶楽部」(A社の商号とは異なる)という名称の預託金会員制ゴルフクラブが設けられているゴルフ場を経営していた。

Y株式会社はA社から本件ゴルフ場の経営を行なっていた。

Xは平成元年8月、A社に1300万円を預託してゴルフクラブの正会員の資格を取得した。

平成12年6月A社に対し預託金返還請求の別訴を提起し、同年8月に認容された別訴判決による民事執行は不能であった。

そこでXは、Y社が本件ゴルフクラブの名称を継続して使用していることから、前商法26条1項の類推により本件預託金の返還義務を負うべきであると主張して、Yに対し預託金の返還を求める本件訴訟を提起した。

第1審(神戸地判平成13年7月18日)はXの請求を認容したが、控訴審(大阪高判平成13年12月7日)は次のように述べてXの請求を棄却した。

すなわち、預託金の返還はゴルフクラブからの退会に伴う清算手続きの一環であるが、会員の信頼の拠り所となるのは商号によって表象される経営主体であって、当該クラブの名称によって表象されるブランドではないとして、ゴルフクラブの名称の続用をもって前商法26条を類推の基礎とすることはできないとした。

Xは上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

「預託金会員制ゴルフクラブが設けられているゴルフ場の営業においては、当該ゴルフクラブの名称は、そのゴルフクラブはもとより、ゴルフ場の施設やこれを経営する営業主体をも表示するものとして用いられることが少なくない。

本件においても、前記の事実関係によれば、Aから営業を譲り受けた被上告人は、本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしているというのであり、同クラブの名称が同ゴルフ場の営業主体を表示するものとしてもちいられているとみることができる。

このように、預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の営業の譲渡がされ、譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには、譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会員において、同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり、営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引き受けがされたと信じたりすることは、無理からぬものというべきである。

したがって、譲受人は、上記特段の事情がない限り、商法26条1項の類推適用により、会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当である。」

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