競売による譲渡制限株式の取得 会社に対して株主としての地位を有する者・・・

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競売による譲渡制限株式の取得 会社に対して株主としての地位を有する者・・・

最判平成9年9月9日(損害賠償請求事件)
判時1618号138頁、判夕955号145頁、金判1036号19頁

<事実の概要>

A株式会社においては定款上株式譲渡については取締役会の承認が必要とされていた。

Xは同社の株主名簿には株主として記載されていたが、実際にはその株式はBが競売によって取得していた。

XからA社に対し株主としての地位確認請求訴訟が提起され、第1審・原審ともにX敗訴を受けてXから上告。

原審判決後、訴訟継続中に開催されたA社株主総会でCに対し特に有利な発行価額で新株の第三者割当がなされることが決議された。

上記株主総会の招集通知はXに対して行われなかったが、もしXが株主総会に出席して議決権を行使していれば、上記新株発行に要する決議は成立しなかった可能性があった。

その後Xが提起していた上記地位確認請求訴訟はXの請求を認容する上告審判決が出ている。

本件はXらがA社の取締役Yに対し、本件新株発行はYの会社支配確立を目的とした著しく不公正な方法によってなされたものであり、Xに対する本件株主総会の招集通知も欠けていたことを理由として、本件新株発行により被った損害賠償を求めたものである。

原審は、本件新株発行がされた当時、XがA社に対する関係で株主としての地位を有することの確認を求める前訴につき請求を棄却すべきものとする控訴審判決が言渡されており、Yらは、同判決の確定を待っていたのでは業務の迅速性、機動性が妨げられてA社に不測の損害を生ずることを憂慮して、本件新株発行を行ったのであって、Xに対する本件株主総会の招集の通知を欠いたままその決議に基づき本件新株発行がされたことについて、Yらに悪意又は重大な過失による職務上の義務違反があったとはいえないなどとして、Xらの請求を棄却した。

Xらは上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

Xが前訴の口頭弁論の終結時である本件株主総会開催の直前ころにA社に対する関係で株主としての地位を有していたことは、前訴の判決によって確定しており、本件においてはその後本件株主総会が開催されたころまでにXの右地位に変更が生じたことはうかがわれないところ、定款上株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の制限の付されている会社において株式の譲渡等がされた場合には、会社に対する関係でその効力の生じない限り、従前の株主が会社に対する関係ではなお株主としての地位を有し、会社はこの者を株主として取り扱う義務を負うのであるから・・・、A社の取締役であるYらは、Xを株主として取り扱い、本件株主総会の招集に先立って、前訴においてXの株主としての地位の確認請求を棄却すべきものとする控訴審判決が言渡されていたが、右判決は、その確定を待って、初めて実体法上の権利義務関係についての効力を生ずるのであって、確定にいたるまでは、会社の負う前記義務に消長を来すことはない。

また、仮に当時本件新株発行を早期に行う必要性が存在したとしても、株主に対する株主総会の招集の通知が会社の意思決定に関して有する意義が前記のとおりであることに照らし、取締役における事務処理上の便宜のいかんによって、右通知を行う義務が免除されることはあり得ない。

してみると、これらの事情は、Yらに職務上の義務違反がありこれにつき悪意又は重大な過失をあったとすることを妨げるものではないというべきである。」

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従業員持株制度と退職従業員の株式譲渡義務・・・

最判平成7年4月25日(株券発行請求事件)
民集175号91頁

<事実の概要>

Y株式会社の定款には株式譲渡制限の定めがあり、また従業員持株制度を採用していた。

XらはいずれもY社の従業員であり、Y社株式を額面金額(1株50円)で取得し、その際にY社との間で退職の際には従業員持株制度に基づいて取得した株式は額面金額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の合意をした。

その後、Y社の営業担当従業員23名のうちXらを含む12人がいっせいに退職し、Y社は混乱等からXらの退職に伴う上記株式譲受人を取締役会では直ちに指定せず、Xらの退職後約2年後に譲受人としてA(Y社代表取締役の子)を指定し、Aは買受の意思を明らかにしてその代金額を供託した。

Xらは本件合意は株式譲渡自由の原則及び公序良俗違反であるとして無効を主張し、Y社に対して株券発行を求めた。

原審は株式譲渡自由の原則は会社と株主との間で個々に締結される契約の効力について直接規定するものではないこと、また公序良俗違反か否かについては従業員は相当程度の配当を受けることができY社の従業員持株制度は従業員の財産形成にそれなりに寄与するものであり、売渡価格が額面金額で固定されているとはいえ本件合意が直ちに投下資本の回収を著しく制限する不合理なものとまでは言えないとしてXらの訴え棄却。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「本件合意は、商法204条1項に違反するものではなく、公序良俗にも反しないから有効であり、Y社の取締役会が、本件合意に基づく譲受人としてAを指定し、同人が買受の意思を明らかにしたことにより、XらはY社の株式を喪失したとして、株券の発行を求めるXらの請求を棄却すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

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略式質の効力・・・

東京高判昭和56年3月30日(供託金等還付請求権確認並びに質権確認等請求控訴、同附帯控訴事件)
高民34巻1号11頁、判時1001号113頁、判夕451号144頁

<事実の概要>

X銀行はAに対して貸金債権を有しており、その担保としてAの所有するB株式会社の株式につき略式質の方法により質権の設定を受け、その株券の交付を受けて占有していた。

YはAに対する租税債権について国税徴収法に基づく滞納処分により本件株式に対する差押をなし、その株式に対するXの直接占有を解いて自ら直接占有し、以後XはYを占有代理人として間接占有をしていた。

その後AはB社の新株等交付請求権を取得した。

Xは本件株式に対する質権に基づき、上記のAのB社に対する請求権について仮差押をし、Yは租税債権による国税徴収法に基づく滞納処分により上記請求権に対して差押をなした。

B社はXの質権とYの租税債権との優劣を決しがたく、請求権の目的物たる株式を法務局に供託した。

<判決理由>控訴・附帯控訴棄却。

「「略式質権とは、広義の株主の権利のうち基本権たる株式自体を目的とする質権であり、そのような株式自体の有する交換価値のみから被担保債権の優先弁済を受けることを内容とする質権であるというべきである。」

「商法第208条所定の物上代位の目的とされている親株又は旧株主の各種の権利は、厳格な意味では基本権たる株式自体ではないが、しかし、それらはいずれも、基本権たる親株又は旧株自体の消滅、変容、移転等に伴って発生する権利であって、いわば基本権たる親株又は旧株自体の変形物たる権利であるというべきであるから、それらの権利は、本来、基本権たる親株又は旧株と同様に、親株券又は旧株券に表章され、その株券と運命を共にすべき権利であり、従って、親株券又は旧株券の呈示ないし提出を必要とすべきものと考えられる。」

「従ってまた・・・親株又は旧株の質権者が親株主又は旧株主の取得する新株等交付請求権について質権を主張するための会社及び第三者に対する対抗要件としては、親株又は旧株の株券の占有で足り、それ以上に右新株等交付請求権自体について民法第350条、第304条第1項但書所定の差押をする必要は全くないというべきである。」

「準備金の資本組入による新株の発行の場合における新株等交付請求権についても、親株の質権者がその請求権につき質権を主張するための会社及び第三者に対する対抗要件は、その他の場合における新株等交付請求権についてと同様に、その請求権自体についての差押を要せず、親株券の占有のみで足りると解するのが相当である。」

「しかし、」「準備金の資本組入による新株の発行の場合における新株等交付請求権については、現行法上、親株主がその権利を行使する要件としては、会社に対し親株券を呈示ないし提出することは必要とされておらず、むしろ、株主名簿上の記載を基準として新株(新株券)又は金員が交付されることになっている以上、親株の質権者が右新株等交付請求権について質権を実行する以前に、新株等が株主名簿上の株主に交付され、その株主の一般財産に混入してしまえば、右新株等交付請求権も消滅するに至ることは認めざるを得ないから、そのような場合には、親株券を継続して占有している親株の質権者であっても、もはや右新株等交付請求権について質権を実行することは不可能になるといわなければならない。

そこで、そのような事態が発生するのを防止するためには、新株等株主名簿上の株主に交付され、その株主の一般財産に混入する以前に、右新株等交付請求権について差押をなし、その権利を保全する必要があるというべきである。

しかしながら、この差押は、あくまでも右のような事態が発生するのを防止するための手段であるにすぎず、右新株等交付請求権について質権を主張するための会社及び第三者に対する対抗要件としての性格を有するものではないというべきであるから、その差押は必ずしも他の債権者による差押に先立ってなすことを要せず、また、その差押のためには債務名義も要しないと解すべきである。」

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100%子会社による親会社株式の取得と親会社取締役の責任・・・

最判平成5年9月9日(取締役の責任追及請求事件)
民集47巻7号4814頁、判時1474号17頁、判夕831号78頁

<事実の概要>

A株式会社はB株式会社を吸収合併し、中心事業の転換をはかるとともに株主の安定化をはかろうとした。

これに対し、A社株式の発行株式総数の約25%を保有していたCが上記合併は自己の持分比率の低下をもたらすという理由で合併反対の意思を表明した。

AC間の交渉を経て、A社はその100%出資子会社であるD株式会社に対し、C所有の株式を同人の要求する価格で買取った上、A社の関連会社にCからの買入価格より低い価格で売り渡すことを指示し、D社は上記指示に従い、Cとの間で本件株式について代金を82億円余とする売買契約を締結し、契約と同時に株券の引渡しを受け、代金全額を支払い、その後本件株式を複数のA社の関連会社に対して代金合計46億円余で売り渡した。

差損はD社が負担し、他方AB間の合併も成立した。

その後、A社の株主となったXがD社による本件株式の買取は自己株式取得を禁止した前商法210条に違反し、その結果として差損額35億円余りが生じたとして、上記買取り当時A社の取締役であったYらに対しA社への賠償を求めて株主代表訴訟を提起した。

第1審・原審ともにYら敗訴。

原審は本件株式買取が前商法の禁ずる自己株式取得であることを理由とした判示であった。

また原審ではYは本件株式買取により合併が実現したことによりA社に利益が生じており損益相殺の対象となる旨主張したが原審は否定した。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「甲株式会社が同社の全ての発行済み株式を有する乙株式会社の株式を取得することは、商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)210条に定める除外事由のある場合を除き、同条により許されないものと解すべきである。

けだし、このような甲株式会社による乙株式会社の株式の取得は、乙株式会社が自社の株式を取得する場合と同様の弊害を生じるおそれがある上、このような株式の取得を禁止しないと、同条の規制が右の関係にある甲株式会社を利用することにより潜脱されるおそれがあるからである。」

本件の「事実関係によれば、D社の資産は、本件株式の買入価格82億1500万円と売渡価格46億6340万円との差額に相当する35億5160万円減少しているのであるから、他に特段の主張立証のない本件においては、D社の全株式を有するA社は同額に相当する資産の減少を来たしこれと同額の損害をうけたものというべきである。

また、A社の受けた右損害とD社が本件株式を取得したこととの間に相当因果関係があることも明らかである。

したがって、本件株式の取得によりD社が35億5160万円の損害を受けたとする原審の判断は、結論において是認することができる。」

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