違法な自己株式取得による取締役の対会社責任と損害額の算定・・・

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違法な自己株式取得による取締役の対会社責任と損害額の算定・・・

大阪地判平成15年3月5日(株主代表訴訟事件)
判時1833号146頁、判夕1152号247頁、金判1172号51頁

<事実の概要>

非上場のA株式会社はB株式会社の依頼を受けてB社保有のA社株式5万8000株を約11億円で平成10年4月に取得した。

A社を代表してこの自己株式取得を行った代表取締役Y1、取締役会で自己株式取得決議に賛成したY2・Y3に対して、A社株主Xより本件自己株式取得は平成13年改正前には認められていなかった保有目的(いわゆる金庫株目的)による自己株式取得であって、平成10年施行の前商法210条に違反しており、A社に取得代金相当額の損害が生じているとして、前商法266条1項5号に基づくYらの責任を追及する株主訴訟が提起された。

判決では本件自己株式取得は消却目的でなされたものとは言えず、違法な自己株式取得であると認定がなされた上で、取締役YらがA社に負う損害賠償額について検討がなされた。

<判決理由>請求一部認容。

「Y社が本件自己株式の取得により被った損害額(すなわち、本件自己株式の取得と相当因果関係のある損害額)は、本件自己株式の取得価額から取得時点における本件自己株式の時価を減算した額である。」

「Xは、本件自己株式の取得は無効であるから、・・・本件自己株式取得の取得価額・・・全額が損害となる旨主張するけれども、・・・これを採用することはできない。

平成10年施行商法も、・・・自己株式を取得した営業年度の終わりにおける貸借対照表の純資産額が、同法290条1項各号の金額の合計額から上記自己株式の時価の合計額を控除した額を下回るとき、自己株式を買い受けた取締役が会社に対して損害賠償責任を・・・負う法定の損害額について、(ア)その差額又は(イ)上記自己株式の取得価額の総額から既に処分した自己株式の価額の総額及び未だ処分しないで保有する自己株式の時価の合計額を控除した全額の、いずれか少ない額とする旨定めるなど、会社が保有する自己株式が資産であることを前提とする規定を設けていた。」

「(なお、平成13年・・・改正後の商法210条の2第2項は、取締役が賠償責任を負う法定の損害額の算出に当たり、取得した自己株式の取得価額の総額から未だ処分しないで保有する自己株式の時価を控除することを認めていないが、・・・既に確定していた本件自己株式の取得による損害額に影響を及ぼすものではない。)」

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第三者に対する新株の有利発行と株主総会決議の瑕疵・・・

最判昭和46年7月16日(新株発行無効確認請求事件)
判時641号97頁、判夕266号177頁

<事実の概要>

Y株式会社は、昭和42年9月8日の臨時株主総会において新株の発行価額を1株115円として、A証券会社に買取り引受させる旨の決議を行い、同日、A社との間で買取り引受契約を締結した。

これに対して、Y社株主であるXは、本件新株の発行は特に有利な発行価額をもって第三者であるA社に対してなされたものであると主張して、新株発行無効の訴えを提起した。

すなわち新株の発行価額は、取締役会決議日前日の東京証券取引所におけるY社株式の取引価額によるべきであり、発行価額は少なくとも1株133円をもって公正な価額というべきである、というのである。

第1審は、原告の請求を棄却した。

原審も、本件新株の発行価額の決定にかかる事情を詳細に認定し、115円という発行価額が特に有利な発行価額であるとはいえないとして、Xの控訴を棄却した。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもって発行されたものであっても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。」

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新株発行事項の公示の欠缺(けんけつ)・・・

最判平成9年1月28日(新株発行不存在確認、新株発行無効請求事件)
民集51巻1号71頁、判時1592号134頁、判夕931号185頁

<事実の概要>

Y社株式会社は、昭和63年5月23日、新株発行を行う旨の取締役会決議を行い、同年6月15日、当該新株発行にかかる払込が行われた。

だが、この新株発行については、以下の事情が認められた。

第1に、Y社株主に対する通知が行われず、また公告もなされていない(1)。

第2に、本件取締役会開催に際して、取締役の一部に開催通知が行われておらず、その取締役は本件取締役会に出席していない(2)。

第3に、Y社においては、かねてより代表取締役Aの経営に対して一部取締役から不満が出ており、これに対して本件新株発行は、Aが自己のY社における支配権を確立するためになされている(3)。

そして第4に、新株発行にかかる払込金は、早期にその拠出者の経営する会社に貸し付けられているほか、Aを支持する従業員に支払われており、Y社の資本の充実に資するものではなかった(4)。

これに対して、Y社株主Xは新株発行無効の訴えを提起した。

第1審、原審とも、以上の事情のうち、第1、第2の手続的瑕疵をもってしては本件新株発行は無効とならないとしたが、第3、第4の瑕疵をとらえてこれを無効とした。

Y社が上告した。

<判決理由>上告棄却。

「会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであっても有効であるから(最高裁平成・・・6年7月14日第一小法廷判決・裁判集民事172号771頁参照)、右(3)の点は新株発行の無効原因とならず、また、いわゆる見せ金による払い込みがされた場合など新株の引き受けがあったとはいえない場合であっても、取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるから(同法280条の13第1項)、新株発行が無効となるものではなく(最高裁昭和・・・30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号511頁参照)、右(4)の点も新株発行の無効原因とならない。」

「しかしながら、新株発行に関する事項の公示(同法280条の3の2に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法280条の10)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成・・・5年12月16日第一小法廷判決・民集47巻10号5423頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止の事由がないためいこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり、右(3)及び(4)の点に照らせば、本件において新株発行差止請求の事由がないとはいえないから、結局、本件の新株発行には、右(1)の点で無効原因があるといわなければならない。」

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買取引受けと不公正発行価額・・・

最判昭和50年4月8日(株主代位請求事件)
民集29巻4号350頁、判時778号22頁、判夕324号119頁

<事実の概要>

A株式会社は、昭和35年8月24日の取締役会において、新株1690万株を発行し、そのうち150万株については公募する旨の決議を行った。

さらに、昭和36年1月9日の取締役会において、公募分150万株につき、1株320円の発行価額、引受手数料を1株につき9円として、Y証券会社らに買取引受けさせる旨の決議を行い、同日、買取引受契約が締結された。

なお、この日におけるA社株式の東京証券取引所での引値は、1株370円であった。

Xは、A社の株主であるが、以下のように主張して、Y社らに対し、前商法280条の11に基づく通謀新株引受人の責任を追及する代表訴訟を提起した。

すなわち当該買取引受契約は、第三者であるY社らに新株引受権を与えるものであるところ、引受手数料を差し引いた実質引受価額1株311円は、時価よりも59円も低い著しく不公正な価額である、というのである。

第1審、原審とも、買取引受契約がY社らに新株引受権を与えるものであることは認めたが、本件新株の発行価額は「著しく不公正な価額」ではないとして、Xの訴えを棄却した。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「ところで、普通株式を発行し、その株式が証券取引所に上場されている株式会社が、額面普通株式を株主以外の第三者に対していわゆる時価発行をして有利な資本調達を企図する場合に、その発行価額をいかに定めるべきかは、本来は、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めるべきものであり、この見地からする発行価額は旧株の時価と等しくなければならないのであって、このようにすれば旧株主の利益を害することはないが、新株を消化し資本調達の目的を達成することの見地からは、原則として発行価額を右より多少引き下げる必要があり、この要請を全く無視することもできない。

そこで、この場合における公正発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、右株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済み株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。」

「本件についてみるに、・・・A社発行にかかる本件新株・・・の発行価額は、本件新株を買取引受の方式によって引き受けた証券業者であるY社らが昭和36年1月7日にA会社に対して具申した意見に基づき、同月9日の取締役会において右意見どおり決定されたものであるところ、右意見は、具申の前日である同月6日の終値365円、前1週間(昭和35年12月26日から昭和36年1月6日まで)の終値平均359円17銭、前1ヶ月(昭和35年12月7日から昭和36年1月6日まで)の終値平均350円27銭の三者の単純平均358円15銭から、新株の払込期日が期中であったので、配当差2円41銭を差し引いた355円74銭を基準とし、A社の株式の価格動向としては人気化していたため急落する可能性が強く、過去6年間における1ヶ月以内の下落率の大勢は10ないし14%に集中していたこと、その売買出来高が昭和35年9月から同年12月まで1日平均19万3000株であるのに比べると本件公募株数は150万株の大量であること、その他、当時における株式市況の見通し等を勘案すれば、本件新株を売出期間中に消化するためには前記基準額を最低10%値引きする必要がある等の事由による減額修正をして、発行価額としては1株当り320円をもって相当とするいうのである。

このように、右の意見が出されるにあたっては、客観的な資料に基づいて前記考慮要因が斟酌されているとみることができ、そこにおいてとられている算定方法は前記公正発行価額の趣旨に照らし一応合理的であるというを妨げず、かつ、その意見に従い取締役会において決定された右価額は、決定直前の株価に近接しているということができる。

このような場合、右の価額は、特別の事情のないかぎり、商法280条の11に定める「著しく不公正なる発行価額」にあたるものではないと解するを相当とすべく、右価額が当該新株をいわゆる買取引受方式によって引き受ける証券業者が具申した意見に基づきその意見どおり決定されたとの前記事実も、右の意見の合理性が肯定できる以上、それだけで右の判断を異にすべき理由にはならない。

そして、本件新株の発行後A社の株価が値上がりしたことは原審の確定するところであるが、本件発行価額決定時点においてそのことが確実であることを保証する事実が顕著であったとはいえないとする原審確定の事実関係のもとにおいては、右値上がりの事実をもって特別の事情と認めるには足りず、他に特別の事情を認めるに足る事実関係のない本件においては、本件発行価額が「著しく不公正なる発行価額」であるということはできないのである。」

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