離婚届提出時点の離婚意思・・・

離婚届提出時点の離婚意思・・・

離婚の事案

妻は夫に対して、日頃から感じていた夫の態度等について不満に思っていることを話したが、夫はこれを受け入れる態度を示さなかったため、妻は、予め用意していた離婚用紙を示し「これだけ話し合っても判ってもらえないなら、結婚生活を続けていくことは無理です。お金も何も要らないから、判を押して。」と離婚を求めた。

夫は「何も要らないのなら署名する。」といって離婚届に署名押印して妻に渡した。

翌日、夫は知人の市役所職員に離婚届が出たらとめて欲しい旨を依頼し、知人に妻に思い直すように取り成し依頼し、夫自身も妻に対し「私が悪かった。悪いところは直すから、やり直すように考えてくれ。1、2ヶ月様子をみて、それで直らなければ離婚届を出してもよい。」と述べた。

妻はこれを受け入れ、しばらく夫の様子をみてみることにした。

しかし、1ヵ月後くらいからまた夫婦の関係が悪化したため、妻は離婚する決意を固め、親戚の者に離婚届の証人欄に署名押印をしてもらい、夫に知らせることなく離婚届を提出した。

その後、夫は離婚無効の調停を、妻は財産分与の調停を申し立てたがいずれも不成立となり、夫が妻に対して離婚無効確認の訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は夫の請求を棄却した。

②控訴審は、離婚届時点において夫にに離婚意思があったとは認められないとして、離婚無効確認の請求を認めた。

離婚届が有効となるためには、時点において夫に離婚の意思があったことが必要であり、その条件が満たされなかったことは一応右意思の存在を推測すべき一事情となるとしても、他方、夫が市職員に対して前記のような依頼をしている点や離婚届用紙に署名がされてから現に離婚届がされるまでには約6ヶ月の長い期間が経過していること及び離婚届がされたことを知った後の夫の行動などを考慮すると、その事情だけから右届時点における夫の離婚意思の存在を推認することは相当ではないとした。

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予備的な慰謝料の反訴と財産分与の申立・・・

離婚の事案

夫は妻に対して、離婚請求訴訟を提起した。

一審は、婚姻の破綻を理由に夫の請求を認容した。

妻は、控訴し、離婚請求が認容されることを条件として予備的に、慰謝料1500万円の支払を求める反訴の提起と1500万円の財産分与を求める申立てをしたが、夫はこれらに同意しなかった。

控訴審は、妻の控訴を棄却し、妻の予備的反訴提起及び財産分与申立てについては夫の同意がないため不適法であるとして却下した。

妻は、上告及び上告受理の申立てをした。

離婚の判例

①上告は事実誤認又は単なる法令違反をいうものとして棄却され、上告受理申立ての理由中、下記の理由部分が認められ、控訴審判決全部が破棄され、高裁に差し戻された。

②離婚の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償請求の反訴の提起及び離婚の訴えに附帯して財産分与の申し立てについては、人事訴訟手続法8条(現人事訴訟法18条)の規定の趣旨より、控訴審においても、その提起及び申立てについて相手方の同意を要しないものと解すべきである。

人事訴訟法32条1項は、家庭裁判所が審判を行なうべき事項とされている財産分与の申立てにつき、手続の経済と当事者の便宜とを考慮して、訴訟事件である離婚の訴えに附帯して申し立てることを認め、両者を同一の訴訟手続内で審理判断し、同時に解決することができるようにしたものである。

したがって、原審の口頭弁論の終結に至るまでに離婚請求に附帯して財産分与の申立てに係る部分について違法があることを理由に原判決を破棄し、又は取消して当該事件を原審に差し戻すとの判断に至ったときには、離婚請求を認容した原審の判断に違法がない場合であっても、財産分与の申立てに係る部分のみならず、離婚請求に係る部分をも破棄し、又は取消して、共に原審を差し戻すこととするのが相当であるとした。

(訴えの変更及び反訴)
人事訴訟法第18条  人事訴訟に関する手続においては、民事訴訟法第百四十三条第一項 及び第四項 、第百四十六条第一項並びに第三百条の規定にかかわらず、第一審又は控訴審の口頭弁論の終結に至るまで、原告は、請求又は請求の原因を変更することができ、被告は、反訴を提起することができる。

(附帯処分についての裁判等)
人事訴訟法第32条  裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は標準報酬等の按分割合に関する処分(厚生年金保険法 (昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項 、国家公務員共済組合法 (昭和三十三年法律第百二十八号)第九十三条の五第二項 (私立学校教職員共済法 (昭和二十八年法律第二百四十五号)第二十五条 において準用する場合を含む。)又は地方公務員等共済組合法 (昭和三十七年法律第百五十二号)第百五条第二項 の規定による処分をいう。)(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
2  前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。
3  前項の規定は、裁判所が婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において親権者の指定についての裁判をする場合について準用する。
4  裁判所は、第一項の子の監護者の指定その他子の監護に関する処分についての裁判又は前項の親権者の指定についての裁判をするに当たっては、子が十五歳以上であるときは、その子の陳述を聴かなければならない。

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精神病を原因とした離婚請求・・・

離婚の事案

夫は歯科医を開業している。

妻は、母が死亡したことから精神異常の兆候を示し、入院して、退院したが、その後も病状が悪化し、精神病院に入院して控訴審の口頭弁論終結まで入院中である。

妻は、精神分裂症で治療の見込みはないと診断されている。

夫は、妻に対して、民法770条1項4号に基づき離婚と子供たちの親権者を夫と指定することを求める本件訴訟を提起した。

なお、妻については特別代理人が選任されて、特別代理人が訴訟を追行した。

離婚の判例

①一審、控訴審とも夫の請求を認容した。

②上告審は、以下のとおり述べて、原判決、一審判決を破棄して、地裁に差し戻した。

およそ心神喪失の常況に在るものは、離婚に関する訴訟能力を有しない。

また、離婚のごとき本人の自由なる意思にもとづくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為は代理に親しまないものであって、法定代理人によって、離婚訴訟を遂行することは人事訴訟法の認めないところである。

同法4条は、夫婦の一方が禁治産者であるときは、後見監督人又は後見人が禁治産者のために離婚につき訴え又は訴えられることができることを規定しているけれども、これは後見監督人または後見人が禁治産者の法定代理人として訴訟を遂行することを認めたものではなく、その職務上の地位にもとづき禁治産者のため当事者として訴訟を遂行することを認めた規定と解すべきである。

離婚訴訟は代理に親しまない訴訟であること前述のとおりであるからである。

民訴56条は、「法定代理人なき場合又は法定代理人か代理権を行なうこと能はさる場合に」未成年者又は禁治産者に対し訴訟行為をしようとする者のため、未成年者又は禁治産者の「特別代理人」を選任することを認めた規定であるが、この「特別代理人」は、その訴訟かぎりの臨時の法定代理人たる性質を有するものであって、もともと代理に親しまない離婚訴訟のごとき訴訟について同条は、その適用を見ざる規定である。

そしてこの理は心神喪失の常況に在って未だ禁治産の宣告を受けないものについても同様であって、かかる者の離婚訴訟について民訴56条を適用する余地はないのである。

従って、心神喪失の常況にあって、未だ禁治産の宣告を受けてないものに対し離婚訴訟を提起せんとする夫婦の一方は、まず他方に対する禁治産の宣告を申請し、その宣告を得て人訴4条により禁治産者の後見監督人又は後見人を被告として訴えを起こすべきである。

民法770条は、あらたに「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込がないとき」を裁判上離婚請求の一事由としたけれども、同条2項は、右の事由があるときでも裁判所は一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは離婚の請求を棄却することができる旨を規定しているのであって、民法は単に夫婦の一方が不治の精神病にかかった一事をもって直ちに離婚の訴訟を理由ありとするものと解すべきではなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許されない法意であると解すべきであるとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

人事訴訟法第14条  人事に関する訴えの原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときは、その成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。ただし、その成年後見人が当該訴えに係る訴訟の相手方となるときは、この限りでない。
2  前項ただし書の場合には、成年後見監督人が、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。

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