フランス人妻とイギリス人夫の子の親権者指定・・・

フランス人妻とイギリス人夫の子の親権者指定・・・

離婚の事案

フランス人の妻は、イギリス人の夫とともに、日本に来て、イギリスとフランスの二重国籍の長男が生まれた。

妻と夫は、日本で過ごし、その後親子3人で世界一周の船旅に出て、日本に帰った。

妻と夫は、グアムで婚姻した。

妻は、病気にかかったこともあり、夫との放浪的な生活を嫌うようになり、離婚すること、長男は夫が養育監護することに当事者間で合意ができた。

妻は、引き続き日本に居住し、夫の離婚成立後、日本人である男性と結婚する予定であり、夫は、1年前後は日本にとどまるつもりであるが、いずれも長男を連れてケニアで生活するつもりである。

妻は、離婚、長男の親権者を夫と定めることを求める本件審判申立をした。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、妻の申立を認めた。

①法令16条によれば、同法14条が離婚に準用されるところ、同法14条によれば、夫婦の本国法が同一であるときは、その法律により、その法律がないときは、夫婦の常居所地法が同一であるときは、その法律によるが、以上のいずれの法律もないときは、夫婦に最も密接な関係にある地の法律によることとされている。

ところで、本件においては、当事者はその本国を異にし、また、妻の日本における滞在期間は、1979年5月から3年半余及び今回の1990年5月以降現在までのもののみであり、妻は、その後夫としばらくして別居しており、以上の生活状況からすると、法令14条及び16条にいう常居所を日本に有するとはいえないので、結局本件に適用されるべき法律は、夫婦に最も密接な関係にある地の法律ということになる。

夫は法令14条及び16条にいう常居所を日本に有するということができ、その他の前記の日本と夫との関わり具合及び妻も今後日本に引き続き居住し、日本人と早期に婚姻する予定であること等を勘案すると、夫婦に最も密接な関係にある地の法律は本件においては、日本法に他ならないということができる。

②次に当事者間の長男の親権者の定めについては、法令21条によることになるところ、右長男はイギリス及びフランスの二重国籍を有するところ、法令28条1項によれば、当事者が常居所を有するときは、その国の法律により、もしその国がないときは、当事者に最も密接な関係のある国の法律によるべきところ、本件においては、当事者間の長男については常居所は少なくともフランス及びイギリスには存しないから、本件においては、法令28条1項にいう当事者に最も密接な法律によるべきところ、本件当事者間で長男の養育監護は、今後父である夫がこれをなすことに合意があり、かつ、長男本人におていもこれを了解して夫と現在生活を共にしており、今後夫と長男はいずれ英語圏のケニアに居住し、右長男に対しイギリス人としての教育を受けさせたいとの意向である。

そうであるとすれば、法令28条1項にいう当事者に最も密接な法律は、本件の場合イギリス法にほかならず、しかして、法令21条によれば、長男である父である夫はイギリス国籍を有し、長男の前記密接関連国と同一であるから、結局イギリス法によることとなる。

しかして、イギリスにおける子の親権、監護権の帰属の問題についての関係法規であるところの未成年者後見法及び婚姻訴訟法等によれば、夫婦の離婚の際裁判所は、子の福祉を考慮して夫または妻のいずれかを、子の親権者とすることができるところ、本件においては、妻及び夫の前記の合意及び子の福祉に鑑み、夫を右長男の親権者とすることを相当とする次第である。

③本件は、妻と夫の離婚については法令16条及び14条により結局密接関連としての日本民法が適用されるので、当事者間に離婚の合意があるときは、調停離婚が許されるところであるが、他方子の親権者の指定については法例21条により、子の密接関連国であるイギリス法が適用されるところ、同国法においてはわが国におけるがごとき全くの協議離婚あるいは調停離婚制度は無いといってよく、親権者の指定は裁判所がなすこととしているので、妻と夫の離婚と子の親権者の裁判所による指定を同時になす関係上、本件を調停によらしめるのは相当でないので、当裁判所は、当調停委員会を構成する家事調停委員の各意見を聞いた上、家事審判法24条により、調停に代わる審判をし、主文のとおり審判する。

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日本居住の米国人夫妻の離婚請求・・・

離婚の事案

夫は日本で生まれた日本人であるが、米国軍に従軍し、渡米して、米国アリゾナ州で米国籍を取得した。

妻は、日本で生まれた日本人である。

夫と妻は、沖縄県で知り合い、那覇市で婚姻の届出をし、渡米して、ジョージア州に、その後テキサス州及びバージニア州に、その後はメリーランド州に居住した。

妻は、メリーランド州で帰化して米国籍を取得した。

夫は、米国陸軍軍属として日本に配属され、妻と共に来日した。

長男が沖縄で生まれた。

妻は、長男を連れて夫と別居した。

夫は、妻に対して、離婚、長男の親権者を夫と定めることを求める訴訟を提起し、妻は、離婚、長男の親権者を妻と定めること、財産分与、慰謝料を求める反訴を提起した。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べていずれの点についても日本法を適用し、夫妻の双方の離婚請求を認め、長男の親権者を妻と定め、夫に対して150万円の慰謝料及び150万円の財産分与の支払を命じた。

①離婚請求について

夫妻は、共に米国籍を有するところ、米国は、法例28条3項にいう「地方により法律を異にする国」すなわち不統一法国に当たるが、同条項にいう「規則」は、米国にはないとされているので、夫、妻の本国法の決定は、同条項の「最も密接なる関係ある地方の法律」によることとなる。

そして、夫妻の米国籍取得の事実によれば、夫の本国法はアリゾナ州法、妻の本国法はメリーランド州法であるものと認められる。

したがって、夫妻にとって共通本国法は存しないことになる。

夫は、夫の母が徳島県に1人で住んでいることなどから、日本に相当期間定住する意思で自ら希望して米国軍属として、同じく沖縄県を郷里とする妻と共に前記のとおり来日し、以後10年間以上日本に定住していることが認められるから、夫妻は、日本を常居所としているものであり、日本民法が共通常居所地法と認められる。

②財産分与及び慰謝料請求について

離婚に伴う財産分与及び離婚そのものによる慰謝料請求については、いずれも離婚の際における財産的給付の一環をなすものであるから、離婚の効力に関する問題として、法例16条本文によるべきものと解するのが相当であり、本件においては、日本民法が適用されることになる。

③親権者指定について

親権者の指定については、子の福祉の観点から判断すべきもので、離婚を契機として生じる親子間の法律関係に関する問題であるから、法例21条によるべきものと解するのが相当である。

そこで、まず、子である長男の本国法について検討するに、夫妻についての前記認定の事実に加え、長男は米国籍を取得したが、日本で出生して以来、引き続き現在まで日本に居住し、米国には約2ヶ月間旅行したことがあるにすぎないことに照らすと、長男にとって、米国内に「最も密接なる関係ある地方」を存せず、法例21条の適用としては、「子の本国法が父又は母の本国法・・・と同一なる場合」には該当しないものと解するのが相当であり、「子の常居所地による」こととなる。

長男は、日本を常居所としているものと認められるから、親権者の指定についても、日本民法が適用されることになる。

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日本居住のドイツ人夫のドイツ居住ドイツ人妻へ離婚等請求・・・

離婚の事案

夫と妻は、ドイツ民主共和国において、同国の方式により婚姻し、長女が生まれた。

夫ら一家は、ドイツ連邦共和国ベルリン市に居住していたが、妻は、夫との同居を拒否した。

夫は、旅行の名目で長女を連れて来日した後、妻に対してドイツ連邦共和国に戻る意思のないことを告げ、以後長女と共に日本に居住している。

妻は、自己の所在地を管轄するベルリン市シャルロッテンブルグ家庭裁判所に離婚訴訟を提起した。

この訴訟の訴状等の夫に対する送達は、公示送達によって行なわれ、離婚を認容し、長女の親権者を妻と定める判決が確定した。

夫は、妻に対して離婚、長女の親権者を夫と定めること、300万円の慰謝料の支払を求める本件訴訟を、浦和地裁越谷支部に提起した。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、夫の請求を却下した。

一般に被告の住所が国際的裁判管轄権を決定する場合の基準の一つになることはいうまでもないが、それだからといってあらゆる訴訟についてそれが原則的に妥当するといったものではなく、離婚訴訟においては、離婚原因となる事実の有無が審理の中心となるが、離婚を認容するか否かの最終的な判断は、多くの場合婚姻共同生活の実態の解明なしにはよくなし得ないところであるから、その審理は、右婚姻共同生活が営まれた地を管轄する国の裁判所で行なわれることが望ましく、その国に、原被告双方共に住所を有しないような場合ならともかく、原被告のどちらかが住所を有する場合には、その国の裁判所が国際的裁判管轄権をもち、その他の国の裁判所はこれを持たないものと解するのが相当である、

②控訴審は、以下のように述べて、原判決を取消し、浦和地裁に差し戻した。

離婚訴訟の国際的裁判管轄権については、夫婦の一方が国籍を有する国の裁判所は、少なくとも、国籍を有する夫婦の一方が現に国籍国に居住し、裁判を求めているときは、離婚訴訟について国際的裁判管轄権を有すると解するのが相当である。

婚姻生活の実態について審理する必要があることから、実際に婚姻生活が行なわれた国又は夫婦が共に居住する国の裁判所は、夫婦のどちらかがその国籍を有するかどうかにかかわりなく、国際的裁判管轄権を有すると解すべきであることは当裁判所も否定するものではないが、このことが、夫婦の一方の国籍国の裁判所の管轄権を否定する理由になるとは考えられない。

③上告審も、以下のように述べて、上告を棄却した。

離婚請求訴訟においても被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するするに当たって考慮すべき重要な要素であり、被告がわが国に住所を有する場合にわが国の管轄が認められることは、当然というべきである。

しかし、被告がわが国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から離婚請求とわが国との関連性が認められ、わが国の管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであり、どのような場合にわが国の管轄を肯定すべきかについては、国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定されることによる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが、他方、原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮し、離婚を求める原告の権利の保護に欠けることのないよう留意しなければならない。

これを本件についてみると、前記事実関係によれば、ドイツ連邦共和国においては、判決の確定により離婚の効力が生じ、夫と妻との婚姻は既に終了したとされているが、わが国おいては、右判決は民訴法200条2号の要件を欠くためその効力を認めることができず、婚姻はいまだ終了していないといわざるを得ない。

このような状況の下では、仮に夫がドイツ連邦共和国に離婚請求訴訟を提起しても、既に婚姻が終了していることを理由として訴えが不適法とされる可能性が高く、夫にとっては、わが国の離婚請求訴訟を提起する以外に方法はないと考えられるのであり、右の事情を考慮すると、本件離婚請求訴訟につきわが国の国際裁判管轄を肯定することは条理にかなうというべきである。

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