親権侵害をした他人への損害賠償請求・・・
離婚の事案
夫と妻は、婚姻し、長女、長男が生まれた。
夫と妻は、別居したが、別居後まもなく長女と長男は夫と生活するようになり、長女は小学校に、長男は保育園に通っていた。
Yはカウンセラーとして活動するほか、シェルターの運営等の活動もしていた。
妻は、アパートに引越しをし、Yとともに、長女が通う小学校に行き、Yが教師に対して「おあばさんです」「彼女にお子さんを渡してあげてください」などと話しているうちに、妻が長女の教室に行き、抱きかかえるようにして長女を連れ、タクシーに乗せた。
その後保育園に行き、妻は、園長の制止を振り切って長男を連れ、タクシー内で待っていたY、長女とともに、妻のアパートに行った。
その後、2人の子らは、妻と母子生活支援施設に入所した。
長女が夫に電話をかけ、家に帰りたい旨を訴え、夫は、子らを連れ帰り、以後子らと生活している。
妻の申立により、夫に対して保護命令が出された。
妻は、子の引渡し審判及び審判前の保全処分の申立をしたが、いずれも却下された。
夫は、Yに対して、夫の親権を侵害したとして不法行為に基づく1000万円の慰謝料の支払を求める本件訴訟を提起した。
離婚の判例
裁判所は、以下のように述べて、Yに対して30万円の慰謝料の支払を命じた。
妻自身においては夫の暴力を恐れて身を隠すという事実があったとしても、子らについては、小学校や保育園から実力で奪取してまで夫の下から取り戻さなければその福祉を害するといった緊急やむを得ない事情があったとはいい難く、妻が、法的な手段によらずに、子らを白昼小学校や保育園から強引に連れ去った行為は、社会通念上許容できる限度を超えた違法なものというべきである。
したがって、妻に同行、加担したYの行為も同様に違法との評価を免れず、夫の長女と長男に対する平穏な親権の行使を妨げたものとして夫に対する不法行為を構成するというべきである。
本件において夫の妻に対する暴力的言動があり、いわゆるドメスティックバイオレンスの問題が背景にあるとしても、これはあくまで夫と妻との夫婦間の問題であり、妻が夫と別居した後、子らが夫の下で安定した生活を送っていたことからすれば、このことが母親である妻の実力による子らの奪取を正当化する事情になるとはいえない。
この点、Yは、本件はドメスティックバイオレンスの問題であり、妻に同行した当日のYの行動に関しても、付き添いの線を越えないように心がけていた旨を供述するが、夫婦間のドメスティックバイオレンスの問題と親子の問題とは区別すべきであることは前記のとおりであるし、また、Yの当日の行動は、「おばさん」役を演じたり、長女の手を引っ張ってタクシーに乗せるなどして、妻の子供らの奪取行為を容易にする言動をしているのであって、単なる妻の付き添い役にとどまるものとは評価できない。
以上の検討によれば、妻の子らの奪取行為に同行、加担したYの行為は、Yが子らを実力で奪取する方法に必ずしも賛成しておらず、当初は妻に同行することを断っていたが、妻に懇請されて同行することになったことを考慮しても、違法であるといわざるを得ない。
スポンサードリンク
親権者の未成年者略取罪・・・
離婚の事案
夫と妻は、東京都内で生活していたが、口論した際、夫が妻に暴力を振るうなどしたことから、妻は、長男を連れて青森県の実家に帰って夫と別居した。
妻は、離婚訴訟を提起した。
夫は、保育園の歩道上において、妻の母につれられて保育園から帰宅しようとしていた子を抱きかかえ、付近に駐車中の車まで全力疾走して、車に乗り込み、母が制止するのを意に介さず、車を発進させて子を連れ去った。
夫は、林道上において、子と共に車内にいるところを警察官に発見され、逮捕された。
離婚の判例
①一審、控訴審とも夫に対する未成年者略取罪の成立を認めた。
②上告審も以下のように述べて、上告を棄却した。
夫は、子の共同親権者の1人である妻の実家において妻及びその両親に監護養育されて平穏に生活していた子を、祖母に伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り、保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから、その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり、夫が親権者の1人であることは、その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される。
本件において、夫は、離婚係争中の他方親権者である妻の下から子を奪取して自分の手許に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、子の監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。
また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、子が自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略守後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。
以上によれば、本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められないことであり、未成年者略取罪の成立を認めた原審判は、正当である。
スポンサードリンク
別居中の子の無断連れ去りの違法性・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女、二女、三女が生まれた。
夫は、妻に対して暴言を吐いて侮辱し、たびたび殴る蹴るの暴行を加えた。
妻は、3人の子を連れて実家に逃げ帰ったが、夫に連れ戻された。
その後も夫の暴力はやまず、妻は、夫から右側頭部を平手打ちされ鼓膜が破れる傷害を負った。
妻は、3人の子を連れて実家に帰り、夫と別居した。
夫は、妻に無断で、保育園から3人の子を連れ出し、以後妻が子らと会うことも連絡することも禁じた。
妻は、離婚訴訟を提起した。
妻は、3人の子の引渡しを求める本件審判申立をした。
離婚の判例
①原審は、以下のように述べて、妻の請求を棄却した。
未成年者3名の親権者の帰趨をめぐっての本案訴訟が既に継続しており、遠くない将来、その判断がされるであろう現状にあるが、かかる状況下においては、子の引渡しの審判と本案訴訟との判断が区々となり、それに伴い短期間の内に子の生活環境等を含む監護養育状況の変化が繰り返され、その心身の安定が害されるような結果となることは、子の福祉の観点から、好ましい事態とはいえない。
とすると、この段階において、子の心身の安定を重視して考慮すべきであり、例えば、監護親による現状の監護状況が劣悪で、緊急にその監護常況から離脱させる必要があるとか本案訴訟において非監護親が親権者と指定されるであろうことが明らかである等の特段の事情がある場合に限り、監護親から非監護親はの子の引渡しを認めるのが相当である。
②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、夫に対して3人の子の引渡しを命じた。
別居中の夫婦のうち一方配偶者甲が公然かつ平穏に子をその監護下に置き、監護を継続していたにもかかわらず、他方配偶者乙が子を無断で連れ去るなど、違法に子をその監護下に置いたため、甲が引き続き子を監護させる場合に得られる利益と甲に子を監護させる場合に得られる利益を比較し、前者が後者をある程度有意に上回ることが積極的に認められない限り甲による子の引渡し請求を認容すべきものと解される。
なぜならば、乙が、違法な連れ去りによらず、正当に家庭裁判所に子の引渡しを申し立てていれば、乙の監護によって得られる利益の方がある程度有意に甲の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしない限り、その申立は認められないはずであるにもかかわらず、違法に子を連れ去ったことによって、甲がその監護によって得られる利益の方がある程度有意に乙の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしなければならなくなってしまうとすれば、乙が法的ば手段を選択するよりも自力救済を選択することによってかえって有利な地位を獲得することを許すことになり、違法行為を助長する結果を招き、家庭裁判所の審判によって子の奪い合いを抑え、平穏に子の監護に関する紛争を解決することが困難となるからである。
また、違法に子を連れ去る行為は、法律や社会規範を無視することをいとわない行動を採ったことを意味するものであり、そもそも監護者としての適格性を疑わせる事情という側面があることも否定し難い。
前者の利益と後者の利益との間に有意な差異は認められない。
したがって、妻の夫に対する子ら未成年者3名の引渡し請求を認容すべきである。
スポンサードリンク