財産分与の将来の退職金の計算・・・

財産分与の将来の退職金の計算・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻し、長男が生まれた。

夫と妻は、折り合いが悪くなり、妻は当時家族で住んでいたマンション(本件マンション)を出て、実家に帰り、以後夫と妻は別居している。

夫は、数年後には、定年退職の予定であるが、夫の定年退職時に予想される退職金額は929万円となる。

妻はパートで働いている。

夫は、妻に対して、離婚及び財産分与の精算金の支払を求める訴訟を提起した。

妻は、離婚は争わず、夫に対して財産分与の精算金の支払を求めた。

本件では、夫妻共有の本件マンションその他の不動産、ゴルフ会員権等の財産分与も争点となっているが、ここでは退職金の財産分与の争点のみについて述べる。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、夫が将来受領する退職金の財産分与を命じた。

いわゆる退職金には賃金の後払いとして性格があることは否定できず、夫が取得する退職金には妻が夫婦としての共同生活を営んでいた際の貢献が反映されているとみるべきであって、退職金自体が清算的財産分与の対象となることは明らかというべきである。

問題は将来受け取るべき退職金が清算の対象となるか否かであるが、将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金のうち、夫婦の婚姻期間に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直した上、清算の対象とすることができると解すべきである。

夫としては、退職時までの勤務期間総数271ヶ月のうちの実質的婚姻期間147ヶ月に対応する退職金につき、中間利息(法定利率年5%)を複利計算で控除して現在の額に引き直し、その5割に相当する額を妻に分与すべきである。

その額は、次の計算式のとおり、188万円と認められる。

929万円×271ヶ月分の147ヶ月×0.74621540(6年のライプニッツ係数)×0.5(清算割合)=188万円

なお、夫の主張するとおり、6年後の退職ということを考えると、不確定な要素を全く否定することはできないので、右退職金の現在額の算出に当たっては、現行市中金利からすると極めて高率の年5%の中間利息を複利計算で控除しているし、929万円という退職金の額も夫の今後の昇給分を考慮しておらず、できるだけ控えめな額を算出したものである。

また、夫が平成10年4月15日に成立した家事調停に基づく婚姻費用の支払を一部怠っていること等を考慮し、右精算金の支払を担保するため、人事訴訟法15条2項により、夫の取得する本件マンションに抵当権を設定し、その旨の登記手続きを命じることとする。

(附帯処分についての裁判等)
人事訴訟法第32条  裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は標準報酬等の按分割合に関する処分(厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項、国家公務員共済組合法(昭和三十三年法律第百二十八号)第九十三条の五第二項(私立学校教職員共済法(昭和二十八年法律第二百四十五号)第二十五条において準用する場合を含む。)又は地方公務員等共済組合法(昭和三十七年法律第百五十二号)第百五条第二項の規定による処分をいう。)(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
2  前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。
3  前項の規定は、裁判所が婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において親権者の指定についての裁判をする場合について準用する。
4  裁判所は、第一項の子の監護者の指定その他子の監護に関する処分についての裁判又は前項の親権者の指定についての裁判をするに当たっては、子が十五歳以上であるときは、その子の陳述を聴かなければならない。

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財産分与の現時点での退職金計算・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、二女が生まれた。

夫は、国家公務員に採用され、以後税務職員として勤務してきた。

妻と夫は、別居した。

妻は、夫に対して、離婚、慰謝料及び財産分与等を求める訴訟を提起した。

本件は、資料からは、事実関係、一審判決等が不明であるので、控訴審で事実上争点となった、退職金及び年金の財産分与の点のみを述べる。

離婚の判例

①控訴審は夫が将来受領する退職金の財産分与について、以下のとおり判示した。

夫が現在自己都合により退職した場合に受給できる退職手当金は1632万円で、そのうち別居までの妻との婚姻期間である15年だけが妻の協力を得て勤務していた期間であるから、その退職手当額のうち右婚姻期間分に対応する額である907万円の範囲で財産分与算定の基礎財産となる。

1632万円÷27年×15年=907万円

しかし、夫への退職手当給付は、夫の退職時になされるものであるから、支給制限事由の存在、将来退職したときに受給する退職手当を離婚時に現実に清算させることとしたときには、夫にその支払のための資金調達の不利益を強いることにもなりかねないことも勘案すると、妻に対する夫の退職手当に由来する財産分与金の支払は、夫が将来退職手当を受給したときと解するのが相当である。

夫が定年である60歳まで勤務した場合に受給できる退職手当金は2785万円で、そのうち別居までの妻との婚姻期間である15年に対応する額は1160万円となる。

夫が将来定年により受給する退職手当額は、夫が今後8年余り勤務することを前提として初めて受給できるものである上、退職手当を受給できない場合もあり、また、退職手当を受給できる場合でも、退職の事由のいかんによって受給できる退職手当の額に相当大きな差異があるため、現在の時点において、その存否及び内容が確定しているものとは到底言い難いのであるから、このような夫の将来の勤務を前提にし、しかも、その存否及び内容も不確定な夫の定年時の退職手当受給額を、現存する積極財産として、財産分与算定の基礎財産とすることはできない。

もっとも、夫が将来定年により受給する退職手当額についても、妻が夫と婚姻して別居するまでの間の勤務が含まれ、右勤務の間に妻としての協力があったから、夫が将来定年退職した時に受給できる退職手当額のうち妻との別居までの婚姻期間である15年に対応する額1160万円は、夫が現在自己都合により退職したときに受給できる退職手当額のうち右婚姻期間に対応する額である907万円に比べて増額となる関係にあるので、右のことは民法768条3項の「その他一切の事情」として、考慮する。

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

②更に、裁判所は、夫が将来退職共済年金を受給できることも「その他一切の事情」として考慮し、結果として、夫は妻に対して「国家公務員退職手当法に基づく退職手当の支給を受けたとき、550万円支払え」と命じた。

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年金の財産分与・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、長男が生まれた。

夫は、市役所に職員として勤務し、定年退職した。

妻は、結婚以来会社勤務等をして共稼ぎをしてきたが、仕事をやめて専業主婦となった。

妻と夫は、本件土地上に本件建物を新築し、以後自宅として子供たち、夫の両親らと同居してきた。

夫は、ある女性と交際し、一緒に旅行等するようになり、妻が夫に女性との交際を止めるよう求めると妻に暴力を振るった。

妻は自宅を出て、長女が住むアパートに移り、夫と別居した。

妻は夫に対して、離婚、慰謝料として500万円、財産分与として合計約2377万円(内、年金分の財産分与については、夫が平均余命までに支給される退職共済年金の総額から妻が受給する老齢厚生年金の総額を控除した金額について新ホフマン係数により中間利息を控除した現在額の2分の1である約1023万円)、女性に対して慰謝料として500万円の支払を求める訴訟を提起した。

離婚の判例

①裁判所は、妻と夫との婚姻は夫の不貞行為によって破綻したと認定し、夫に対して500万円の、女性に対して300万円の慰謝料の支払を命じた。

②退職共済年金の財産分与について

妻の老齢厚生年金も夫の退職共済年金も本件婚姻の継続中妻と夫が協力して生活してきたことによって残された財産的権利と解すべきであるから、離婚における清算の対象と認められるところ、夫の退職共済年金額からそのうちの加給年金に相当する額を控除すると256万6900円であり、さらに、上記256万6900円から妻の老齢厚生年金額を控除すると160万6600円になる。

そして、上記160万6600円が上記256万6900円について占める割合を算定すると、約62.6%である。

そこで、夫が離婚後支給される退職共済基金のうち60%を財産分与の対象とする。

ところで、妻は、夫が平均寿命まで生存したと仮定した場合に支給されると推定される退職共済年金の総額を基準に財産分与を行なうべきであると主張している。

たしかに、損害の公平な分担を目的とする不法行為制度においては、被害者の逸失利益につき一定の年数と金額を基礎とする推計を行なって損害を算定してるわけであるが、それは逸失利益が推定によってしか算定できない性質のものだからである。

これに対し、財産分与制度においては、実際に毎期において支給される年金額につきその都度分与を行うことが可能であり、かつ、それで足りるのであるから、妻が主張するような推計を行なう必要はなく、むしろ推計によることが不相当なことは明らかであるとした。

そして、夫に対して、(1)本件土地建物及び預貯金の2分の1である約894万円の支払い、(2)離婚判決が確定した日以降において、市職員共済組合から退職共済年金が支給されたときは、当該支給にかかる金額の10分の3に相当する金員を、当該支給がされた日が属する月の末日までに支払えと命じた。

なお、(1)の支払については、夫の資力に鑑みて、その履行について6ヶ月の猶予期間を認めて、支払期限を離婚判決が確定した日から6ヶ月以内とした。

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