離婚調停中の配偶者死亡の財産分与・・・

離婚調停中の配偶者死亡の財産分与・・・

離婚の事案

夫は、前妻と婚姻し、両者間に長男、長女が生まれたが、前妻は病死した。

夫は、再婚し、その後妻とその前夫との間の子である連れ子と養子縁組をした。

夫は、肝臓病で入院し、以後入退院を繰り返し、妻に対して夫婦関係調整の調停申立をした。

そして、調停期日の段階では、妻との離婚並びに離婚に伴う財産分与として約3933万円及び慰謝料500万円の支払を求めていた。

この調停が成立しないまま、夫は死亡した。

夫は、公正証書遺言をしており、同遺言には、妻を相続人から廃除し、財産分与請求権を含む一切の財産について、長男、長女に各12分の5、養子に12分の2を各割合で相続させるものとするとの記載がある。

長男、長女らは、妻に対して、夫の妻に対する財産分与請求権を相続したと主張して、財産分与請求調停申立をなし、同調停は不成立となり、本件審判に移行した。

離婚の判例

①原審は、長男らの申立を却下した。

②抗告審も以下のように述べて、長男らの抗告を棄却した。

夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる。

この財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は婚姻関係の人事訴訟の附帯処分として判決で具体的に確定されるが、上記権利そのものは、離婚の成立によって発生し、実体的権利義務として存在するに至り、前記当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。

そして、財産分与に関する規定及び相続に関する規定を総合すれば、民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係に清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしていると解するのが相当である。

したがって、離婚が成立するより前に夫婦の一方が死亡した場合には、離婚が成立する余地はないから、財産分与請求権も発生することはないものである。

そのことは、夫婦の一方の死亡前に、その者から家庭裁判所に離婚を求めて調停が申し立てられ、調停申立の趣旨の中に財産分与を求める趣旨が明確にされていた場合でも同様である。

そうすると、亡き夫の妻に対する財産分与請求権は発生していないから、長男らがこれを相続により取得することはできない。

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不動産の財産分与と詐害行為・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻し、3人の子がある。

夫は、26年間に渡り、会社に勤務してきた。

夫は、相続等により本件土地を取得し、本件土地上に本件建物を新築した(本件土地、本件建物を本件不動産という)。

夫は勤め先の会社が倒産することになり、債権者が自分に保証責任を追及してくる事態が避けられないと考え、本件不動産を妻に譲渡することにし、その手段として、離婚に伴う財産分与の方法をとることにした。

夫と妻は、協議離婚し、同日本件不動産について、財産分与を原因として妻に所有権移転登記手続(本件登記)をした。

会社は、破産申立をして、破産宣告を受けた。

Xは、グループ会社の訴外信用金庫からの借り入れについて保証しており、夫は、グループ会社のXに対する債務について連帯保証していた。

Xは、夫に対しては、求償金である約967万円の支払を求め、妻に対しては、財産分与の通謀虚偽表示ないし詐害行為を理由として、本件不動産についての本件登記の抹消登記手続き等を求めた。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、Xの妻に対する請求を棄却した。

協議離婚においては、当事者間に離婚の合意が真実成立していれば足りるのであって、合意が成立した理由がなんであるかを問わないのであるから、財産分与の必要性が協議離婚の原因となっているからといって、そのことだけで、本件届出が離婚意思の基づくものであったとの上記認定を左右することにはならないとし、協議離婚が真実なされている以上、これに伴ってなされた財産分与を通謀虚偽表示であると認める特段の事情もないとした。

また、財産分与が不相応に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるということはできないとして、詐害行為にはならないとした。

②控訴審は、以下のように述べて、一審判決の一部を変更した。

本件土地は、夫の特有財産であり、夫婦がその協力によって得た財産とはいえないが、本件建物は、実質上、夫婦の共同財産であるといえる。

夫が本件不動産を維持するに当たっての妻の貢献を考慮すると、財産分与としては、本件建物の共有持分の2分の1ないしはそれに相当する金員を分与するのが相当であって、本件財産分与のうちこれを上回る部分については、民法768条3項の趣旨に反して不相当に過大であるといわざるを得ず、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りる特段の事情がある。

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

取消しの目的物である本件不動産は、一筆の土地上にある一棟の建物であり、土地と建物は別個の不動産であるとしても、現に妻の住居として一体的に使用されていることからすれば、不可分のものと解すべきであるが、財産分与のうちの相当な部分については、本来、妻が潜在的な共有持分を有していたものといえるところ、本件財産分与全体を取消し、本件登記を全部抹消した場合は、上記潜在的な共有持分についても、債務者である夫の責任財産に加えられることになり、衡平を失するといわざると得ない。

したがって、本件財産分与のうち、不相当に過大な部分のみを取消し、価格による賠償を命じるのが相当であるとし、控訴審の口頭弁論終結時の本件土地の価格が835万円、本件建物の価格が約382万円とし、これから抵当権が設定されている住宅ローン残高を控除すると、本件不動産の価格は約614万円であるとした。

そして、本件における相当な財産分与額は、財産分与当時の本件建物の価格の2分の1に相当する約209万円であるから、妻はXに対して、これを上回る約405万円について価格賠償すべきであるとした。

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交通事故の損害保険金の財産分与・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男が生まれた。

夫は、前妻との間に生まれた長女の親権者となり、長女は、妻、夫と同居生活をしていた。

妻は、長女の養育を含め、家事育児をほとんど1人で行なっていた。

夫は、本件交通事故により受傷した。

本件事故後、夫に対して、保険会社から休業損害金として毎月52万円が支払われ、夫は、妻に対し、うち45万円を渡し、残り7万円を夫が取得していた。

夫、加害者、保険会社等との間で、夫が治療費休業補償等のほかに5200万円は、逸失利益約4674万円、未払い障害慰謝料約149万円、後遺障害慰謝料約460万円から和解に基づき多少減額したものである。

夫は、妻に対して離婚調停を申立て、離婚、長男の親権者を妻とする、夫は長男に対して月額4万円の養育費を支払うこと等を内容とする調停が成立した。

前記調停において財産分与については合意が成立しなかったので、妻は、本件財産分与の審判申立をし、上記和解金5200万円の2分の1の2600万円の支払いを求めた。

なお、妻の申立によっても財産分与の対象となる財産は上記和解金のみである。

離婚の判例

①原審は、和解金のうち逸失利益額を財産分与の対象財産とし、その2分の1を妻に支払うように命じた。

②控訴審も以下のように述べて、上記和解金のうち、症状固定時から離婚の前日までの逸失利益額のみを財産分与の対象財産と判示した。

財産分与の対象財産は、婚姻中に夫婦の協力により維持又は取得した財産であるところ、上記保険金のうち、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料に対応する部分は、事故により受傷し、入通院治療を受け、後遺障害残存したことにより夫が被った精神的苦痛を慰謝するためのものであり、妻が上記取得に寄与したものではないから、夫の特有財産というべきである。

これに対し、逸失利益に対応する部分は、後遺障害がなかったとしたら得られたはずの症状固定時以後の将来における労働による対価を算出して現在の額に引き直したものであり、上記稼動期間中、配偶者の寄与がある以上、財産分与の対象となると解するのが相当である。

本件においては、症状固定時から、離婚調停が成立した日の前日である平成15年9月18日までの284日間分につき財産分与の対象と認めるのが相当である。

以上を前提に、上記期間の逸失利益相当額を算定すると、次の計算式のとおり概ね307万1626円となる。

515600円×12×0.67×0.9523×284÷365=3071626円

妻は、家事育児全般に従事し、その結果、夫が事業に専念できたと認められるから、寄与割合は、概ね2分の1と認めるのが相当である。

以上によれば、夫の妻に対する財産分与額は、上記金額の概ね2分の1に当たる金額である154万円を定め、妻に同額を取得させるのが相当である。

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