親権者指定の離婚裁判後の事情変更・・・

親権者指定の離婚裁判後の事情変更・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻し、長男、二男が生まれた。

夫は高校の教師である。

妻は、二男出産後体調を崩して、実家に帰って養生していたが、二男の出産祝いに対するお祝い返し等のことで夫と妻の父が口論となったこと等から実家にとどまり、とりあえず別居して冷却期間を置き、長男は夫が、二男は妻が面倒をみていくこととなった。

夫と長男は妻の実家で同居するようになったが、夫は、離婚のことで妻と口論となり、妻に対して暴力を振るった。

夫は、妻、妻の父には無断で、幼稚園にいた二男を連れて出て、長男と一緒に福岡県に居る夫の養母に預け、養母、長男、二男は熊本市に転居し、夫も同居した。

妻は、離婚訴訟を起こし、夫が反訴を提起した。

離婚、長男、二男の親権者を夫と定める判決が言渡された。

二男の親権者を妻と定め、夫に二男の妻への引渡しを求める控訴審判判決が下され、控訴審判決が確定した。

妻は、熊本市の夫宅に二男の引き取りに出向いたが引き取りは実行できなかった。

夫は二男の親権者変更の調停申立をしたが、取下げた。

妻は、上記判決に基づき、二男の引渡しの強制執行を申立、執行官が強制執行を試みたが、二男が「いや、行かない」「母親と思わない」等といい、引き渡されることを拒んだため、引渡し不能となった。

夫は再度二男の親権者変更の申立をした。

離婚の判例

①原審は、以下のように述べて、二男の親権者変更を認めた。

二男は現在10歳で小学校4年生で、必ずしも母親の養育監護が必要な年齢とはいえない。

更に、二男は妻と会うことや大津に行くことをはっきりと拒否し、親権者変更を強く希望している。

二男のこの意思は、幼少のころは、夫の意向に影響されたことがあるかもしれないが、二男は小学校の成績も優秀で理解力もあり、二男と同居して親権者変更の審判結果を待ちたい夫に抵抗して、長年養育を受けた養母の心情を思いやって養母と同居を主張しこれを実現するなど、自己主張ができる年齢に達したことを考えると、二男の意思を尊重しなければならない。

以上を総合すると大阪高等裁判所の判決当時と比較して二男の親権者指定の事情は大幅に変更されている。

しかし、この事情変更は、夫が平成4年9月11日妻に無断で幼稚園から二男を連れ去ったことに端を発し、二男の親権者を妻と定め、二男の引渡しを命じた高等裁判所の判決及び大津地方裁判所の間接強制決定等の司法判断に従わなかったことが主な原因であり、そのことは非難される行動である。

一方、妻には上記事情変更に関し何ら責められることはなく、妻の二男に対する愛情、監護能力、経済的家庭環境、親族の援助等夫と比しても劣ることことはなく親権者として不適当なことはない。

しかしながら、本件親権者変更を却下しても二男が妻との生活を共にすることは事実上極めて困難で、二男は精神的に不安定なまま、非親権者の下で不便な生活を余儀なくされる。

二男の福祉を唯一・最大限に考慮すると、今後さらに発達成長する二男の意思及び長年続いた現状を尊重して、二男の親権者を夫に変更し、夫の責任において早期に同居し、二男の兄と共に安定した家庭環境で生活させるのが望ましい。

②抗告審も、以下のように述べて、原審判を維持した。

民法819条6項は、裁判で親権者が指定された場合にも適用される規定であり、裁判確定後の事情の変化により親権者を変更することが子の福祉に合致すると認められる場合、家庭裁判所が親権者変更の審判をすることができるのは明らかである。

(離婚又は認知の場合の親権者)
民法第819条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

もちろん、非親権者が子を監護するに至った経緯は、上記審判をするに当たり当然考慮すべき事情となるが、本件においては、かかる事情を踏まえた上でなお親権者を夫に変更するのが相当と解すべきことは、原審判の説示するとおりであるから、妻の主張は理由が無いといわざるを得ない。

しかし、自由意思をもたない子に対する離婚後の非親権者による監護が違法とされるのは、同人が親権を有していないからであり、その監護が子の福祉にとって害となるからではない。

子の福祉の見地からは、引き続き非親権者に監護を委ねる方が望ましい場合があることも当然考えられるのであって、そのような場合には、むしろ親権者を変更して監護の違法状態と解消させるのが、民法819条6項の趣旨に合致するというべきである。

スポンサードリンク

父から母へ親権者変更申立・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、長男が生まれた。

妻は、元の職場の同僚であり妻子もある男性と不貞関係を結ぶようになり、妻は、長女及び長男を連れて実家に帰り以後夫と別居した。

妻、夫、双方の両親等が集まり、話し合いが持たれた。

その責に夫が依頼した調査会社の調査員及びその男性が同席し、妻と男性は不貞関係を認め謝罪等した。

その後、妻と夫は、離婚届を作成し、夫が長男及び長女の親権を強く希望し、親権者欄に夫と記載した。

翌日妻と夫は離婚届を区役所に提出した。

妻は、長女及び長男を連れて実家に帰ろうとしたため、夫とつかみ合いになり、妻が通報した警察官が臨場したため、夫は子らを妻に引渡し、その場を納めた。

夫は、妻に対して子らの引渡しの調停を、妻は夫に対して子らの親権者変更の調停をそれぞれ申立て、調停不成立により本件審判に移行した。

離婚の判例

①原審判は、以下のように述べて、妻の親権者変更の申立を却下し、夫の子らの引渡しを認容した。

長女及び長男について、親権者を夫から妻に変更するまでの事情はなく、妻は、親権者を夫を定めることに合意したにもかかわらず、長女と長男を一度も夫に引き渡していないこと、長女は6歳の女児であり、長男は3歳の男児であるから、その年齢等からして一般に母親が必要な時期であることも否めないが、本年紛争前の夫と長女及び長男との父子関係には特に問題がなく、夫は、本件調停の席上において、妻の面接交渉を認める意向を示しており、これによって父子関係を補完することも不可能ではないものと考えられることなどを総合すると、長女及び長男を妻から夫に引き渡すのが相当である。

②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、妻を子らの監護者と指定した。

妻は、長女及び長男の誕生以来妻の両親等の援助を得て養育監護を続けており、家庭裁判所調査官の調査報告書及びその添付資料によれば長女及び長男に対する監護意欲も十分に認められること、妻と長女及び長男との関係は良好であり、長女及び長男は妻の両親等との生活にも親しんでいること、現在長女は6歳4ヶ月、長男は3歳5ヶ月の年少者であり母親のきめ細かな養育監護の継続が特に必要とされること、長女及び長男は年少の2人の姉弟であり同一人の監護のもとで育てられることが望ましいこと、一件記録及び当審の審問の結果によれば、妻の監護のもとで、夫と長女及び長男との面接交渉が期待できると認められることなどからすると、上記のとおり、妻と夫で養育条件に優劣がつけられない本件においては、特に長女及び長男の情緒の安定という観点から、現状のまま妻が引き続き養育監護するのが望ましいというべきである。

ところで、子の監護権は親権の機能の一部であると解されるところ、妻は、一貫して、親権者を夫と指定するに際し、そのまま監護を継続できると考えていたと主張しているから、本件親権者変更申立には長女及び長男の監護権者の指定の申立も含まれていると解する。

そうすると、親権者変更申立は上記理由により却下を免れないが、長女及び長男の監護権者を妻に指定することについては理由があるから、同監護権者を妻に指定する審判をするのが相当であり、抗告裁判所もこれをなし得るものと解すべきであるので、当裁判所は、長女及び長男の監護権者を妻に指定することとする。

スポンサードリンク

増額分の養育費支払い義務・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男、長女、二男、二女が生まれた。

その後、離婚、4人の子の親権者を妻と定める、夫は、4人の子の養育費として、各児が成人に達するまで1人につき1ヶ月1万円の支払を命ずる調停に代わる審判が確定した。

妻は、生活保護を受け子らを養育していた。

夫は、前審判当時手取り給与額は約15万円であり、年2回の賞与は合計30万円前後であった。

その後、夫の1ヶ月の手取り平均給与額は、約19万5000円で、賞与合計は約40万円である。

夫は、再婚し、生まれた長女を扶養している。

4人の子らは、夫に対して、扶養料として、1ヶ月2万円の支払を求める本件審判申立をした。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、夫に対して子らの本件不要請求の意思表示が夫に到達したことの明らかな第1回調停期日以降子らがそれぞれ成年に達する日まで、1ヶ月各金5000円の支払を命じた。

子ら法定代理人は、夫に対し、子らの養育料として、子らがそれぞれ成年に達するまで1人つき1ヶ月10000円ずつの支払を命ずる執行力ある債務名義を得ているところ、同確定審判は、本件と申立人を異にするが、その給付を命ずる範囲において実質的に子らの扶養に目的の手段としての機能を果たしているのであるから、本件において上記確定審判により形成された養育料の金額を越える部分について夫の子らに対する扶養義務を形成するのが相当である。

してみると、夫は、子ら各自に対し、扶養料として、昭和53年2月6日から昭和54年11月5日まで1人につき1ヶ月金5000円ずつ合計各金105000円を本審判確定時に、昭和54年11月6日から子らがそれぞれ成年に達するまで1人につき各金5000円を各当月末日限りそれぞれ支払うべきである。

スポンサードリンク