「相続させる」旨の遺言書・・・
遺言で相続財産を処分する場合、特定の人に「相続させる」とか[遺贈する」とかの表現のほかに、現実には「帰属させる」「取得させる」「所有させる」「贈与する」「譲渡する」「与える」「分ける」「譲る」「渡す」「やる」などいろいろの表現が用いられています。
現実に用いられている文言の趣旨が、相続人以外の者に対する場合は、遺贈であることは疑いがありませんが、相続人に対する場合には、それが相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、または遺言による特別の財産処分のいずれに該当するのかを見極めることは困難です。
これらの違いは、遺産分割の手続に違いが出てくるのです。
そこで、具体的事案に応じ、いずれが遺言者の真意であるかを判断しなければなりません。
◇相続させる旨の遺言
特定の相続財産を特定の共同相続人に「相続させる」旨の遺言をした場合、この遺言の趣旨をどのように解するかについて、登記実務では、相続を原因として所有権移転登記を単独で申請できる取り扱いになっています。
要するに、遺言で不動産を一人で「相続させる」旨が書かれていた場合には、その一人で登記申請できるわけです。
普通は、当然、相続人全員が遺産分割をして登記申請します。
しかし、「相続させる」旨の遺言の効果について争いが起こり、訴訟になった場合、判例の多くは、その遺言を、原則として遺言分割方法の指定と解し、その相続人の法定相続分を超えるときは、相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定であって、指定された形の遺産共有関係が成立し、分割の協議または審判によって指定された財産を取得することになるとされています。
そして、最終的に判例で、「相続させる」旨の遺言の解釈は統一されています。
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものであるとしています。
また、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるとされています。
そして、「相続させる」旨の遺言と「遺贈」遺言には、次のような違いがあります。
<不動産所有権の移転登記の場合>
①移転登記手続において、「遺贈」の場合は受遺者と遺言執行者または全相続人が共同で申請しなければなりませんが、「相続させる」旨の場合は当該相続人が相続を登記原因として単独で申請することができます。
②所有権移転登記申請の際に課される登録免許税の税率は、「遺贈」の場合は不動産価額の1000分の20、「相続させる」旨の遺言の場合は1000分の4です。
③農地の取得について、「遺贈」の場合は都道府県知事の許可が要りますし、その許可は一定面積以上の農地を耕作または所有していないと得られませんが、「相続させる」旨の場合は都道府県知事の許可は要りませんから、農地を耕作または所有していなくても取得することができます。
<借地権・借家権の承継の場合>
借地権・借家権の取得について、「遺贈」の場合は原則として賃貸人の承諾が要りますが、「相続させる」旨の場合は要りません。
<株式譲渡の場合>
株式の取得について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある場合、「遺贈」の場合はその承認が要りますが、「相続させる」旨の場合はいらないとされています。
このように「相続させる」旨を記載するだけで、遺言の趣旨が変わってくるわけです。
スポンサードリンク
公正証書遺言書作成・・・
公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で述べ、これを公証人が公正証書として作成する遺言です。
公正証書とは、法務大臣によって任命された公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書をいいます。
公正証書遺言の作成要件は、次になります。
①証人2人以上の立会いがあること
証人の立会いが要求されているのは、遺言者が当人に間違いないこと、正常な精神状態で遺言を公証人に口授したことを確かめること、遺言証書の筆記の正確なことなどを証明するためです。
そして、推定相続人、受遺者およびその配偶者ならびに直系血族は、遺言の証人または立会人となることはできません。
証人は2人以上の立会いが要求されているため、遺言書作成中は、始めから終わりまで2人以上の証人が立ち会っていなければなりません。
②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
口授は、遺言者が遺言の趣旨を公証人に対して直接口頭で陳述することをいいます。
③公証人が、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させること
④遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自署名押印すること
⑤公証人の付記と署名押印
公証人が、その証書が上記①~④の方式に従って作られたものである旨を付記して、これに署名し、印を押します。
公正証書遺言は、普通の公正証書と異なり、必ずしも全国主要地に設けられている公証役場で作成しなくても構いません。
遺言者の入院先の病院や自宅などに公証人の出張を求めて作成することもできます。
また、公証役場の設けられていないところでは、法務局または地方法務局の支局に勤務する法務事務官が公証人の職務を行います。
国外において公正証書遺言を作成する場合には、日本の領事が公証人の職務を行います。
遺言者が公正証書遺言をするに当たって、公証役場に持参すべきものは次になります。
①遺言者を確認するための本人の実印と印鑑証明書1通。
印鑑証明書がない場合は、運転免許証、外国人登録証明書、旅券、船員手帳、乗員手帳、入国許可証をもって代えることができます。
②証人の認印。
証人には、印鑑証明などは要りません。
しかし、証人欠格自由の未成年者かどうかを確かめるために印鑑証明書または住民票の写しなどが必要になる場合もあります。
③遺言者および受遺者の戸籍謄本を各1通。
受遺者が法人の場合は、法人の登記簿謄本。
④遺産が土地・家屋の場合は、その登記簿謄本または抄本を筆数ごとに各1通。
⑤遺産が不動産の場合は、作成手数料算出の参考とするための固定資産税評価証明書または評価通知書1通。
公正証書遺言作成の手数料は、遺贈する財産の時価が目的価格となり、一定の率で算出されますが、その額は公証人手数料令に定められています。
また、1通の遺言者で、数人に相続させる遺言をしたときは、各相続人ごとに1行為として各行為ごとに手数料が計算されます。
出張して遺言書を作成した場合は、割増料として上記により算出した手数料の半額が加算されるほか、日当および旅費等も加わります。
公正証書遺言は、通常、原本のほか、正本・謄本の合計3通が作成されます。
原本は公証役場で20年間保管され、正本は遺言執行者が執行のために保管し、謄本は遺言者が保管します。
しかし、遺言執行者の指定がない場合には、通常、正本は遺言者が保管し、謄本は相続人の1人が保管します。
また、正本・謄本とも遺言者が保管する場合もあります。
公正証書遺言を作成するためには、このような手続を踏む必要があるのです。
遺言は使い勝手のよいものが一番です。
スポンサードリンク
秘密証書遺言書作成・・・
秘密証書遺言は、遺言の内容を遺言者の生存中秘密にし、単に遺言の形式的な存在だけを確実にしておくために用いられるものです。
この遺言は、遺言書そのものの方式ではなく、遺言書を秘密に保管するための方式ですから、遺言書自体に特別の方式はありません。
ただ、遺言書に封をし、遺言書が封入されていることを公正証書の手続で公証するだけです。
自筆証書遺言と公正証書遺言とを折衷した方式といわれています。
封筒に入れる秘密証書遺言の作成要件は、次になります。
①遺言書は、特に一定の方式によって作成する必要はなく、自筆証書でも構いませんし、他人が代筆しても差し支えありません。
また、タイプライター・ワープロ・点字機を用いても構いませんし、印刷したものでも差し支えありません。
ただ、遺言書には遺言者の署名押印だけが必要です。
この署名のないものは無効になります。
日付を必要としないのは、公証人が封紙に記載する日付をもって確定日付とするためです。
また、遺言書の加除変更は、自筆証書遺言の場合と同様です。
遺言書の作成は代筆でもよいので付記も代筆で構いません。
②遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること
遺言の内容を判明できないようにするため、遺言者自身が遺言書を封じ、遺言書に押印した印章をもって封印しなければなりません。
封印は遺言書に押印したのと同じ印章を用いなければ遺言が無効となります。
③遺言者が公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること
推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族は、遺言の証人または立会人ととなることはできません。
自筆でないときに遺言書の筆者の氏名および住所を申述させるのは、後日紛争が生じた場合に尋問することができるようにするためです。
遺言者自身が遺言書を書いたときは、その旨だけを申述します。
④公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を押すこと
遺言書の提出を受けた公証人は、その遺言書の提出の日付および遺言者の申述を封紙に記載します。
遺言者の署名は、公正証書遺言のように、公証人が自書できない事由を封紙に記載して署名に代えることはできず、必ず自書しなければなりません。
したがって、自書できない者は秘密証書遺言をすることができないことになります。
遺言者には、印鑑証明書などを提出して人違いでないことを公証人に証明する必要があります。
しかし、証人には提出する必要はありません。
秘密証書遺言がその方式に欠けるところがあっても、その遺言書が自筆証書遺言の要件を具備しているときは、自筆証書遺言として有効とされます。
この場合の遺言成立の日は、公証人が封紙に記載した日付ではなく、遺言書に記載されている日付がこれに当たります。
別個の事項を2通の遺言書に各別に記載し、この2通が1個の封筒に封入されて秘密証書遺言となっているときは、2個の内容を包含する1個の遺言書として取り扱われます。
秘密証書遺言には、公証人が関与しますが遺言書の保管は遺言者に任され、公証人は保管しません。
公証役場には、遺言したことが記録されるだけで、遺言の内容は記録されません。
したがって、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同様に破棄、偽造、変造などの危険がありますので、遺言者自身が最も安全な保管方法を講じておく必要があります。
秘密証書方式による遺言書も公正証書によって作成されたもの以外の遺言者については、検認が必要です。
遺言書を作成する場合には、使い勝手のよいものが一番です。
よろしければお気軽にご相談ください。
スポンサードリンク
死亡危急者遺言書作成・・・
死亡危急者遺言は、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授します。
この場合には、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者および他の証人に読み聞かせ、または閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名押印しなければなりません。
死亡危急者遺言の作成要件は次になります。
①遺言者が疾病その他の事由によって死亡の危急が迫っていること。
「死亡の危急に迫った」というのは、必ずしも医学的、客観的に死亡の危急が切迫していることは必要ではなく、遺言者が主観的に自己の死亡の危急が迫っているものと自覚したときでも、また、周囲の遺言者の病状、負傷、老衰の程度から死期が近いと判断されたときでもよいと解されています。
その原因は、病気、負傷、老衰など何であるかを問いません。
②証人3人以上の立会いがあること。
証人の欠格事由については、普通方式の遺言の場合と同様です。
証人は、筆記の正確なことを承認して署名押印をしなければなりませんから、署名押印のできない者は証人となることはできません。
証人は、全員がそろって終始継続して立ち会っていなければなりません。
証人が中座して1人しか立ち会っていない場合に筆記がなされたときは、方式違背として無効となります。
また、3人の適格者の証人のほかに、推定相続人や受遺者といった遺言に直接利害関係のある証人欠格者が立ち会って、口授を筆記したり、読み聞かせたりして、その遺言全般にわたって主導的な働きをしたような場合は、この欠格者によって遺言者や他の証人が牽制される危険性が多いため、その遺言を無効とするとされています。
③遺言者が遺言の趣旨を証人1人に口授すること。
遺言作成当時、遺言の趣旨を口授する能力のない者のなした口授は、遺言者の真意に出たものとは認められませんから、その遺言は無効になります。
④口授を受けた証人が、これを筆記して、遺言者および他の証人に読み聞かせ、または閲覧させること。
口授方式による危急時遺言でも、遺言者の口授がそのまま遺言にはなりません。
遺言者の口授を受けた証人がこれを筆記しなければなりません。
筆記は、遺言者の意思に忠実でなければなりませんが、口授そのままでなくても、その意味が口授の趣旨に合致していれば差し支えありません。
読み聞かせは、筆記の内容が正確であることを遺言者および他の証人に知らせるためのものですから、筆記した遺言の全文にわたらなければなりません。
⑤各証人が筆記の正確なことを承認した後、署名押印すること。
各証人は筆記が正確である場合には、これを承認します。
承認したことを遺言書に記載する必要はありません。
承認するのは、公正証書遺言と異なり証人だけです。
遺言者に要求されないのは、死亡の危急が迫っているので、筆記が正確か否かの判断ができない場合が多いからです。
署名押印するのも証人だけです。
また、証人の署名押印は、遺言者の現存しない場所でされても構いません。
死亡危急者遺言の日付の記載は、要求されていません。
それは、遺言がなされた日は、立ち会った証人によって立証できますし、家庭裁判所の確認手続の過程で明確にできるからです。
筆記についての加除変更については、自筆証書遺言と同様の方式になります。
ただし、筆記した証人の付記と署名押印のほかに、各証人の署名押印を要します。
成年被後見人も、本心に復していれば、死亡危急者遺言をすることができます。
ただし、医師2人以上の立会いを要することは普通方式の遺言と同じです。
死亡危急者遺言は、死亡の危急に迫った者がなした口頭遺言の内容を証人が筆記したものですから、これが果たして遺言者の真意を間違いなく、正確に筆記されているかどうかを明確にする必要があります。
そこで、民法は、この遺言書作成当時の状況を証人その他の人の記憶が薄れないうちに、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければ、その効力を生じないとしました。
①申立権者
立会い証人の1人または利害関係人に限ります。
利害関係人とは、審判の結果につき法律上直接の利害関係を有する者をいいます。
例えば、推定相続人、受遺者、遺言執行者などです。
②申立期間
遺言者の生死に関係なく、「遺言の日から20日以内」に確認の請求をしなければなりません。
遺言の日とは、遺言者の口授から証人の署名押印までの遺言の作成要件が完了した日です。
申立期間は、この遺言の日の翌日から起算します。
③管轄
遺言者の生存中はその住所地、死亡後は相続開始地の家庭裁判所。
④申立費用
申立手数料遺言書1通につき収入印紙800円、郵便切手800円分。
⑤添付書類
遺言書の写し。
遺言者・立会い証人・申立人の各戸籍謄本および住民票。
医師の診断書。
死亡危急者遺言は、遺言者が普通方式の遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存するときは、その効力を生じません。
死亡危急者遺言は、疾病その他の事由のある場合に限って許される簡略な方式であり、遺言者の真意の確保や遺言の真正を期するという点では不確実です。
そこで、特別の事情がなくなった場合には、遺言を確実にするために厳格な普通方式の遺言をすることが望ましいからです。
普通方式の遺言をすることができるようになった時とは、疾病その他の事由による死亡の危急を免れてた時です。
6ヶ月の期間については、停止や中断が認められていないので、この期間が満了すれば無条件で特別方式の遺言は失効します。
スポンサードリンク