自書でない自筆証書遺言・・・

自書でない自筆証書遺言・・・

自筆証書遺言は、自書でなければなりませんから、タイプライター・ワープロや点字機で打った遺言書は自筆証書遺言といえないとされています。

また、このような方法による遺言書は、本人の真意によるものはどうかの判定が困難であり、加除変更の危険も多いから無効とされます。

自書にかえ平素専らタイプライターを使用している英国人が自らタイプライターを使って作成した遺言書を、自書に匹敵するものと認めて、有効とした審判例があります。

テープレコーダーに吹き込んだ遺言は、遺言者の肉声を伝えるので真意を知るには便利ですが、加除変更の危険があるから一般に無効とされます。

遺言書の全文を他人が代わって書いた遺言書は、自書ではないから無効です。

遺言者の指示で他人が書き、遺言者が自分の遺言として確認して署名押印しても無効です。

他人が書いた下書きを遺言者が筆写した遺言書は、遺言者に読解力があれば自書と解し有効とされています。

無筆の遺言者が弁護士の書いたカタカナの下書きを写した場合も有効とされています。

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他人が補助した自筆証書遺言・・・

手が震えて字が書けない遺言者の運筆を他人が補助して作成した遺言書は、自書とみて有効とされた事例があります。

他人に添え手を受けて作成された自筆証書遺言について、最高裁は、

①遺言者が証書作成時に自書能力を有し、

②他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記をし容易にするための支えを借りているだけであり、かつ、添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、自書の要件を充たすものとして有効であると解しています。

そして、認定事実によれば、本件遺言書は遺言者も手を動かしたにせよ、補助者が遺言者の声を聞きつつこれに従って積極的に手を誘導し、補助者の整然と字を書こうとする意思に基づき本件遺言書が作成されたものであり、②の要件を欠き無効とした原審の判断を正当としています。

遺言書作成の時、遺言者は衰弱と腹水のため自力で起き上がることができなかったのでその場に立ち会っていた控訴人が上半身を起してやり、背後から遺言者の身体を支えた。

遺言者は、バインダーを台にして自ら右手にボールペンを握り、被控訴人の用意した用紙に遺言の内容を書こうとしたが、肘が固定せず手が震えてそのままでは筆記が困難だったので、被控訴人は、自分の右掌を上に向けて遺言者の右手首の下に当てて同人の手を支えてやり、同人の手を筆記する位置に導いてやったこと、遺言者は被控訴人の添え手による右のような補助を受けながら自分の意思で一文字ずつ筆記し、「ゆいごん わしのいさんそうぞくの指定ちしっこうを****べんごしにいたくする 昭和55年12月13日 ****」と記載し、更に被控訴人に指示して名前の下に同人の印章を押印させて本件遺言書を作成したこと、遺言者の右筆記にあたり、被控訴人は、遺言者の右手首を上から握ったり、ボールペンに触れたり、あるいは筆順に従って同人の手を誘導したりしたことはなかったこと、別件遺言無効確認訴訟における筆跡鑑定によれば、本件遺言書は、遺言者が右手を被控訴人に支えてもらい、配字などにつき援助を受けながら、自ら最後の力を振り絞って書き上げたものとされている。

右認定の事実によれば、遺言者の本件遺言は、被控訴人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言であるが、遺言者は、本件遺言書作成当時、意思能力に欠けるところはなく、自書能力を有し、かつ、単に字の間配り行間を整えるなど筆記を容易にするため被控訴人の添え手による支えを借りて自ら自書したものであり、運筆に被控訴人の意思が介入した形跡のないことが筆跡の上でも判定できるから、本件遺言は、自書の要件を充たすものとして、有効とした事例があります。

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自筆証書遺言の日付の自書 ・・・

自筆証書遺言に、日付の自書が要求されているのは、遺言の成立時期を明らかにし、遺言能力の有無を判断する標準時期や、内容の抵触する複数の遺言書がある場合にその前後を決定し撤回の有無の判定などのためです。

日付のない遺言は無効です。

また、日付は自書しなければならないから日付印をもちいたときも無効とされます。

(遺言能力)
民法第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。

民法第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

日付は、通常は、年・月・日で表されています。

しかし、日付は遺言成立の日が確定できれば十分で、例えは、私の還暦の日、銀婚式の日という記載でもよいとされます。

判例は、年月だけを記載し、日の記載のない遺言を無効としています。

また、何年何月吉日という記載も、日の記載のない場合に当たり無効と解しています。

日付は、遺言者が自書しなければなりませんが、手が震えて文字がよく書けないために、他人に運筆を助けてもらって遺言者が任意に日付を記載した場合には、遺言者が日付を自書したものとして有効と解されています。

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自筆証書遺言の日付の不実記載・・・

日付は、全文を自書した日を記載するのが原則です。

判例は、全文を自書した日の翌日に、前日の日付を記載しても有効としています。

これは、全文と日付の自書が一連の遺言行為と認められる場合には、多少のずれは許されるとする見解です。

しかし、全文を自書した日と実際に日付を記載した日とがかけ離れている場合には、原則に戻って実際に日付を記載した日を遺言の日付としなければなりません。

判例も、全文を自書した日から8日後に当日の日付を記載した場合は、実際に日付を記載した日を遺言の日付としています。

故意による不実記載の場合、例えば、遺言作成の日より遡らせ記載したようなときは、日付の記載を欠くものとして遺言は無効と解されています。

遺言書が実際に作成された日及び実際の作成日と異なる日が記載され、2年近くも遡った日を記載しているときは、単なる誤記というべきではなく、このような遺言書は不実の日付の記載のある作成日の記載がない遺言書と同視すべきであり、自筆証書遺言の方式を欠くものとして無効と解すべきであるとされます。

錯誤によって遺言者が日付を記載した場合は、それが誤記であること及び真実の作成の日が証書の記載その他から容易に判明できれば、日付の誤りをもって遺言を無効とすべきではなく、「昭和五拾四拾年」は昭和五拾四年の誤記であり、特定日の記載として有効と認められています。

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