相続放棄の動機の錯誤無効・・・

相続放棄の動機の錯誤無効・・・

相続放棄の結果法律上正当な相続人と認められるべき者があるかに関する錯誤は、相続放棄をするに至った動機に存するものといわざるを得ないが、相続放棄が相手方のない単独行為である点に着目するならば、かかる動機は少なくとも相続放棄の手続において表示され、受理裁判所はもとより、当該相続放棄の結果反射的に影響を受ける利害関係者にも知りうべき客観的な状況が作出されている場合においては、表示された動機にかかる錯誤として、民法95条により当該放棄の無効が認められるとして事例があります。

本件被相続人は妻子がなく、母、祖母があり、母が被相続人の弟妹に相続させるために相続放棄をした後、直接、弟妹が相続登記をしている事案で、相続放棄の申述書には「申述人としては被相続人の弟や妹に相続させたく、従って、自分は相続したくありませんのでここに相続放棄の申述をします」との記載があり、家庭裁判所の審問には「被相続人の経営してきた事業を同人に代わって行なっている次男や他の子供たちに相続させたく、私は放棄することにしました」と陳述しています。

(錯誤)
民法第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

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相続放棄の追認・・・

他人が作成提出した相続放棄の申述を追認することができますが、その場合には、家事審判規則3条に則り、当該家庭裁判所に対し申述します。

家事審判規則第三条 申立その他の申述は、書面又は口頭でこれをすることができる。
2 口頭で申述をするには、裁判所書記官の面前で陳述しなければならない。この場合には、裁判所書記官は、調書を作らなければならない。

相続人Aの相続放棄申述書は、相続人BがAの了解を得ることなく、作成提出したものであるばかりか、Aは相続開始を知った当初から相続放棄の考慮期間の末日までの間に相続放棄の意思を有したことは全くなく、したがって右期間内に右申述を追認し、あるいはA自身において改めて放棄の申述をした事実が認められない場合、A名義でされた申述は何ら効力はなく、したがってAについては考慮期間の徒過したことにより本件相続につき単純承認の効果を生じたというべきであるとされます。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

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相続放棄と詐害行為取消権 ・・・

相続放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解されています。

(詐害行為取消権)
民法第424条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
民法第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

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相続放棄と登記・・・

代位による共同相続の登記がされた後に相続放棄をした相続人は、放棄をしなかった相続人に対して相続放棄を原因とする持分の移転登記手続きに協力する義務があります。

相続人の債権者は相続人に代位して右共有持分の所有権移転登記手続きを請求することができます。

相続放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、右相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記をしても、その仮差押登記は無効です。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
民法第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

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