精神病を原因とした離婚請求の具体的方途・・・

精神病を原因とした離婚請求の具体的方途・・・

離婚の事案

夫は、妻が人嫌いで近所の人とも付き合わず、夫が経営する新聞販売店の従業員とも打ち解けず、店の仕事に無関心で全く協力しなかったので離婚したいと考え、離婚調停を申立て、以後妻は実家に引き取られ夫と別居している。

離婚調停中に妻は精神病になり入院したため、夫は調停を取下げた。

妻は禁治産宣言を受け、妻の父が後見人に選任された。

妻は、一事退院したものの、入院し、以後控訴審の口頭弁論終結時においても入院中である。

夫は民法770条1項4号に基づき妻に対して離婚及び長女の親権者を夫に指定することを求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審、控訴審とも、夫の請求を認容した。

②上告審も、以下のとおり述べて、妻の上告を棄却した。

民法770条1項4号と同条2項は、単に夫婦の一方が不治の病にかかった一事をもって直ちに離婚の請求ありとするものと解すべきではなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、直ちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許されない法意であると解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである。

ところで、妻は、婚姻当初から性格が変わっていて異常の行動をし、人嫌いで近所の人とも付き合わず、夫の店の従業員とも打ち解けず、店の仕事に無関心で全く協力しなかったのであり、そして、昭和32年12月21日頃から上告人である実家の許に別居し、そこから入院したが、妻の実家は、夫が支出しなければ妻の療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないにもかかわらず、妻の過去の療養費については、昭和40年4月5日妻との間で、妻が発病した昭和33年4月6日以降の入院料、治療費及び雑費として金30万円を妻に分割して支払う旨の示談をし、即日15万円を支払い、残額をも昭和41年1月末日までの間に約定どおり全額支払い、妻においても異議なくこれを受領しており、その将来の療養費については、本訴が第二審に継続してから後裁判所の試みた和解において、自己の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明しており、夫と妻の間の長女は夫が出生当時から引き続き養育していることは、原審の適法に確定したところである。

そして、これらの諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、妻の民法770条1項4号に基づく離婚の請求を認容した原判決は正当として是認することができるとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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婚姻の破綻後の同棲・・・

離婚の事案

夫は、妻と婚姻届をし、同時に妻の父と母と養子縁組届をした。

夫は、妻の父の営む質商及び貸衣装商の仕事をした。

妻の父は、夫の親族を罵り、夫に対して男色的行為を強要し、夫がこれを避けると夫をいびり、夫婦関係まで干渉した。

妻も父の言動に同調追随した。

長男が生まれたが、夫は家を出て、妻と別居した。

夫は、本件離婚及び離縁の訴えを提起した。

夫は、他の女性と同棲して夫婦同様の生活を送り、その女性との間に女児が生まれた。

離婚の判例

①一審、控訴審とも、夫と妻の間には、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、夫の請求を認容した。

②上告審も以下のとおり述べて、妻らの上告を棄却した。

原審が適法に確定した事実によれば、夫は、妻との間の婚姻関係が完全に破綻した後において、他の女性と同棲し、夫婦同様の生活を送り、その間に一児をもうけたというのである。

右事実関係のもとにおいては、その同棲は、夫と妻との間の婚姻関係を破綻させる原因となったものではないから、これをもって本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。

右同棲が第一審継続中に生じたものであるとしても、別異に解すべき理由はない。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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有責配偶者の離婚請求の要件・・・

離婚の事案

夫と妻は婚姻し、夫が南方で従軍した期間を除き平穏に同居生活をしていた。

夫妻は子が生まれなかったため、2人の子を養子縁組した。

その後、夫は、他の女性と同棲し、以後夫と妻は別居状態にある。

夫と女性との間には二子が生まれ、夫はこの二子を認知した。

夫は妻に対して離婚請求訴訟を提起したが、これは棄却された。

夫は、離婚調停申立てをしたが、不成立となったので、妻に対して本件離婚請求訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審、控訴審とも、有責配偶者である夫の請求を認容することは信義誠実の原則に照らし許されないとして、夫の請求を棄却した。

②上告審は、以下のとおり述べて、原判決を破棄し、高裁に差し戻した。

民法770条1項5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、例えば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響しあって変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。

そうであってみれば、有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない。

夫と妻との婚姻については5号所定の事由があり、夫は有責配偶者というべきであるが、夫と妻との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約36年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものであるとした。

③差戻審では、妻は、4000万円の予備的財産分与の申立て、3000万円の慰謝料請求の予備的反訴を提起した。

差戻審では、離婚請求を認容することができない特段の事情は認められないとして、夫の離婚請求を認めた。

そして、夫に対して、月10万円ずつ平均余命の範囲内である10年分の離婚後の生活費にかかる財産分与として1000万円、慰謝料として1500万円の支払を命じた。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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