別居期間8年の有責配偶者からの離婚請求の棄却・・・

別居期間8年の有責配偶者からの離婚請求の棄却・・・

離婚の事案

夫と妻には、長女、二女、長男、二男がそれぞれ生まれた。

夫は自宅近くにアパートを借りてそこで寝泊りするようになったが、再度妻らと同居した。

その後、夫は、他の女性と関係をもち、女性の家の一間を賃借してそこで生活するようになり、同棲関係と見える状態になった。

夫は、妻に対して本件離婚請求訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫妻の婚姻関係は、昭和57年2月頃には完全に破綻し、その原因は夫妻双方にあるとして、夫の離婚請求を認めた。

②控訴審は、婚姻破綻の主たる責任は夫にあるとして、有責配偶者である夫の請求を棄却した。

③上告審は、以下のとおり述べて、上告を棄却した。

民法770条1項5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないというべきである。

夫と妻との婚姻については同号所定の事由があり、夫は有責配偶者というべきであるが、夫と妻との別居期間は、原審の口頭弁論終結時まで8年余であり、双方の年齢や同居期間を考慮すると、別居期間が相当の長期間に及んでいるものというべきではできず、その他本件離婚請求を認容すべき特段の事情も見当たらないから、本訴請求は、有責配偶者からの請求としてこれを棄却すべきであるとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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別居期間8年の有責配偶者からの離婚請求の認容・・・

離婚の事案

夫は、独立して商売を始め、妻はその仕事を手伝っていたが、商売のやり方について意見が異なり、口論が絶えなかった。

そのため妻は手伝いをやめた。

夫は、「一人になって暫く考えたい。疲れた。」と言って別居し、当初2、3ヶ月は週に2日位妻方に帰っていたが、その後はこれも止めた。

夫は、別居前から他の女性と肉体関係があり、妻との別居後に女性と同棲するようになり、間もなく女性とは別れたものの、妻や子供には自分の住所も明かさなかった。

夫は、妻に対して、生活費を渡していたが、妻が夫の名義の不動産に対して処分禁止の仮処分の執行としたことに立腹して、これを中止した。

その後、婚姻費用分担の調停が成立し、月20万円の婚姻費用を送金している。

夫は、妻に対して本件離婚請求訴訟を提起した。

控訴審の和解において、夫は、離婚に伴う財産分与として、妻が居住している夫名義の土地建物の処分代金から経費を控除した残金を折半し、抵当権の被担保債務は夫の取得分の中から弁済するとの案を提示している。

離婚の判例

①一審は、夫は有責配偶者であると認定したが、夫の離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するような特段の事情はないとして、夫の請求を認めた。

②控訴審は、約8年の別居期間は、23年余の同居期間、夫と妻の年齢と対比した場合に、いまだ夫の有責配偶者としての責任と妻の婚姻関係継続の希望とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間ということはできないとして、夫の請求を棄却した。

③上告審は、以下のとおり述べて、原判決を破棄し、差し戻した。

有責配偶者からの民法770条1項5号所定の事由による離婚請求の許否を判断する場合には、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかをも斟酌すべきものであるが、その趣旨は、別居後の時の経過とともに、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないから、右離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであることにある。

したがって、別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。

夫と妻との別居期間は約8年ではあるが、夫は、別居後においても妻及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、妻に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、妻は、夫との婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から5年余を経たころに夫名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するにいたっており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる妻の意思に任せる意向であるというのである。

そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのであるとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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宗教活動を原因とする離婚請求の認容・・・

離婚の事案

妻は、ある宗教団体の勉強会に参加するようになり、熱心な信者となり、子供を連れて定期的に集会に参加するようになった。

夫は、妻が信仰している宗教がある宗教団体であることを知り、妻に対して信仰を止めるよう説得したが、妻はこれを聞かなかった。

夫は、その後、妻とは家庭内別居の状態となり、自宅を出て妻や子供たちと別居をした。

夫は、離婚調停の申立てをしたが、いずれも不調となった。

夫は、妻に対して、離婚、慰謝料として600万円の支払い、子供たちの親権者を妻と定めることを求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫と妻との婚姻生活は破綻に瀕しているが、その責任は主として夫にあり、夫が家庭の幸福を取り戻すための努力をすべきで、円満な家庭を回復する可能性はあるとして、夫の請求を棄却した。

②控訴審は、以下のように述べて、原判決を取消し、民法770条1項5号に基づき夫の離婚請求を認容したが、夫の慰謝料請求については、婚姻破綻の責任は双方にあるとして、認めなかった。

夫は、前記認定の経過に基づき、自らの意思によって既に長期間別居しており、今後妻が宗教活動を止めても再び夫婦としての共同生活を営む気持ちは完全に喪失したと考えているのに対し、妻は、夫と離婚する気持ちは全くなく、夫が帰ってくるのをいつまでも待っているとはいうものの、夫との共同生活を回復するために、宗教活動を止めるとか自粛する気持ちは毛頭なく、夫が「ある宗教団体」を嫌悪するのは、同人がその協議を正しく理解しておらず、かつ、アルコール依存症により精神状態が不安定になっているためであると考えるなど、夫の考えとは全く相容れない正反対の考え方をしているから、今後、双方が相手のために自分の考え方や立場を譲り、夫婦としての共同生活を回復する余地は全くないものといわざるを得ない。

したがって、夫と妻との婚姻関係は、既に完全に破綻しているものと認めざべきである。

信仰の自由は、個人の基本的人権に属する問題であり、夫婦といえどもこれを侵害することは許されない。

しかし、夫婦の間では、互いに相手の考え方や立場を尊重して、自己の行為の節度を守り、相協力して、家族間の精神的融和をはかり、夫婦関係を円満に保つように努力すべき義務があるのであり、夫婦の一方が自己の信仰の自由のみを強調し、その信仰に基づく宗教活動に専念して、相手の生活や気持ちを全く無視するような態度をとった結果、夫婦関係が悪化し、婚姻関係を継続し難い状態に立ち至った場合には、その者にも婚姻関係破綻の責任があるとされてもやむを得ないものといわなければならない。

一方、前記認定の事実によれば、夫は、妻との婚姻生活中、飲酒にふけり、酔余落書きや器物破損に及んだこと等が認められるが、これらは、婚姻関係破綻の原因というよりは、むしろその結果というべきであり、仮にこれらが婚姻関係破綻の一因となったとしても、これのみでその破綻が生じたものとは解し得ない。

また、夫が妻に対し、同人の宗教活動を止めさせようとしたこと自体も、前記認定の事実関係の下においては、それほど非難に値する行為であったということはできない。

むしろ、本件においては、当事者双方が、それぞれ相手方の考え方や立場を無視してかたくなな態度をとり、婚姻関係を円満に継続する努力を怠ったことが婚姻関係破綻の原因であると考えられるから、夫のみに右婚姻関係破綻の責任を負わせることはできず、その責任は夫と妻の双方にあるといわざるを得ないとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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