難病を原因とする離婚請求・・・

難病を原因とする離婚請求・・・

離婚の事案

妻は、国が指定する難病である脊髄小脳変性症(本症)と診断され、入院した。

本症は脊髄と小脳が主として変性するので、平衡感覚に失調をきたすが、知能障害はみられない。

妻は、入院後も真っ直ぐ歩けない、階段は手すりにつかまらなければ昇降できないなどの平衡感覚の障害が顕著にあり、言語障害もあり、家事労働を行うことは、困難である。

夫は妻の入院後1回面会に来ただけで、入院の費用も支弁を止め、子供に対して妻との面会を禁止している。

なお、本症は、国の特定疾患に指定されているため、治療費の個人負担はない。

夫は妻に対して、民法770条1項5号に基づき、離婚請求した。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて夫の離婚請求を認容した。

右事実によれば、今後、夫妻が夫婦として暮らしていくことは困難であると認められ、したがって、夫妻間の婚姻を継続し難い重大な事由があるものといわざるをえない。

なるほど、妻が難病に疾患した場合に、夫が献身的に妻の介護にあたり、夫婦の絆を保ち続けるという事例もあることは公知の事実であるが、このような行為は美談として称賛されるものではあっても法的にこれを強制することまではできず、また、夫は、昭和62年6月初めに見舞った後は、妻の見舞いにも行かず、入院雑費も負担しておらず、これが夫婦の関係を疎遠なものにした一因ではあるが、これが婚姻関係の破綻の主たる原因であるともいえない。

②逆に控訴審は、以下のように述べて、一審判決を取消して、夫の離婚請求を棄却した。

右認定事実によると、夫と妻との婚姻生活における障害は、妻が本症に疾患したという一点にあるところ、なるほど、妻の現在の症状に照らせば、妻は家事をこなす能力に欠けており、周囲の者の理解ある援助がなければ、日常生活さえ支障をきたす状態にあるが、一方、知能障害は認められないから、夫婦間あるいは親子間における精神的交流は可能であり、子供との同居を願い、婚姻生活の継続を希望する妻の意思を考慮すると、本症に疾患し、日常生活の役に立たなくなったからという理由だけで、妻の座から去らせようとし、しかも、入院はさせたものの、国の援助に頼るのみで、看病はおろか、入院生活の援助もせずに放置し、将来にわたる誠意ある支援態勢を示さず、妻の希望する子供との交流さえ拒む、夫の態度のみによって、婚姻が回復し難いほど破綻していると認めることはできない。

また、妻の現在における症状からすれば、本症が、民法770条1項4号に定める、強度の精神病にも比肩しうると程度の疾患であるということもできないとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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配偶者の宗教活動による離婚請求・・・

離婚の事案

妻は、ある宗教団体の伝道師の話を聞くようになり、そのうち月に1度その集会にも参加するようになった。

宗教団体を信仰しているから先祖崇拝はしないと妻が言うのを聞いて、夫と夫の母は、これでは夫の先祖の位牌や墓を守ってもらうことができず、妻は、夫の妻として相応しくないと考え、妻との間で深刻な対立状態となった。

夫の母は、妻が信仰を止めないことから、夫方に置いておくことはできないと言い、妻はやむなく実家に帰り、以後夫や2人の子供とは別居することとなった。

夫と妻は、別居後2、3年の間は訪問したり、手紙を出したりしていたが、妻は、別居後ますます熱心に宗教団体を信仰するようになり、洗礼を受け、週3回の集会に参加し、妻の父の葬儀の夫の母の葬儀にも焼香はしなかった。

夫は、妻に対して、妻の信仰により婚姻関係は破綻しているとして、本件離婚請求訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、夫の離婚請求を棄却した。

妻が宗教団体を信仰するようになり、それが原因で夫婦間に亀裂が生じたことは明らかである、

しかし、妻は夫と同居中は1週間に約1時間の聖書の勉強会に出席した程度で、その宗教活動のために日常の家事や子供の養育を特に疎かにしたということはなく、また、仏壇に花を供えなかったり、初詣や墓参りに行かないことはあったが、夫や夫の母がこれらのことをするのを非難したり、妨害することはなく、妻としては、日常の家事や子供の養育には支障がないように相応の配慮をしていたものである。

そうとすれば、夫の方でも妻の信仰の自由を尊重する寛容さをもつべきで、宗教団体の信仰自体を全く許そうとしなかった夫には、その寛容さが著しく欠けていたといわなければならない。

夫と妻とは、すでに7年間以上別居状態が続いているが、別居後2、3年の間は双方が婚姻の継続を希望して交渉が続いていたこと、妻は、夫と再び実態のある婚姻生活をすることを強く願い、子供2人とも連絡を取り合っていることからすると、夫がこれまでの態度を改め、はじめから妻の信仰を禁圧するのではなく、その事由を尊重することを前提として、夫及び夫の母と妻の融和を図る積極的努力をし、妻も、婚姻生活の中でその宗教上の信条を余りにもかたくなに押し通すことなく、状況によってはこれを自制する弾力的な態度をとれば、実体のある婚姻関係を修復する余地があるものというべきである。

夫、妻間には、婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとはいえない。

②控訴審は、以下のように述べて、原判決を取消し、夫の離婚請求を認容した。

妻には自己の宗教活動を夫との関係を円満にするために自粛しようとの気持ちは全くないこと、仮に夫と妻とが同居を再開したとしても、妻が現に行なっている宗教活動の状況からすれば日常の家事や子供の養育に相当の支障が出てくるのは必至であり、夫がこれを認容することは全く期待できないこと、夫の妻に対する不信と憎悪の念が強く離婚の意思が固いこと、妻は離婚の意思がなく夫の言うことにも従いたいというが、別居期間はすでに8年に及んでおり、現実に夫婦関係が円満に回復するという見込みは全くないことが明らかであり、夫と妻との間の婚姻関係は既に完全に破綻しているものと認めるのが相当である。

ところで、信仰の自由は夫婦といえども互いに尊重しなければならないことはいうまでもないが、しかし、信仰の自由といっても、夫婦として共同生活を営む以上自ずから節度があるべきものであり、相手方の意見や立場を尊重して夫婦及び家族間の関係が円満に行くように努力し、生きすぎは慎むべきものである。

これを本件についてみるのに、前期認定事実によれば、妻の行動は、いささか限度を超えるところがあり夫婦間の協力扶助義務に反しているといわざるを得ない。

夫にも妻の信仰の自由を尊重する寛容さが足りない面がないとはいえないが、妻の行動と対比すれば、婚姻関係破綻につき夫を主たる有責配偶者であるとみることはできない。

以上によれば、夫の本件離婚請求は、民法770条1項5号所定の事由に該当するので、これを認容すべきものであるとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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アルツハイマー病の罹患を原因とする離婚請求・・・

離婚の事案

妻は、背骨が右側に湾曲し始め、話の内容がおかしくなったり妄想も起きてきた。

そのため、入院して検査したところ、アルツハイマー病とパーキンソン病に罹患(りかん)していると診断された。

その後、妻は自宅療養をし夫が世話をしていたが、症状がひどくなり、夫の実家近くの特別養護老人ホームに入所した。

妻は、アルツハイマー病に罹患しており、痴呆の程度は重度で回復の見込みはないと鑑定され、禁治産宣言を受け、夫が後見人になった。

夫は、再婚を考えるようになり、妻の後見監督人の弁護士に対して民法770条1項4号、5号に基づき離婚請求訴訟を提起した。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、夫の離婚請求を認容した。

夫妻間の婚姻関係は、妻がアルツハイマー病に罹患し、長期間にわたり夫婦間の協力義務を全く果たせないでいるなどによって破綻していることが明らかであり、夫は妻が老人ホームに入所した後も1週間から2週間に1度の割合で妻を見舞い世話していること、夫は離婚後も妻への若干の経済的援助及び面会をすることを考えていること、夫と妻の離婚後は、妻が入所している特別養護老人ホームは全額公費負担となることとうをも併せて考慮すると、夫の民法770条1項5号に基づく離婚請求はこれを認容するのが相当であるとした。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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