配偶者が居住する建物の財産分与・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻届をなし、5子をもうけ、そのうち4子は健在である。
夫は、夫の父に代わって農業を継ぎ、妻は、農家の嫁として農作業を手伝った。
夫は躁うつ病と診断され、妻に乱暴をはたらくようになった。
夫は、農地解放で取得した土地を売却し、その売却代金で本件(1)(2)の土地を購入したが、残った土地で農業を営むだけでは生計を立てるのが困難となり、会社の工員として勤務した。
夫は、入退院を繰り返し、会社を退職した。
妻は、胸椎椎間板ヘルニアに罹患し、身体障害者2級の認定を受けている。
妻らは、本件土地(1)上に自宅(本件(4)建物、保存登記は妻の名義)を新築したが、その建築資金は、夫が相続した土地の売却代金で工面され、更に、本件(3)の土地(夫が農地解放で取得した土地)上に店舗(本件(5)建物、保存登記は妻名義)を建てたが、その建築資金も夫が相続した土地の売却代金で捻出された。
妻は、離婚を決意して、夫婦関係調整の調停申立をなし、以後夫を見舞ったり、療養看護に当たったことはない。
夫は、入院し、退院したが、妻が自宅に迎え入れようとしないので、アパートを借り単身生活をしている。
妻は、離婚、財産分与を求める訴訟を提起し、夫は、離婚自体を争っている。
離婚の判例
①一審は、離婚を認め、財産分与として本件(1)(2)土地につき、妻と夫との各2分の1の持分による共有とし、本件(3)土地につき、妻のために建物所有を目的とする賃借権を認めた。
②控訴審は離婚については、夫の病状がかなり回復しているので、民法770条1項4号による離婚は認めず、夫婦関係は既に破綻しているとして同5号に基づく離婚を認めた。
財産分与については、以下のように述べて、一審判決を一部変更した。
本件(1)ないし(3)土地、本件(4)及び(5)建物は、いずれも夫固有の資産であって、その取得及び保持につき、妻が格別の努力を払ったといえるものではない。
夫婦の生活費などは、専ら相続土地を売却して捻出されていたのである。
丙原町土地も夫固有の資産によって取得したものであるから、同様である。
夫所有の不動産につき、妻の寄与をとりわけて認めえるものではなく、清算的な趣旨で分与を考える余地は少ない。
更に、妻は、本件において、慰謝料を加味して、財産分与を申し立てるが、夫の妻に対する行状に問題がないわけではないとはいえ、相続土地の売却代金で相応の生活が可能であったのに、夫が最終的な入院をしてから現在まで約10年間にわたって、打算的で冷淡な態度に終始してきた妻であってみれば、夫に請求しえる慰謝料自体、そう多額なものではないというべきであるから、財産分与に際して、これを重視することもできない。
以上説示したところに、妻の離婚後の扶養的な趣旨をも考慮に入れると、夫と妻に対して分与すべき財産としては、妻が相続土地の売却により取得した代金の残りのほか、妻名義で保存登記がなされているが、実質的には夫の所有である自宅の母屋(本件(4)建物のうち主たる建物)及び店舗(本件(5)建物)を妻に分与し、かつ、各建物の敷地に対する利用権を設定すれば十分というべきであって、右母屋の敷地(本件(1)土地)については、妻が居住することを考慮して、妻が生存中はこれを無償で利用し得る使用借権を、また、店舗の敷地(本件(3)土地)については、右店舗の営業利益等を考慮して、妻から夫に対して対価を支払わしむべく、下記の賃借権を、それぞれ設定するのが相当というべきである。
賃借権の内容
1、目的 普通建物所有
2、期間 本裁判確定の日から20年
3、賃料 月額3万円(毎月末日限り当月分を持参又は送金して支払う)
(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
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財産分与と不利益変更禁止・・・
離婚の事案
妻と夫は、結婚式を挙げ、婚姻届をなし、長男が生まれた。
夫は、結婚当時は重機運転手をしていたが、将来自分の店をもって飲食店を経営するのが希望で、妻が反対したにもかかわらず、勤めをやめ、修行を積んだ後、料理店を開店した。
妻と夫は、夫が開店した店の借入金等のことで不和となり、妻は、長男を連れて夫と別居した。
妻は、夫に対して、離婚、長男の親権者を妻とする、慰謝料として500万円、財産分与を求める訴訟を提起し、夫は、離婚、長男の親権者を夫とすることを求める反訴を提起した。
離婚の判例
①一審は、離婚、長男の親権者を妻と指定し、夫は妻に対して土地1(現存価格200万円と評価)及びその上の建物1(現存価格150万円と評価)並びに250万円を財産分与することを命じた。
妻の慰謝料請求は棄却した。
②一審判決のうち、親権者の指定及び財産分与の部分について、夫が控訴した。
控訴審は、以下のように述べて、一審判決のうち財産分与の部分を変更し、夫は妻に対して800万円を支払うよう命じた。
清算の方法としては、土地3は、建物2の敷地として利用され、右建物は、現在、夫が営業のために使用していること、建物1の敷地である土地1は特有財産であり、妻及び長男は、現在、右建物に居住していないこと、土地1及び土地2には、夫が前記の店舗を開店するために姉から借り入れた借入金を担保する目的で同人のために所有権移転請求権仮登記が経由されていることなどに鑑みれば、清算の対象となる不動産はいずれも夫が取得することとしたうえで、夫から妻に対し金銭支払いによる分与を命じることが相当であるとした。
なお、建物1は100万円、土地2は550万円、土地3は1000万円の時価であると認定した。
③夫は、控訴審において、妻が財産分与の額について不服申立をしていないのに、控訴審が一審判決を夫に不利益に変更したのは、不利益変更禁止の原則に反して違法である等と主張して、上告した。
上告審は以下のように述べて、上告を棄却した。
人事訴訟手続法15条1項の規定により離婚の訴えにおいてする財産分与の申立てについては、裁判所は申立人の主張に拘束されることなく自らその正当と認めるところに従って分与の有無、その額及び方法を定めるべきものであって、裁判所が申立人の主張を超えて有利に分与の額等を民定しても民訴法186条の規定に反するものではない。
したがって、第一審判決が一定の分与の額等を定めたのに対し、申立人の相手方のみが控訴の申立てをした場合においても、控訴裁判所が第一審の定めた分与の額等が正当でないと認めたときは、第一審判決を変更して、控訴裁判所の正当とする額等を定めるべきものであり、この場合には、いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はないと解するのが相当である。
人事訴訟手続法(廃止)第15条 夫婦ノ一方カ提起スル婚姻ノ取消又ハ離婚ノ訴ニ於テハ裁判所ハ申立ニ依リ子ノ監護ヲ為スヘキ者其他子ノ監護ニ付キ必要ナル事項ヲ定メ又ハ当事者ノ一方ヲシテ他ノ一方ニ対シ財産ノ分与ヲ為サシムルコトヲ得
2 前項ノ場合ニ於テハ裁判所ハ当事者ニ対シ子ノ引渡、金銭ノ支払、物ノ引渡其他ノ給付ヲ命スルコトヲ得
3 前2項ノ規定ニ依ル裁判ハ判決主文ニ掲ケテ之ヲ為スヘシ
4 前項ノ規定ハ家庭裁判所カ子ノ監護ヲ為スヘキ者ヲ変更シ其他子ノ監護ニ付キ相当ノ処分ヲ為スコトヲ妨ケス
5 前3項ノ規定ハ婚姻ノ取消又ハ離婚ノ訴ニ於テ裁判所カ父母ノ一方ヲ親権者ト定ムル場合ニ之ヲ準用ス
(第一審判決の取消し及び変更の範囲)
民事訴訟法第304条 第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
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離婚協議合意の多額の金銭支払請求・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻届をした。
夫は、ある女性と親密な関係になり、妻に離婚を求めるようになった。
妻は、夫と離婚することは考えていなかったので、この要求を拒否した。
妻は、夫が女性と親密な関係にあることは知らなかったが、その後夫の離婚を求める意思が強固であり、夫が離婚に際して、マンションと預貯金を渡す等と申し出たため、離婚に応ずることにした。
夫は、妻に対して離婚に伴い、今後23年間にわたり、住宅ローンの金額として1ヶ月6万円、①毎月給料から右金額を控除した残額の半額、②毎年ボーナスから20万円を控除した残額を支払うこと、貸付信託金と普通預金合計534万718円を給付すること、本件マンションを給付することを記載した書面を交付した(本件契約)。
妻と夫は、協議離婚し、夫は女性と再婚した。
しかし、夫は、妻に対して上記①及び②の金額をほとんど支払わなかったため、妻は、夫に対して本件契約に基づき、①②の未払い金及び将来の支払を求める本件訴訟を提起した。
離婚の判例
①一審は、将来の支払い分を含めて、妻の請求全額を認めた。
②控訴審は、以下のとおり述べて、妻の請求の一部を権利濫用として棄却した。
妻は現在は自活していける状況にあると認められること、夫と妻の収入と家族数、住居費の要否等からみた必要生活費とが著しく均衡を失している状態にあること、妻は離婚に当たり既に夫から本件マンション及び預貯金534万円余りの給付を受けていること、本件マンションは妻の住居として使用されていて、売却は予定されていないにしても、本件契約時でも2000万円を超える価値を有し、現在ではそれが4500万円近くに値上がりしていること、夫が妻に対して本件契約に基づく金銭給付を開始し始めた昭和60年10月から本件口頭弁論終結直前の平成2年4月までに夫が本件契約に基づいて妻に対して支払うべき給料分及び賞与分は、右契約時の給料及び賞与の額を基礎として計算しても、給料分が月8万円の55ヶ月分440万円、賞与分が年132万円の4年分528万円で、その合計は約1000万円に達することに照らすと、妻の本訴請求中平成2年5月以降も本件契約に基づき給料及び賞与分の支払を求める部分は、権利の濫用に当たり許されないものと解するのが相当である。
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