破産後の財産分与金支払請求権・・・

破産後の財産分与金支払請求権・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻届をなし、長女、長男が生まれた。

夫が賭博等で莫大なお金を使っていること等が発覚して、妻と夫は不仲になった。

妻は、夫に対して、離婚、慰謝料、財産分与等を請求する訴訟を提起し、離婚、慰謝料500万円、財産分与1000万円の支払を命じる判決が下され、同判決は確定した。

妻は、離婚訴訟に先立ち、夫所有の不動産に対して、財産分与1000万円、慰謝料2000万円を被保全権利とする仮差押命令を得た。

夫は、仮差押請求金額を供託して、仮差押執行取消決定を得た。

夫は、自己破産の申立てをし、破産宣告を受け、ある人が破産管財人となった。

妻は、破産管財人に対して、本件供託金3000万円のうち1000万円又は本件供託金3000万円のうち3分の1の共有部分は破産者の財産ではなく、妻の財産であると主張して、破産管財人に対して1000万円の支払を求める訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて妻の請求を棄却した。

妻は、前訴において、夫に対し夫の財産を現物分割によりその財産の一部を取得する方法によらないで、あえて夫に対し一定の債権を取得する方法によって財産分与を求め、その趣旨に従った判決を得たのであり、その結果前訴判決により妻は夫に対し金1000万円の債権を取得したにとどまるものであるから、前訴判決をもって直ちに妻が本件供託金のうちの1000万円を取得し、又は本件供託金に対する3分の1の準共有持分を取得したということはできない。

前訴判決が夫が妻に対し慰謝料500万円の支払を命じるとともに右のとおりの財産分与を命じていることからすると、右財産分与金の中には、離婚後の妻の扶養料も含まれていることも否定できないが、前訴判決上、右財産分与金のうちこれと実質上の共同財産の清算分配金とは明確に区別して定められていないのみならず、夫婦が離婚した後は相互に扶養義務がないことからすると、右財産分与金に含まれている離婚後の扶養料が破産法47条9号の財団債権に含まれるとは解し難いから、妻は夫に対し右財産分預金を財団債権として破産法所定の配当手続によらないで直接請求することはできない。

②控訴審も一審判決を維持した。

③上告審も以下のように述べて、上告を棄却した。

離婚における財産分与として金銭の支払を命ずる裁判が確定し、その後に分与者が破産した場合において、右財産分与金の支払を目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方、右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である。

けだし、離婚における財産分与は、分与者に属する財産を相手方に給付するものであるから、金銭の支払を内容とする財産分与を命ずる裁判が確定したとしても、分与の相手方は当該金銭の支払を求める債権を取得するに過ぎず、右債権の額に相当する金員が分与の相手方に当然に帰属するものではないからである。

スポンサードリンク

財産分与義務者の財産分与の申立・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻し、長女、長男が生まれた。

夫は、同人が経営する店の従業員の女性と不貞関係を続け、女性との間に生まれた子を認知した。

夫は、東京で女性とその子と生活するようになり、月1、2回は妻の住む大阪の家に泊まっていた。

夫は、このような生活が20年余り続いた後、離婚調停の申立てをしたが、不調となった。

夫は、妻に対して、本件離婚訴訟を提起し、離婚後の妻の生活の保障として1億5000万円の提供を申し出て、予備的申立てとして、右金額を上限とする財産分与の申立てをした。

離婚の判例

①一審は、夫と妻との別居状態の開始は、夫が離婚調停中に妻宅への出入りをやめた時点からであり、別居期間が長期に及んでいるとはいえないとして、有責配偶者である夫の離婚請求を棄却した。

②控訴審は、夫と妻の婚姻関係は昭和40年以降破綻状態にあると認定して、夫の離婚請求を認容した。

なお、夫が昭和40年以降も所用で大阪に来たときや正月には、妻の住む家に泊まっていたことについては、夫が事業等の関係から体裁をとる必要があったこと、大阪の家が自分の家であるとの意識が強かったことによるものであり、妻に対する愛情や同人との婚姻生活継続の意思によるものではないと認定した。

しかし、夫の予備的財産分与の申立てについては、以下のように述べて許されないとした。

離婚に伴って相手方配偶者に対して財産分与をなすべき義務を負う者が離婚請求に付随して財産分与の申立てをすることは、以下の理由により許されないものと解するのが相当である。

1、離婚した当事者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができるところ、財産分与について協議が成立しないときは、当事者は家庭裁判所に対して財産分与の処分を求めることができ、また、右申立ては、離婚請求訴訟において、付随的申立てとして行うことができる。

右申立ては、財産分与請求権の具体的内容の形成を求めるものであるから、財産分与を請求する者を申立権者として予定しているものと解するのが相当である。

一方、財産分与の義務を負う者は、協議や裁判所の処分によってその具体的内容が確定するまでは、相手方配偶者に対して現実に財産を分与する義務を負うことはないのであるから、このような者が自ら財産分与の具体的内容の形成を求める申立てを行なう必要を生ずることは通常考えられないところであり、申立権を認める必要はないと解される。

2、有責配偶者の離婚請求の許否と離婚が成立した場合の財産分与とは別個の問題であり、離婚訴訟と同一手続内で財産分与について判断し、その具体的内容を確定しなければ、離婚請求の許否について判断ができないとか、財産分与の内容いかんによって離婚請求に関する判断が左右されるという性質のものではないから、有責配偶者からの離婚請求の場合に、特に義務者からの財産分与の申立を認めるべき理由はないというべきである。

3、有責配偶者からの離婚請求訴訟において、被告となった相手方配偶者は、離婚請求を争っている場合でも、右請求が認容された場合に備えて、予備的に財産分与の申立をすることができると解されるが、相手方配偶者が予備的に財産分与の申立をせず、もっぱら離婚請求の当否のみを争っている場合には、裁判所が財産分与の要否並びに分与の額及び方法を定めるに当たって考慮すべき分与の対象となる財産の内容、総額や財産の形成・維持に対する当事者の貢献の内容について、相手方配偶者からの積極的な主張、立証を期待することはできない。

このような場合に有責配偶者からの申立に基づいて財産分与に関する処分を行うことからすると、裁判所は、実際上、職権でこれらの事情を探知することは困難であるから、主として財産分与の義務を負う有責配偶者の主張立証事実に基づいて財産分与の具体的内容を決定せざるを得ないこととなり、離婚による相手方配偶者の経済的不利益の救済として必ずしも十分な効果が期待できない。

したがって、この場合には、離婚確定後家庭裁判所における調停、審判手続によって財産分与請求権の具体的内容の形成をはかるのが相当であると考えられる。

スポンサードリンク

持ち出した共有財産の財産分与・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、長男が生まれた。

妻は、子供らとともに夫と別居した。

妻は、別居に際して、自己名義のゴルフ会員権証書、債券類合計3610万円相当を持ち出した。

妻は、離婚等を求める調停を申し立てたが、成立の見込がなかったため、取下げた。

妻は、夫に対して離婚、財産分与、慰謝料の支払いを求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、離婚、夫に対して妻への債券の財産分与を命じた。

②控訴審は、以下のように述べて、財産分与の対象となる実質的夫婦共有財産は合計7020万円であると認定し、一審判決のうち財産分与の部分を変更し、妻に対して夫へ1100万円の財産分与を命じた。

婚姻中の双方の生活状態、特に、妻が夫の特有財産及び夫婦共有財産の維持管理に当たって貢献を果たしているものの、ゴルフ等の遊行に多額の支出をしていて、夫婦財産の形成及び増加にさほど貢献していないこと、夫婦共有財産形成には夫の特有財産が大きく貢献していること、別居後の双方の住居その他の生活状態、特に、別居中の生活費は双方でそれぞれ負担したほか、長男の養育費を妻が負担したこと、財産分与の対象としてはいないが、妻が本件以外にも夫婦共有財産とみなすべき財産を所持している可能性が疑われること等本件の諸事情を考慮すると、財産分与の対象となる金額の約3割6分に相当する2510万円を妻に分与し、その余りを夫に分与するのが相当である。

そうすると、各財産の性質、所有名義、占有状態等のほか、本件記録に顕れた一切の事情を斟酌すると、本件離婚に伴う財産分与として、右財産のうち、ゴルフ会員権、宝石類及び債券類のうち100万円相当部分を妻に取得させ、残りを夫に取得させることとする。

そして、右妻、夫取得財産のうち、不動産、ゴルフ会員権及び株式はそれぞれ取得者名義であり、かつ、取得者が占有しているし、また、妻が取得する宝石類は妻が占有しているから、それらについては、主文において、各当事者に分与する旨を掲記しない。

これに対し、妻が取得する債券類は100万円相当であるから、前記共有財産に属すると認められ、かつ、妻が持ち出した債券類の評価額との差額相当の1100万円については、主文で、夫に分与される旨を宣言し、その金額相当額の支払いを命じることとする。

スポンサードリンク