養育費以外の一切の教育に関する費用・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女、長男、二女、三女が生まれた。
妻と夫の間には、以下の内容の離婚調停が成立した。
①長女、長男の親権者を夫とし、二女、三女の親権者を妻と定め、長女については同人が成年に達するまで、長男については、同人が高校を卒業するまで、妻において養育監護する。
②夫は、妻に対して、4子の養育費として、1子につき1ヶ月2万5000円を支払う。
③夫は、妻に対し、前記養育費のほか「現に通学中の学校及び将来進学する学校の授業料、教科書代、教材費、通学のための交通費、受験費、入学費その他一切の教育に関する費用を、その必要を生じた都度支払う。」
妻は、夫に対して、夫が支払った本件調停条項に該当する費用として、合計約268万円の支払を求める本件訴訟を提起した。
離婚の判例
裁判所は、以下のように述べて、妻の請求額のうち、以下の合計約104万円の支払を夫に命じた。
妻と夫とが離婚した昭和63年10月19日当時、長女は満19歳であって短期大学に在籍し、長男は満17歳であって高校2年に在籍し、二女は満15歳であって中学校3年に在籍し、三女は満10歳であって小学校5年に在籍していたところ、いずれも将来多額かつ容易に具体的費目を確定し難い諸々の教育費の支出が予想される状況にあったこと、そのため、妻と夫は、定額の養育費の支払い条項の他に本件調停条項を設けて、子らの教育に関して格別の配慮をしたことが認められる。
本件調停条項は、このような趣旨により設けられ、かつ、具体的費目につき特段の限定を付することなく、網羅的に、子らの現に通学中の学校及び将来進学する学校の授業料、教科書代、教材費、通学のための交通費、受験費、入学費その他一切の教育に関する費用を夫が妻に支払うとしているものであるから、右の「一切の教育に関する費用」とは、例示された「授業料、教科書代、教材費、通学のための交通費、受験費、入学費」以外の学校に支払うべき費用のみならず、学校教育を受ける際に必要な学用品や制服などの購入費用、学校教育を補完し進学準備のために一般に必要とされる塾や予備校の費用などを意味するものと解される。
他方、本件調停条項の他に養育費に関する条項が設けられていることに照らすと、給食費は、通常の食費の一部として、養育費によってまかなわれるべきである。
また、子らが個人的興味に基づいて行なう活動に要する費用は、本件調停条項が予定する費用に該当しないものとみられる。
二女の**塾に関する別表記載の番号の費用は、合計70万円に近いものであり、その負担が夫に経済的圧迫をもたらすであろうことは容易に推測することができる。
しかし、妻と夫は、離婚に際して、二女の親権者を妻と定め妻において監護養育する旨合意したのであるから、二女の教育に関する事項は、親権者である妻が決定すべきものであり、その決定にあたり夫に相談をし又は夫の了承を得るべき義務があるものとは解し難い。
また、妻には、教育に関する事項を決定するに際し、費用負担者である夫の経済面をも考慮すべき信義則上の義務があり、教育に関する費用であっても、その内容が社会生活上一般的に是認される範囲を超えた場合又は金額が不当に高額である場合には、夫にその支払を求めることが信義に反し権利の濫用に該当することがあり得ると解されるが、大学進学希望者らが受験準備のために予備校を利用することは世間一般的に行なわれていることであるから、二女が予備校である**塾に入学してその講習を受けることが、目的及び内容において是認される範囲を超えたものとは認められず、更に、前記金額が不当に高額であるとも認め難い。
したがって、前記番号の費用についても、夫はその支払い義務を免れないといわざるを得ない。
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多額の負債で養育費の免除・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女、長男、二女が生まれた。
妻と夫は、子らの親権者を妻と定めて調停離婚した。
その調停条項には、夫は、妻に対して、離婚に伴う解決金(過去の婚姻費用分担金を含む)として130万円を支払う。
子らの養育費については、和歌山家庭裁判所の家事調停、審判に委ねる旨の条項があった。
離婚後、妻は、パート勤めをし、月額6万ないし10万円程度の収入があるが、不足の生活費の月10万円位は、妻の父母から援助を受けている。
夫は、勤めていた会社を退職し、以後求職活動をしている適当な就職先が見つからない状態にあると主張している。
また、夫には、住宅ローンが800万円程度、離婚に伴う解決金支払のための借入金が130万円、自動車ローン返済のための借入金が130万円あって、これらの支払に月10万円以上要するが、全ての夫の父母に支払ってもらっている状態であると主張している。
妻は、夫に対して、子らの養育費として、子らがそれぞれ成人に達する月まで、1ヶ月1人につき3万円の支払を求める本件審判を申し立てた。
離婚の判例
①原審判は、夫には経済的な余力はないとして、妻の申立を却下した。
②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、差し戻した。
夫が夫妻を抱えているとしても、親の未成熟子に対する扶養義務は、親に存する余力の範囲内で行なえば足りるようないわゆる生活扶助義務ではなく、いわば一椀の飯も分かち合うという性質のものであり、親は子に対して自己と同程度の生活を常にさせるべきいわゆる生活保持義務なのである。
したがって、基本的には、親である夫が負債を抱えていたとしても、後記説示のとおり自らの生活が維持されており、債務の弁済すらなされている以上、未成熟子である子らの扶養義務を免れる余地はないものというべきである。
負債を抱えていることは、考慮すべき諸般の事情のうちの一つであるにすぎず、その返済のため経済的余裕がないからとして、直ちに未成熟子である子らに対する具体的養育費の支払い義務を否定する根拠とはならないのである。
原審は夫の日常生活の実情及びその推移を、夫の供述をそのまま採る以前に、調査、審理し、夫の退職が妻主張のとおりであると推認される場合にはもちろん、そうでない場合でも夫の新たな就職先を探す努力の程度内容、状況いかんによっては、夫の潜在的老荘能力を前提にして、本件養育費を算定することの可否及び当否をも検討すべきである。
また、夫は失業保険を受給中というのであるが、失業保険の給付は、現実的には、失業者本人のみでなく、その家族等の生活の維持に対し、一定の役割を果たしているのであって、このことは当裁判所に顕著である。
したがって、原審は、夫が受給したという保険給付金に関する詳細な事実関係を調査し、その結果を前提にして本件養育費を算定することの可否及び当否も検討すべきである。
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離婚訴訟の離婚前の養育費請求・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女が生まれた。
夫は、父親の代から家族で鰻屋を営んでおり、結婚の約1年後に建物を建築し、その1、2階が店舗、3階が夫の母と次姉の、4階が夫妻の、5階が長姉のそれぞれの居住部分であった。
妻は、このような同居生活に耐えられず、長女を連れて家出をし、以後パートをしながら、母子寮で生活してる。
なお、夫は別居後妻及び長女に対して生活費を全く支払っていない。
妻は、夫に対して、離婚、慰謝料として500万円、長女の親権者を妻と指定、長女の養育費として別居の翌月から成人に達する月まで、月6万円の支払を求める訴訟を提起した。
夫は離婚を争っている。
離婚の判例
①一審は、以下のように述べて、慰謝料を150万円とした以外は妻の請求を全て認めた。
妻と夫との婚姻生活は、両名の育成した家庭環境及びその中で培われた価値観の相違により破綻が生じ始め、夫が適切な対処法を怠ったことにより妻の夫に対する信頼は完全に互解してしまったことに加えて、別居以来既に2年半余りが経過したが、この間夫が事態の改善のために格別の努力をした形跡は認められず、また、妻は夫との婚姻生活を継続する意思を全く有していないことを考慮すると、本件婚姻生活はもはや修復し難い破綻状態に達しており、婚姻生活を維持することは到底困難であるというほかない。
②控訴審も一審判決を維持したが、養育費の点だけ一部変更し、長女が学齢に達するまでの養育費を月額5万円、その後は月額6万円とした。
③上告審は、離婚訴訟で離婚までの養育費の支払を命ずることについて、以下のように述べて、これを認めた。
離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立があった場合には、裁判所は、離婚請求を認容するに際し、民法771条、766条1個を類推適用し、人事訴訟手続法15条1項により、右申立に係る子の監護費用の支払を命ずることができるものと解するのが相当である。
(協議上の離婚の規定の準用)
民法第771条 第766条から第769条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3 前2項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
けだし、民法の右規定は、父母の離婚によって、共同して子の監護に当たることができなくなる事態を受け、子の監護について必要な事項等を定める旨を規定するものであるところ、離婚前であっても父母が別居し共同して子の監護に当たることができない場合には、子の監護に必要な事項としてその費用の負担等についての定めを要する点において、離婚後の場合と異なるところがないのであって、離婚請求を認容するに際し、離婚前の別居期間中における子の監護費用の分担についても一括して解決するのが、当事者にとって利益となり、子の福祉にも資するからである。
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