養育費の一括払い後の事情変更・・・

養育費の一括払い後の事情変更・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男が生まれた。

妻と夫は、調停離婚した。

調停離婚の際、夫は、妻に対して、長男が成年に達するまでの養育費として1000万円、離婚に伴う財産分与・慰謝料とし3000万円を支払うこと、長男については妻において責任を持って養育すること、当事者双方は同調停をもって離婚に関する一切を解決したものとして、将来相互に名義のいかんを問わず何ら金銭上の請求をしないことを合意し、夫は、合意した金額を支払った。

夫は、妻の希望に従い、離婚後長男とは一切交渉を持たず、その養育について意見を述べたこともない。

夫は、再婚した。

長男は、小学校から私立学校に通い、私立学校を卒業した。

妻は、離婚後短期間稼動したが、心身の状況が思わしくないことから就労状態が安定せず、家業の古美術商を手伝っていたが、父親が死亡してから、家業からの収入もなくなり、夫から支払われた金額もほとんどなくなった。

妻は、夫に対して、養育費を求める調停申立をなし、調停が不成立となり本件審判に移行した。

離婚の判例

①原審判は、以下のように述べて、夫に対して、平成7年4月1日から長男の4年制大学卒業時である平成14年3月末日まで、月額13万円ないし12万円の養育費の支払を命じた。

長男の中学3年までの私立学校の学校教育費及び家庭学習費の合計額だけで1000万円を超え、前調停で定めた成年の達するまでの養育費の額を超えることが認められる。

このような結果となったことについては、前記のとおり妻に計画性や工夫が足りなかったことについて批判がされてしかるべきであるが、近時家庭学習費を含め教育費が高額化する傾向にあり、特に私立校の場合にこれが著しいことが認められること、夫自身も私立だけの教育コースを歩んでおり、長男については、事情の変更があり、前調停の条項にもかかわらず高校入学以降の養育費を請求できるとするのが相当である。

②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、妻の申立を却下した。

妻としては、長男を私立学校と学習塾に通わせた場合には、高等教育を受ける以前に夫から支払われた養育費を使い尽くすことは当初から容易に予測可能であったと認められるのであり、これを補うためには、妻自ら稼動して養育費を捻出するか父親からの援助を得ることが必要であったと考えられるが、妻は離婚後就労状況が安定していいないし、家業は父親の存命中から不振続きであったから、これらによって養育費を補完することは当初からあまり期待できない状況にあったと認められる。

以上の事実によれば、前記調停成立後にその内容を変更すべき事情の変更が生じたと認めることはできない。

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合意した養育費の民事訴訟の申立・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男が生まれた。

妻と夫は、協議離婚をした。

妻と夫は、離婚に伴う慰謝料、養育費に関して以下のような合意をした。

①夫は、妻に対し、離婚に伴う慰謝料500万円を、夫の賞与の際に30万円ずつ分割して支払う。

②夫は、妻に対し、長男の養育費として同人が成人するまで、毎月5万円ずつを支払う。

夫は、本件合意に基づく金額を支払わないので、妻は、夫に対して、本件合意に基づき、弁済期の到来した慰謝料分割金、養育費の支払と将来の慰謝料分割金と養育費の支払いを求める本件民事訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、慰謝料の支払に関しては妻の請求を認めたが、養育費に関しては以下のように述べて、その訴えを却下した。

協議が調停調書、和解調書又は公正証書のような執行力のある書面により成立している場合はともかく、協議が右のような執行力のない書面又は口頭により成立してる場合であって、相手方がその協議の成否ないし効力を争い、右協議に基づく履行をしないときは、審判手続によるべきものと解するのが相当と考える。

何故なら、協議に代わる審判は公開主義、弁論主義の採らない非訟手続によることとされているし、仮に養育料に関して訴訟手続により給付判決をしても事情変更の生じる事態は容易に予想され、右事情変更による取消し・変更の必要が生じることは否定できないところ、民法880条で取消し・変更の対象とされているのは協議又は審判のみであり、判決については規定していないからである。

(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
民法第880条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

②控訴審は、以下のように述べて、一審判決を一部取消し、妻の請求を全部認めた。

養育料の請求は、民法上の扶養請求権に基づくものであるから、その程度又は方法については、まず当事者間で協議をして定め、当事者間の協議が調わないとき、又は協議することができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所がこれを定めることになるが、更に、右当事者間だけでなく、本件のように、扶養権利者である長男の親権者として同人を養育する立場にある妻と夫とが、右両者間において、妻が長男を養育するために要する費用の給付について合意をしたときは、その合意は私法上の合意として有効であり、これに基づいて民事訴訟によりその給付を請求することを否定する理由はない。

もちろん、扶養に関する処分であっても、事情の変更があったときは、長男からの又は長男に対する申立により、その取消し、変更をすることが可能であるが、そうだからといって、夫と妻との間の養育料に関する合意を民事訴訟において実現できないとする理由にならないことは明らかである。

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借金返済のための養育費請求・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男が生まれた。

妻と夫は、長男の親権者を妻と定めて協議離婚をした。

夫は、妻に対して、妻及び長男の生活保障の趣旨で、900万円を支払い、このうち約700万円をこれまでの妻の借金の返済に充て、残りは、引越し費用や妻の再婚相手の男性の借金の返済に充てた。

妻は、男性と再婚し、男性は長男を養子縁組した。

妻は、サラ金から借金するようになり、夫は、妻の実家の求めに応じて、妻の実家へ引越し費用として約50万円を妻の実家に渡し、毎月数万円を妻に手渡したりしていた。

妻は、夫に対して、長男の養育費の支払を求める本件申立をした。

妻は、男性と協議離婚をし、同日長男と男性は協議離縁したが、再度男性と婚姻し、長男と男性は養子縁組をした。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、妻の申立を却下した。

妻が本件申立に及んだのは、専ら妻の都合に抱えてしまった多額の借金の返済による生活の困窮が理由であることは明らかであるところ、妻は、夫から受け取った約900万円もの離婚給付金を借金返済のためなどに短期間で費消したばかりか、離婚後も夫から何度となくまとまった金員の支払いを受けては未払い家賃などの支払に充てていること、本件申立後の妻の行動は、ひとえにより高額の養育費を得るための行動であり、そのために未成年者に転居、転校を強いるなど、親権者として真に未成年者のことを考えて行動しているとは到底考えられないこと、加えて、妻は家庭裁判所調査官による養育費試算の調査の過程で、前記のとおり、離婚、再婚、転居など生活状況をめまぐるしく変動させ、かつ、そのことを家庭裁判所に知らせなかったことによって調査を長期化させたことが認められる。

また、前記のとおり、妻及び男性の基礎収入は最低生活費を下回っているけれども、前記認定事実に照らせば、妻及び男性には未成年者を扶養すべきなお一層の自助努力が求められてしかるべきである。

以上の諸事情を総合考慮すれば、妻の本件申立は、妻が抱えている借金の返済による生活の困窮から免れるため、未成年者の養育費請求という形式をとって夫に自己の借金の一部を肩代わりしてもらうことを求めているに等しく、信義則に反し、権利の濫用であると認めるのが相当である。

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