幼児のいる有責配偶者の離婚請求・・・

幼児のいる有責配偶者の離婚請求・・・

離婚の事案

夫は税務署に勤務しており、夫は、ある女性と性関係にあったものと推認され、夫は突然妻に対して「好きな人がいる、その人が大事だ」「二馬力で楽しい人生が送れる」「女の人を待たせている」などと言って、離婚を申し入れた。

その後夫と妻間にほとんど会話がなくなり、夫は家を出て一人暮らしをはじめ、以後別居生活が続いている。

夫は別居後妻に対し、毎月生活費として8万円を送金している。

夫は、妻に対して民法770条1項5号に基づき本件離婚請求訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫と妻との婚姻関係は破綻しておらず、夫の離婚請求は有責配偶者からの離婚請求であり許されないとして、夫の離婚請求を棄却した。

②控訴審は、夫と妻との婚姻関係は既に破綻しており、有責配偶者からの離婚請求ではあるが、以下のように述べて、夫の請求を認容した。

妻は、かなり極端な清潔好きの傾向があり、これを夫に強要するなどした妻の前記の生活態度には問題があったといわざるを得ず、妻にも婚姻関係破綻について一端の責任がある。

これに加えて、上記のとおり、妻と夫とは互いに夫婦としての情愛を全く喪失しており、既に別居生活を始めてから約2年4ヶ月が経過していること、その間、夫婦間には家族としての交流もなく、将来、正常な夫婦としての生活できる見込みもないこと、夫が不貞に及んだことや妻が子宮内膜症に罹患しているため就職して収入を得ることが困難であることを考慮しても、夫の離婚請求を信義誠実の原則に反するものとして排斥するのは相当ではないというべきである。

③上告審は、以下のように述べて、原判決を破棄し、夫の控訴を棄却した。

妻と夫との婚姻については民法770条1項5号所定の事由があり、夫は有責配偶者であること、妻と夫との別居期間は、原審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4ヶ月であり、双方の年齢や同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと、妻と夫との間には、その監護、教育及び福祉の面で配慮を要する7歳の長男が存在すること、妻は、子宮内膜症に罹患しているため就職して収入を得ることが困難であり、離婚により精神的・経済的に苛酷な状況におかれることが想定される等明らかである。

以上の諸点を総合的に考慮すると、夫の本件離婚請求は、信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず、これを棄却すべきものである。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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別居9年の有責配偶者の離婚請求・・・

離婚の事案

夫は、婚姻前に交際のあった女性と再会し、男女の関係を有するに至り、夫は、福岡への転勤のために単身赴任して以来、妻との別居生活が継続している。

夫は、妻に対して、離婚を求める訴訟を提起したが、夫を有責配偶者と認定し、夫の請求を棄却する判決が下され、同判決は確定した。

夫は、再度離婚を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫の離婚請求はなお信義則に反するとして棄却した。

②控訴審も、以下のように述べて、控訴を棄却し、一審判決を維持した。

夫は今だに女性と同居しておらず、1ヶ月に1回程度、それぞれの家を行き来するにとどめている。

また、依然、夫と女性との間に婚外子はない。

もっとも、女性の勤務先の破綻等を契機に同人の収入が減少したことを受け、同人及び同人が養育に当たっている大学生の娘の生活を援助する意味で、平成13年ごろから毎月10万円ずつ、平成15年8月以降は同15万円ずつ、女性に送金するようになった。

当事者間の長男は、その後高校を卒業し、一浪して、平成14年4月に大学に入学した。

現在も妻と肩書地で同居している。

現在の妻の給与収入は、月額7万円である。

これと夫から支払われる月額20万円の婚姻費用分担金により生計を維持している。

なお、夫は、上記婚姻費用とは別に、長男の大学授業料等を任意で支払っている。

夫は、いまや妻との同居生活を再開する意思を全くもっておらず、女性との婚姻を志向し、その前提として妻との離婚を強く望んでいる。

そして、夫は、離婚に伴う給付として合計800万円を支払うとの提案をするとともに、経済的に可能な範囲内での増額にも応じる意向である。

一方、妻は、夫との同居を再会することを通じて家族としての生活を取り戻したいとの理由から離婚を拒み続けている。

前記認定のとおり、当事者間の婚姻関係が既に破綻してしまっている状況下においては、妻が夫の帰ってくるのをなお待ち続けるというのはいささか非現実的であるとの感を否めず、当事者双方の再出発という観点からは疑問なしとしない。

しかも、前訴判決時には高校3年生で、大学受験を控えていた長男も今では成人して大学に在学中であること、その授業料等を夫が負担していることなどの事情に照らすと、もはや夫と妻との離婚が子の福祉に重大な影響を与えるとも言い難い。

しかし、既に認定・判断したとおり、両者の婚姻関係が決定的に破綻した直接の原因は夫の不貞にあるところ、当審口頭弁論終結時までの別居期間は、夫が妻に対して初めて離婚を切り出した平成6年11月から起算して約9年余りであるのに対し、同居期間が約21年間に及ぶことや双方の年齢等も考慮すると、別居期間が相当の長期間に及ぶとまで評価することは困難である。

さらに、夫と女性との間に子がいないことに加え、夫と女性との交際の実態等に照らすと、夫の離婚請求を認めた上で、女性との間の新たな婚姻関係を形成させなければならないような緊急の要請もないものといわなければならない。

他方、妻は、夫から支払われる婚姻費用によって、ようやく生活を維持できている状態にあるというほかなく、その職歴、年齢等に照らすと経済的に困窮する事態に追い込まれることは、容易に予測されるところである。

さらに、離婚に伴う給付として夫が提案する内容も、前記事実関係の下においては、なお十分であるとは言い難い。

してみると、夫による本件離婚請求は、信義誠実の原則に照らし、なお容認することはできないといわなければならない。

(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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婚姻費用の分担額の算定・・・

離婚の事案

夫と妻は別居した。

夫は、離婚調停申立てをなし、これが不成立となり、離婚訴訟を提起した。

妻は、本件婚姻費用分担の調停申立てをし、審判に移行した。

妻は、別居後長男とともに、同人の父母方に生活し、ピアノの個人教授をして1ヶ月約2万円前後の収入がある。

夫は、会社員で、給与所得から所得税及び社会保険料を控除した額は、約296万円である。

更に、夫の父が死亡し、夫は、約6億6000万円の財産を相続し、その相続税とその延納により支払うべき利子税との合計は約5億円である。

離婚の判例

①原審は、以下のように述べて、夫に対して、婚姻費用として直ちに150万円及び昭和57年2月以降別居解消又は離婚成立に至るまで、毎月14万円の支払を命じた。

婚姻中の夫婦は互いにその婚姻費用を分担する義務があり、たとえ夫婦の関係が破綻し、離婚訴訟中であっても同様であり、専らいわゆる有責配偶者と認められない限り、婚姻費用の分担を他方に請求できるところ、その分担額は各自の資産・収入及び従前の生活状態あるいは別居に至る経緯等の諸般の事情を考慮してこれを決すべきである。

そこで本件におけるその分担額については、まず、当事者の婚姻生活の破綻が専らいずれの当事者にあるともにわかに認められないこと及び夫の収入・資産等を考慮し、さらに当時者の過去・現在の生活状況等に諸般の事情を考え併せてこれを決すべきところ、夫の妻に対する婚姻費用の分担額は諸般の事情を考慮し、金150万円とする。

なお、夫は前記多額の相続税及び利子税をすべて納めておらず、その納税の負担は大きいといえるが、右税に見合う資産を保有し、不動産収入もあり、また、配偶者と未成熟子に対する扶養の意味を有する本件の婚姻費用分担義務はいわゆる生活保持義務であり、納税に優先してこれを負担する義務があるというべきである。

②抗告審は、以下のように述べて、夫の抗告及び妻の附帯抗告をいずれも棄却した。

夫と妻は、婚姻から別居に至るまでの間、就**区マンションに住んでいた当時、専ら夫が勤務先から得る給与所得によって家庭生活を営み、夫の相続財産又はこれを貸与して得た賃料収入は、直接生計の資とはされていなかったものである。

従って、夫と別居した妻としては従前と同等の生活を保持することができれば足りると解するのが相当であるから、その婚姻費用の分担額を決定するに際し、考慮すべき収入は、主として夫の給与所得であるということになる。

以上のとおりであるから、夫が相続によりかなりの特有財産を有していても、また、夫が右相続により相当多額の公租公課を負担していることも、いずれも、本件において夫が妻に対して負担すべき婚姻費用の額を定めるついて特段の影響を及ぼすものではないというべきである。

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