大学生の子の父への養育費請求・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女、二女がうまれた。
妻、子らは、夫と寝食をともにしなくなった。
妻が子らを連れて夫と別居し、以後子らは妻と生活している。
夫は、妻、子らの生活費として月20万円を支払っていたが、夫が妻や子らの名義でしていた預金を、妻が夫に無断で払い戻していたことに気づいたことなどから、生活費を支払わなくなった。
長女は、薬科大学に入学し、二女は県立高校に入学した。
妻と夫は、裁判離婚した。
子らは、夫に対して、相当額の扶養料の支払を求める審判を申し立てた。
離婚の判例
①原審判は以下のように述べて、長女の申立を却下し、夫に対して二女の扶養料として約168万円の支払を命じた。
いわゆる生活保持義務として、親は未成熟子の養育につき、子が親自身の生活と同一水準の生活を保障する義務があるとされるのは、親子の関係が、親子関係が他の親族に対する関係よりも深い愛情と信頼との上に成り立つ親密な関係であることによるものというべきところ、夫と妻とが昭和52年7月頃から不和となった挙句に離婚判決の確定によって離婚するに至り、この間に夫とは別居し妻と同居していた子らが、夫との交流を望まないのみならず、夫に対する愛情を欠き嫌悪感さえ抱く至った状態となってきていることを考慮すると、夫に対して前認定の子らに要する扶養料全額を負担させるのは相当ではなく、夫が子らの扶養料を支払わなくなった昭和57年11月から子らそれぞれが未成熟の域を脱するものというべき高等学校卒業の月までの扶養料について、その5割を負担させるのが相当であるとし、妻が払戻を受けた子ら2名義の貸付信託の額を、夫が支払うべき子らの扶養料からそれぞれ控除した。
②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、差し戻した。
一般に扶養の程度又は方法を定めるについて、扶養権利者と扶養義務者との間の生活関係とそれらによって形成された両者間の愛憎や信頼の状況を、民法879条所定の「その他一切の事情」の一つとして考慮することがあながち不当であるとはいえないとしても、本件のような未成熟子の扶養の程度を定めるについて、この点を重要な要素として考慮することが相当であるとは到底言い難く、何よりもまず、扶養義務者である夫の資力と、同じく扶養義務者である妻の資力とを対比して検討し、これを基礎として、子らの扶養料中、夫において負担すべき割合を認定判断すべきものといわなければならない。
(扶養の程度又は方法)
民法第879条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。
妻において払戻を受けた子らの名義の貸付信託の金銭信託相当額は、そのまま妻名義の銀行口座に預け入れられており、これらが子らの扶養のために費消された事実は認められないのであるから、夫、妻及び子らの間において、上記各金額を、夫の負担すべき子らの扶養料の支払にそれぞれ充てるべき旨の明示又は黙示の合意が成立した等の特段の事情が認められない限り、当然に、上記各金額を、夫が負担すべき子らの扶養料の支払にそれぞれ控除することは不当というべきである。
未成熟子の扶養の本質は、いわゆる生活保持義務として、扶養義務者である親が扶養権利者である子について自己のそれと同一の生活程度を保持すべき義務であるところ、子らの父である夫は医師として、母である妻は薬剤師として、それぞれ大学の医学部や薬学部を卒業して社会生活を営んでいる者であり、現に、長女も昭和61年4月に薬科大学に進学していること等、子らが生育してきた家庭の経済的、教育的水準に照らせば、子らが4年制大学を卒業すべき年齢時まで、未だ未成熟子の段階にあるものとして、夫において子らの扶養料を負担し、これを支払うべきものとするのが相当である。
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公正証書で合意した養育費の減額・・・
離婚の事案
夫と妻は、婚姻し、長女、二女、三女が生まれた。
夫と妻は、未成年者らの親権者をいずれも妻と定めて協議離婚した。
夫と妻は、離婚に先立ち公正証書において以下のような合意をした。
第1条 離婚に当たり、双方間の長女、二女及び三女の親権者・監護者をいずれも妻と定める。
第2条 1 養育費は、3子分として昭和61年8月より同64年8月まで20万円あて、同年9月より長女、二女、三女が満23歳になるまで毎月末日限りそれぞれ10万円あて計30万円を支払う。ただし、昭和64年9月以前に夫が海外勤務となった場合は、その月よりそれぞれ10万円合計30万円とする。
2 養育費の他、子の入学、結婚、病気その他の自己等により臨時出費あるときは原則として夫の負担とし、双方協議の上別途相当額を妻に支払うものとする。
離婚後、夫は他の女性と再婚し、妻も他の男性と再婚し、男性は未成年ら3名と養子縁組をした。
夫は、パイロットとして航空会社に勤務しており、妻は、男性が経営する麻雀荘の手伝いをしている。
夫は、夫の再婚等により事情の変更が生じたとして、妻に対して上記養育費の支払の免除ないし減額を求める本件審判の申立をした。
なお、夫は、本件合意事項に基づく養育費の支払を遅滞したため、妻から給料債権の差押を受けた。
離婚の判例
裁判所は、以下のように述べて、本件公正証書中第2条1を、未成年者らの養育費として、それぞれが成年に達する月まで1人当たり毎月7万円の支払を命じることに変更し、第2条2の臨時出費の負担義務を免除した。
当該合意がなされた当時予測ないし前提とされ得なかった事情の変更が生じた場合にこれを変更しえることも、事情変更の原則ないし民法880条に基づき肯定されるべきである。
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
民法第880条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
夫及び妻双方の再婚、未成年者らと男性との各養子縁組等の事実は、本件合意事項が交わされた当時、現実問題として当事者双方とも予想しあるいは前提とし得なかったと解されるのである。
しかして、このような事情に伴い、夫及び妻及び双方の側の収支を含む生活状況は、本件合意事項を交わした当時と比較して相当変化しているものと考えられるので、本件公正証書で成立した本件合意事項に基づく養育費の支払いないし負担義務を現在もそのまま夫に負わせることは、これが今後も相当長期間にわたる継続的給付を内容とするものであることにも照らした場合、客観的に相当性を失した状況になっていることは否定し得ないものと解される。
そして、生活保護基準方式に従い養育費を算定し、その際、妻側の基礎収入は、妻の固有の収入はなくもっぱら男性の収入によっているので、男性の収入から算定した。
また、未成年者らが男性と養子縁組していることから、支払の終期を各自が成年に達する月までとした。
更に、未成年者らはいずれも男性と養子縁組をしているので、未成年者らの入学、結婚、病気等の場合に必要とされる臨時出費の負担は、第一次的にはやはり、妻と男性において考慮すべきが筋合いと解される。
もとより、未成年者らの父である夫もかかる費用の負担を全く免れるわけにはゆかない面があると解されるが、これらの費用が全て生活保持義務の範囲に含まれるとは解し難いことも考え合わせると、現時点においては、本件公正証書中の本件合意事項第2条2に基づく夫の義務は、これを免除しておくのが相当と思料するのであるとした。
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事情変更による養育費の減額・・・
離婚の事案
夫と妻は、3人の子供の親権者をいずれも妻と定めて協議離婚した。
夫は、妻に対して子らの教育費1人宛て金3万5000円、中学入学の月より金5万円を、各人が満18歳に達した翌年3月まで支払うことを内容とする調停が成立した。
夫の年収は、約1523万円である。
夫は、その後減収となり、総収入は、約478万円になった。
夫は、他の女性と再婚し、長男、二男が生まれた。
女性は、看護婦をして働き月額約16万8000円の可処分所得がある。
妻は、会社員として働き、総収入は約246万円である。
夫は、前調停による養育費の減額を求める本件審判の申立をした。
離婚の判例
裁判所は、以下のように述べて、生活保護基準を用いて養育費を算出し、前調停により支払うべき子らの養育費を、本件申立の時点以後支払われるべき分である平成3年3月以降1人宛て月額3万円に変更した。
本件申立時においては調停の成立した昭和63年当時とは夫の収入が著しく変化したばかりでなく、新たな家庭ができ、そのための生活費を確保せねばならない等、生活状況が大きく変化したことは明らかであるから、そのような事情変更を考慮し、子らの養育費の額を相当額減ずることはやむを得ないというべきである。
なお、夫の再婚相手の収入については、もっぱら同人とその2人の子の生活費に充当するとし、再婚相手と2人の子の最低生活費を約19万4000円とし、再婚相手の月収約16万8000円で不足する約2万6000円は、夫の収入から優先的に充当すべきとして、夫の可処分所得額から控除した。
また夫が負担している住宅ローンについては、夫が住む市内の平均的住宅賃貸料等を考慮して、半額のみを夫の収入から控除した。
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