代表者以外の振り出す手形とは・・・
代表取締役とは、会社を代表している事を示し、本人の代わりに署名することを代理方式といいます。
代理する権限がないのに代理行為をすると無権代理となり、原則として全ての責任を負わなけれなりません。
民法では、「代理権があると信頼した第三者を保護するために、本人にも一端の責任がある場合には本人が責任を負う」としており、手形の代理行為にもこの規定が適用されています。
これを表見代理といいます。
表見代理が成立するのは、本人がその者に代理権を与えたことを第三者に示した場合や、代理人が与えられた代理権外の越権行為をし、第三者がその行為にも代理権があると信じる理由がある場合、また、以前に代理権を与えられていた者が、その権限が消滅した後に代理行為をした場合などです。
すでに代理権がなくなった元経理部長が振り出し、受け取る側は経理部長に代理権がなくなったことを知らなかったとします。
この場合は表見代理が成立し、手形を持っている人は振り出した会社に支払いを請求できます。
ただしこの場合、手形としては有効なのですが、背任罪になります。
会社はこの経理部長に損失分の支払いを求める事ができます。
経理部長や支店長が手形を振り出すには、手形を振り出す権限が与えられていなければなりません。
これらの代理人が振り出した手形を銀行で決済してもらうためには、銀行備え付けの代理人届によって、代理人名や印鑑などを銀行に届け出ておく必要があります。
これに対し、代理であることを表示せず、代理人が代表者の名前で署名する事を代行方式といいます。
この場合、本人に委任されて代行するのでない限り、手形の偽造になります。
手形の偽造は、民事上の責任である損害賠償責任、刑事上の責任である有価証券偽造のほかに、手形上の責任である支払を負わなくてはなりません。
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共同振出と手形保証とは・・・
振出人の信用に問題がある場合、信用を補強する方法が共同振出と手形保証です。
複数の人が1枚の手形を振り出すことでその手形の信用を補強する方法が共同振出です。
これは、最初の振出人が記名・押印した後、別の人が「振出人 山田太郎」というように連署で記名押印することでおこないます。
共同振出人は何人でも大丈夫ですが、各人が独立して振出人としての責任を負わなくてはなりません。
2人が共同で振り出したからといって、手形金額の半分しか責任を負わないというわけにはいかないのです。
手形が不渡りになれば、共同振出人全員が不渡り処分の対象となります。
振出人が記名・押印した後に「保証人」とかいて保証人の住所とともに記名・押印すれば、保証をしめす文句がなくても手形保証した事になります。
また、手形決済の一部だけを保証することもできます。
その場合は、「手形金額のうち金壱百万円を保証します」というように書きます。
支払期日 平成 23 年 2 月 4 日 支払地 東京都杉並区 支払場所 **銀行 **支店 |
振出人 東京都杉並区******
山田 太郎 印
支払期日 平成 23 年 2 月 4 日 支払地 東京都杉並区 支払場所 **銀行 **支店 |
保証人 東京都杉並区******
山田建設株式会社
代表取締役 山田 太郎 印
支払期日 平成 23 年 2 月 4 日 支払地 東京都杉並区 支払場所 **銀行 **支店 |
手形金額のうち金壱百万円を保証します。
保証人 東京都杉並区******
山田 太郎 印
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手形保証人の責任とは・・・
手形の保証人は、振出人と同じ責任を負います。
保証した手形が不渡りになれば、振出人に代わって手形代金を支払う義務があります。
しかし、手形要件を欠いているなどの理由でその手形が無効になった場合には、保証も無効になります。
偽造手形であることを知らないで保証した場合でも、偽造手形の振出人にされた人に支払い義務がないのに対して、保証人は支払義務を免れることができません。
これを手形保証の独立性といいます。
保証した手形が手形要件を欠いたりして無効な場合以外は、保証は有効に成立するのです。
売買契約が原因の手形の振出人と受取人の売買契約が解除された場合、受取人がこの手形を取立に回していれば、受取人は原因関係消滅を理由に支払いを拒めます。
しかし、その手形を保証する保証人は、手形が手形要件を欠いていたして無効な場合以外は、保証は有効に成立するのです。
また手形保証人には、民法で保証人に定められている催告の抗弁権や検索の抗弁権が認められていません。
これは、手形保証が普通の債務保証と異なる点です。
催告の抗弁権とは、まず、債務者に支払を催促して欲しいと要求する権利で、検索の抗弁権とは、まず、債務者から取立を執行して欲しいと要求する権利です。
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代表取締役を兼務する手形とは・・・
例えば、(株)山田の代表取締役の山田太郎が、山田製作所(株)の別の会社の代表取締役を兼務している場合に、この両者の間で商取引があるとします。
このように、ある会社の代表取締役が、兼務している別の会社と取引することを自己取引といいます。
このような取引をするには、取締役会の承認を得なければなりません。
手形にもこの自己取引が適用されます。
(株)山田の代表取締役山田太郎が、取締役会の承認を得ずに山田製作所(株)の代表取締役山田太郎を受取人にして振り出した手形は無効となります。
また、(株)山田が他の会社から受け取った手形に裏書して山田製作所(株)に裏書譲渡する場合にも、取締役会の承認が必要で、それを怠ると手形は無効になります。
取締役会の承認を得るには、取締役会を開いて自己取引にあたる手形の振り出しや裏書についての決議をしなければなりません。
決議には、出席した取締役の過半数の同意が必要です。
この場合、自己取引をする代表取締役は利害関係人ですから、議決権はありません。
しかし、取締役会の承認のない自己取引の手形が第三者に譲渡された場合には、その第三者に悪意があったことを立証できない限り、会社は手形上の責任を負わなければなりません。
このようなことを避けるために、手形の振出人欄の右脇に、「取締役会承認済」と書いて、代表印を押すか、代表取締役の記名押印した「本件手形行為は取締役会の承認を得たものであることを証明します」という付箋をつけます。