自筆証書遺言の財産処分の意思・・・
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、自分で印を押して作成する遺言です。
遺言者の筆跡を手掛かりにして、遺言者が、いつ、どんな内容の遺言をしたかを明らかにするための方式です。
(自筆証書遺言)
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提としながらも、遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるというべきであり、このような見地から考えると、本件遺言書の文言全体の趣旨及び同遺言書作成時の遺言者の置かれた状況からすると、同人としては、自らの遺産を上告人ら法定相続人に取得させず、これを全て公益目的のために役立てたいという意思を有していたことは明らかである。
そして、本件遺言書において、あえて遺産を「公共に寄付する」として遺産の帰属すべき主体を明示することなく、遺産が公共のために利用されるべき旨の文言を用いていることからすると、本件遺言は、右目的を達成することのできる団体等にその遺産の全部を包括遺贈する趣旨と解し、前示の趣旨の本件遺言は、本件遺言執行者指定の遺言と併せれば、遺言者自らが具体的な受遺者を指定せず、その選定を遺言執行者に委託する内容を含むことになるが、遺言者にとって、このような遺言をする必要性のあることは否定できないところ、本件においては、遺産の利用目的が公益目的に限定されている以上、被選定者の範囲も前記の団体等に限定され、そのいずれかが受遺者に選定されても遺言者の意思と離れることはなく、したがって、選定者における選定権濫用の危険も認められないのであるから、本件遺言は、その効力を否定するいわれはないというべきものであるとした事例があります。
自筆証書遺言の「遺言者はその所有に係る家屋と借地権を自由に裁量処分することを相続人Aに委任する」旨の条項は、「相続人Aに相続させる」趣旨と、「遺言者が相続人Bに貸してある貸付金は相続の時、基礎控除で差し引く」旨の条項は、「相続人Bの債務を消滅させる」趣旨と解した事例があります。
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自筆証書遺言の遺言の抵触・・・
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、自分で印を押して作成する遺言です。
遺言者の筆跡を手掛かりにして、遺言者が、いつ、どんな内容の遺言をしたかを明らかにするための方式です。
(自筆証書遺言)
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
遺言者には、第一遺言「私が死亡したる後は、全財産を妻甲に譲る」と、第二遺言「①私が死亡したのち、妻甲がまだ存命中は、住みなれた家から離れたくないとの甲本人の切なる願望により、土地、家屋その他一切現状を維持し、もし甲も死去したのちは、土地、家屋その他を処分して金に換え、全額の4分の1ずつをA、B、C、D、さらに全額の8分の1をEに与える。
②なお、私が永年にわたって蒐集してきた書籍、ビデオ、CD、レコード、人形、瀬戸物等は、相続人の中で特に欲しいと思う者が他の相続人と相談の上譲り受けても構わない」があるが、第二遺言の①は第一遺言を前提に、子供らに対し、遺言者の死亡後、甲の取得する土地、家屋等について子供らから甲に対し、その売却や分割等を求めないことを指示するとともに、甲の死亡後は、その財産の分割方法として、それを換価処分の上、遺言者の指示通りに配分することを指示したものと解すべきであるとして、第一遺言と第二遺言の矛盾抵触を否定した事例があります。
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自筆証書遺言の遺言事項 ・・・
遺言でなしうる財産処分としては、遺贈、寄付行為、信託の設定が認められています。
本件遺言執行者指定の遺言書を含めた本件遺言書の全記載文言、本件遺言書作成当時の事情、及び遺言者の置かれていた状況など認定事実によれば、本件遺言中「遺産は一切の相続を廃除し、」との条項は、それに続く「全部を公共に寄付する。」とお条項との関連、並びに被控訴人らが従前より遺言者と絶縁状態にあったもので、遺言者の遺留分を有しない妹であることなどの事情にかんがみ、推定相続人を廃除する意思を表示したものではなく、「全部を公共に寄付する。」との条項は、本件遺言書中に、財団法人の目的、名称、事務所、資産及び理事の任免に関する規定を全く欠いていること、並びに他人をして一定の目的に従い、財産の管理又は処分をさせる旨を表す記載が一切ないこと、その他認定説示の諸事情のもとにおいては、公益財団法人の寄付行為を遺言したもの、あるいは信託法にいう公益信託を遺言したものとは認めがたく、本件遺言は遺言者の遺産全部を、国、地方公共団体に包括遺贈する意思を表示したものと解しました。
(遺言による推定相続人の廃除)
民法第893条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
3.遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4.公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
また、本件遺言執行者指定の遺言は、本件公益遺贈につき、右の通り定めた受遺者たり得べき者の範囲において、受遺者の選定を控訴人(遺言執行者)に委託する趣旨を含むものと解しました。
本件遺言は、遺言執行者指定の遺言を含め、本件公益遺贈につき、受遺者たりうべき者の範囲を明確に定めているし、遺言執行者が受遺者を選定するのにも困難はなく、その選定が遺言書の意思と乖離するおそれもなく、また民法902条、その他関連法条の法意に照らして考慮しても、有効なものというべきであるとした事例があります。
(遺言による相続分の指定)
民法第902条 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。
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自筆証書遺言の遺言能力・・・
遺言は、死者の最終の意思を尊重しようとする制度ですから、合理的、かつ、適正な判断ができる意思能力を有する者の遺言でなければ有効なものとなりません。
遺言を有効にすることが出来る能力を遺言能力といいます。
満15歳に達したものには、遺言能力があります。
(遺言能力)
民法第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
遺言をする者は、遺言をする時に遺言能力がなければなりません。
(成年被後見人の遺言)
民法第973条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に附記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
遺言当時、遺言者が有効に遺言をなし得るために必要な行為の結果を弁識、判断するに足りるだけの精神能力を欠いていた遺言は無効です。
遺言をする時とは、法律行為としての遺言が成立する時をいいます。
遺言が成立した後に心神喪失などのために意思能力を失ったとしても、その遺言の効力に何ら影響はありません。
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