条件付遺贈遺言・・・
条件とは、法律行為の効力の発生、消滅、変更を将来の不確定な事実の成否にかからせた付款のことをいいます。
付款(ふかん)とは、法律行為又は行政行為の効果を制限するための定めで、民事実体法上は期限及び条件を指します。
そして、遺贈にも条件をつけることができます。
遺贈の効力の発生に条件をつけた場合に、その遺贈を停止条件付遺贈といいます。
「遺言者***は、姪の###が婚姻したとき、同人に次の貸家を遺贈する。」
のような条件をつける場合です。
この停止条件付遺贈の受遺者は、遺言者が死亡したときに、停止条件付の権利を取得します。
しかし、現実に、遺贈の履行を請求できるのは条件が成就したときになります。
停止条件付遺贈がその条件成就前に受遺者が死亡したときは、遺贈の効力を生じません。
この場合その遺言者が別段の意思表示をしているときは、その遺言者の意思が優先します。
「###が婚姻前に死亡しても、この遺贈は効力を失わないものとする。」
が、別段の意思表示になります。
遺言者の条件が成就しないことが確定しているときは、その停止条件付遺贈は無効となります。
また、遺言者は、条件成就の効果をその条件成就前に遡及させる旨を遺言で定めることができますが、遺言者の死亡前に遡及されることは定めることはできません。
「受遺者###は、遺言者***の死亡の日に遡って、右貸家の所有権を取得するものとする。」
遺贈の効力の消滅を条件につけた場合に、その遺贈を解除条件付遺贈といいます。
「遺言者***は、次の貸家を姪の###に遺贈する。しかし、右受遺者が貸家経営をやめたときは、前記遺贈は効力を失う。」
解除条件付遺贈の受遺者は、遺言者が死亡したときに解除条件付の権利を取得し、条件が成就したときに遺言は効力を失います。
解除条件付遺贈の受遺者は、条件成就によって権利を取得する相続人の利益を害することができません。
不動産の遺贈の場合、相続人は、第三者に対抗するため、遺贈が解除条件付である旨の登記しておくことができます。
遺言者の条件が成就したときは、その解除条件付遺贈は無効となります。
遺言者の死亡前に条件の成就しないことが確定しているときは、その解除条件付遺贈は、条件のついていない遺贈となります。
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期限付遺贈遺言・・・
期限とは、法律行為の効力の発生、消滅、または債務の履行を将来発生することの確実な事実の発生にかからせる付款をいいます。
小難しい言い方ですが、普通に「期限」の言葉通りの認識で良いと思います。
そして、遺贈にも期限を付けることができます。
ただし、推定相続人排除の遺言などに、停止条件は付すことはできますが、始期を付することはできません。
期限となる事実は、将来到来することの確実なものでなければなりません。
到来の時期が確実なものを確定期限といい、必ず到来はするがその時期の不確実な期限を不確定期限といいます。
遺贈の効力の発生または遺贈義務の履行につき、期限を付した遺贈を始期付遺贈といいます。
例えば「遺言者***は、遺言者の死亡後3年を経過したときに、次の不動産財産を甥の###に遺贈する。」のような感じです。
この場合、受遺者は、遺言者が死亡した時に始期付の権利を取得しますが、遺贈の効力発生に始期が付されている場合にはその効果は直ちに発生しません。
また、遺贈義務の履行に始期を付されている場合には期限到来まで履行を請求することはできません。
遺贈の効力の消滅につき、期限を付した遺贈を終期付遺贈といいます。
例えば「遺言者***は、遺言者の死亡後3年間だけ、次の不動産財産から生ずる家賃収益全額を姪の###に遺贈する。」のような感じです。
そして、遺産分割禁止の遺言には、必ず終期をつける必要があります。
でなければ、ずっと遺産分割ができなくなりますので、最終的にはその遺言が無効になってしまいます。
受遺者は、遺言者が死亡したときに終期付の権利を取得し、その権利は期限が到来したときに消滅します。
そして、期限が経過すれば、その遺贈財産は遺言者の相続人に帰属します。
受遺者は、期限の利益を放棄して終期付遺贈の効力を消滅させることができます。
遺言にも、期限をつけることができ、またそれを遺言者の思いのまま、執行することも可能なわけです。
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負担付遺贈遺言・・・
負担付遺贈遺言は、受遺者に法律上の給付義務を負わせる付款付きの遺贈遺言をいいます。
例えば「遺言者***は、次の不動産を甥の###に遺贈する。受遺者###は、受益者である遺言者の妻+++に対して同人が生存中、その生活費として月額○○万円づつを毎月末日に限り受益者の住所に持参または送金して支払うこと。」などの遺言をいいます。
負担付遺贈の効力としては、次のようになります。
①負担の履行義務を負う者は受遺者になります。
受遺者が負担を履行しないで死亡したときは、受遺者の相続人がその義務を承継することになります。
②負担の履行を請求できる者は、遺言者の相続人および遺言執行者になります。
また、遺言者に反対の意思表示が無い限り、受益者も履行を請求できるとされています。
③遺贈の目的の価額および負担の価額は、受遺者が負担義務を履行するときを基準として定めます。
そして、負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度で、負担した義務を履行する責に任じます。
負担の価額が遺贈の目的の価額を超えるときは、その超過分だけ無効となります。
④負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認または遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じてその負担した義務を免れます。
遺留分回復による遺贈の目的の価額の減少は、それが判決によって確定されたものに限らず、裁判外の減殺権の行使によって減少した場合をも含むものとされています。
⑤遺言者がその遺言に別段の定めをしているときにはその意思に従います。
例えば「遺言者***は、次の財産を弟の###に遺贈する。受遺者は、遺言者の長女+++が大学を卒業するまでの間、同人に対して学資金として月額金○○万円ずつを毎月末日に限り支払うこと。しかし、上記遺贈の目的の価額が遺留分減殺請求によって5割以上減少したときは、上記負担はこれを免責する。」のような遺言です。
負担付遺贈を放棄したときの効力としては、次のようになります。
①負担付遺贈の受遺者が遺贈を放棄したときは、負担の利益を受けるべき受益者は自ら受遺者となることができます。
受遺者が負担付遺贈を放棄しますと、格別の意思表示を要せず当然に受益者は受遺者となり、遺贈の承認によって、その地位が確定します。
②負担付遺贈を受遺者が放棄した場合、遺言者がその遺言に別段の定めをしているときは、その意思に従います。
例えば「遺言者***は、次の財産をいとこの###に遺贈する。受遺者は遺言者の長男+++が大学を卒業するまでの間、同人に対して学資金として月額○○万円ずつを毎月末日に限り支払うこと。しかし、受遺者###が遺贈を放棄したときは、受益者+++に上記財産を取得させないで、遺贈は効力を失うものとする。」というような遺言です。
また、負担付遺贈の受遺者がその負担する義務を履行しない場合、相続人は受遺者に対して、相当の期間を定めてその履行を催告することができます。
受遺者が負担する義務を履行しないときは、相続人は遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
遺言には、負担をつけて遺贈することもできるわけです。
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補充遺贈・裾分け遺贈・後継ぎ遺贈の遺言・・・
補充遺贈遺言とは、遺贈の効力不発生を停止条件とする第二の遺贈をいいます。
例えば「遺言者***は、次の財産を弟の###に遺贈する。しかし、受遺者###が前記遺贈の発生前に死亡したときは、その相続人である長男+++に前記財産を遺贈する。」のような遺言です。
受遺者が、遺言者の死亡する前に死亡したとき、遺贈はその効力を生じませんから、受遺者が受けるべきであったものは遺言者の相続人に帰属します。
この場合に、遺贈の目的物が相続人に帰属することを遺言者が欲しないときには、遺言で第二順位の受遺者となる者をあらかじめ定めておきますと、第一順位の受遺者が遺言者の死亡前に死亡しても、遺言者の相続が開始したとき、第二順位の受遺者が遺贈を受けることができるわけです。
補充遺贈の受遺者は、第一順位の受遺者の相続人に限ることなく、全く別の第三者であってもかまわないとされています。
裾分け遺贈とは、遺言者が受遺者に対して、遺贈によって受ける財産上の利益を第三者に分かつべきことの負担を課した遺贈をいいます。
例えば「遺言者***は、次の財産を甥の###に遺贈する。###は前記財産から生ずる収益の3分の1を、同人の弟+++に与えること。」のような遺言です。
受遺者に一定の法律上の義務を負わせた遺贈は負担付遺贈ですが、その負担は必ずしも財産上のものであることは要しません。
これに対し、裾分け遺贈における受遺者の負担は、受遺者が遺贈によって受ける財産上の利益の一部に限られています。
後継ぎ遺贈とは、受遺者の受けている遺贈の利益を、一定の条件の成就後または期限の到来後は他の者に移転させることを内容とする遺贈をいいます。
例えば「遺言者***は、次の財産をいとこの###に遺贈する。しかし、遺言者の甥の+++が大学を卒業したときは、同人が前記財産を取得することとし、###は+++に対し、前記財産につき、遺贈による所有権移転の登記手続きをすること。」
この場合、第二の受遺者は遺言者死亡の時に存在することを要せず、条件の成就または期限到来の時に存在すればよいとされています。
遺言の作成は、使い勝手の良いものが一番です。
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