死因贈与とは・・・
死因贈与とは、贈与者の生前に契約を締結し、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与です。
贈与者の死亡によって効力を生ずる点では、遺贈と同じですから、死因贈与の効力については遺贈に関する規定が準用されています。
民法第554条
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
受贈者が、贈与者の死亡する以前に死亡したときは、死因贈与の効力は生じません。
民法第994条
1. 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2. 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
死因贈与の受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合、遺贈に関する民法994条1項が準用され、受贈者が死亡した時点で死因贈与の効力が失われると解した事例があります。
死因贈与契約書に「AはBに**銀行にある贈与者の銀行預金を死因贈与する。」旨の記載がある場合、死因贈与の対象となる債権は契約時のものでなく、むしろ死因贈与が効力を生ずる死亡時のものを指すと解するのが相当であるとして、契約後預入の預金債権を死因贈与の対象とした事例があります。
また、贈与契約を変更して死因贈与契約を締結する事ができ、この場合、先の贈与契約は死因贈与契約を成立されることによる更改に基づき消滅しますが、この死因贈与契約が取り消されたときは、先の贈与は民法517条により消滅しないとした事例があります。
民法第517条
更改によって生じた債務が、不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは、更改前の債務は、消滅しない。
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死因贈与と遺贈の違い・・・
死因贈与は契約であり、単独行為である遺贈とはその法律的性質が違いますから、遺贈が単独行為であることに基づく遺言能力や遺言の方式に関する規定までは準用されません。
民法第960条
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
民法第961条
15歳に達した者は、遺言をすることができる。
民法第962条
第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。
民法第963条
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
また、遺贈の承認・放棄に関する規定も準用されません。
民法第986条
1.受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2.遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
民法第987条
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
民法第988条
受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法第989条
1.遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2.第919条第2項及び第3項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
被相続人がAに対し「私名義にある全ての財産を私の死後B(孫)に委嘱するものとする。」旨の代筆を依頼し、作成した書面は無効な遺言であり、その作成された状況、保管の経緯、Bら親族に呈示された時期などの事情を加えて斟酌したとしても、死因贈与の意思表示の趣旨を含むとは認められず、またAは被相続人の死後葬儀の日までこの書面を保管し、葬儀の日にBに呈示したことが認められる場合、Bは葬儀の日以前にこの書面を見る機会はなかったので、Bが被相続人からこの書面を示されて死因贈与を承諾した事実も認められないとした事例があります。
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死因贈与の執行者選任と指定・・・
死因贈与について、遺贈に関する規定に従って執行者を選任することができると解されています。
民法第1010条
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
贈与者は執行者を指定することができ、その執行者は、その権限において所有権移転登記を申請することができます。
民法第1006条
1. 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2. 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3. 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
死因贈与が効力を生ずると、これを履行する義務者は相続人全員です。
死因贈与の執行者の地位を遺言執行者と同一に解するときは、執行者の選任又は指定があれば、相続人は失効を妨げる行為をすることができず、執行者は相続人の代理人とみなされますから、受贈者は執行者だけを相手方として履行を請求すれば足ります。
民法第1013条
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
民法第1015条
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
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死因贈与と仮登記・・・
死因贈与契約は、贈与者の死亡前には効力を生じませんから、贈与の目的物件が不動産である場合は、契約と同時に所有権移転登記をすることができませんが、所有権移転請求権保全の仮登記をすることができるとされています。
推定相続人が被相続人との間で、被相続人所有の不動産について死因贈与を受ける契約を結び、その仮登記を取得しても、一種の清算手続きである限定承認の手続では、この不動産を相続財産から離脱した財産であって、受贈者の固有財産であると主張することはできず、この不動産は民法922条の「相続によって得た財産」に該当し、相続債務の引き当てになり、相続債権者はこの不動産について強制競売を申し立てることができます。
民法第922条
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
仮登記は、申請書に仮登記義務者の承諾書又は仮登記を命ずる処分の正本を添付して仮登記権利者が申請します。
双方が共同申請することもできます。
仮登記を命ずる処分は、仮登記義務者が承諾書の交付を拒んだりして仮登記申請に協力しない場合に、仮登記権利者が不動産所在地の地方裁判所に申請し、仮登記原因を疎明したときに発令されます。
仮登記仮処分命令申請事件は民事雑事件です。
死因贈与の仮登記仮処分の場合、死因贈与契約書を提出する事によって、仮登記原因が疎明されたとされます。
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