祭祀費用の清算・・・
共同相続人が祭祀関係費用を立替払いした場合、遺産分割審判で相続財産に関する費用としてその清算を求めることがあります。
葬儀費用、法事費用、墓地購入費用、墓石の費用につき清算を認めた事例、認めなかった事例、それぞれあります。
遺産分割審判手続きで葬儀費用の清算を認めなかったのは、相続人が当然に分割承継すると解したからですが、その他葬儀費用の負担については、喪主が負担する、慣習、条理によると解した事例もあります。
葬儀費用の求償は訴訟事項です。
葬儀費用の負担者について、
①一般的に確立した社会通念や法的見解は未だないようであるとし
②喪主が負担する例が多いと思われること
③労働基準法80条、国家公務員災害補償法18条が「葬儀を行なう者に対して」、それぞれ葬祭料を支払い、葬祭補償をしていることは、私人間における葬儀費用の負担についても参考とされるべきであろうこと
労働基準法第八十条
労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の六十日分の葬祭料を支払わなければならない。
国家公務員災害補償法第十八条
職員が公務上死亡し、又は通勤により死亡した場合においては、国は、葬祭を行なう者に対して、葬祭補償として、通常葬祭に要する費用を考慮して人事院規則で定める金額を支給する。
④香典も喪主が取得するのが通常であること
⑤被相続人の葬式費用については相続税法13条1項2号により、これを負担した相続人の相続財産の価額からの控除が認められていることもあってか相続人の1人又は数人の負担とされる場合もあること
相続税法第13条
1 相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第1条の3第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
1.被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
2.被相続人に係る葬式費用
2 相続又は遺贈により財産を取得した者が第1条の3第3号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
1.その財産に係る公租公課
2.その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
3.前2号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務
4.その財産に関する贈与の義務
5.前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
3 前条第1項第2号又は第3号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前2項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第2項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。
等の点を参考に、当該地域や親族間の慣習を考慮して、条理に照らして判断するほかないが、
⑥単に被葬者の扶養義務者であったことや最も親等の近い血族であったことだけで、葬儀費用の負担者とされることは通常ないこと、そうすることが合理的であるという理由も見当たらないこと
などに照らすと、葬儀費用が原告(被相続人の孫で喪主。長年、被相続人と同居し、世話をした。香典も取得している。)となるのはごく自然であり、被告(被相続人の養子。約25年前に被相続人の家を出る際、養子離縁届の交付を受け、今後一切無関係との約束をする代わりに、被相続人から贈与を受けた不動産を返還し、その後没交渉で、その葬儀にも参列しなかった)に対して葬儀費用の負担を求めるのを正当化できる理由はないとして請求を棄却した事例があります。
没交渉(ぼっこうしょう)とは、交渉がないこと。かかわりをもたないこと。また、そのさま。無関係。
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相続分の指定・・・
被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を指定することができます。
相続分が指定されたときは、法定相続分の規定は適用されません。
民法第900条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
1.子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2.配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
3.配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4.子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
民法第901条
1 第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系卑属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第889条第2項の規定によって兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
民法第902条
1 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。
ただし、相続債務については、共同相続人は法定相続分に従って、相続債権者に対し、これを分担します。
共同相続人Aは「指定相続分の4分の1の割合で分割協議に参加し得るものとする」旨の遺言は、当該相続人の相続分を法定相続分と異なる4分の1と指定し、その分割方法は、分割協議又は審判の結果に任せる相続分の指定及び遺産分割の方法を指定する遺言と解した事例があります。
法定相続分の額を下回る価額の特定物の遺産を「相続させる」旨の遺言は、相続分の指定を伴うものではなく、当該特定の遺産を取得した相続人は、法定相続分の額に満つるまで他の遺産を取得することができると解した事例があります。
相続人の1人が単独相続したとして一定の根拠資料を示して被相続人名義の払戻を請求した場合、金融機関が他の相続人の同意書を求めることは、債務不履行責任を免れないが、本件預金には自動継続の特約があり、請求時に弁済期になかったとして債務不履行責任を構成しないと解した事例があります。
自動継続定期預金の預金者から満期前に解約申出があれば、ほぼ例外なくこれに応じる実務慣行があることが認められ、このような解約申出を受けた金融機関が、相続人間の紛争に巻き込まれるのを避ける目的で必要な調査を完了するまで払戻を留保することは、権利の濫用となるものではなく、不法行為責任も債務不履行責任も問うことは困難であるとした事例があります。
相続分の指定は共同相続人中の1人又は数人についてすることもできます。
この場合は、他の共同相続人の相続分は法定相続分により定めます。
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相続分零(ゼロ)の指定・・・
被相続人が、遺言で共同相続人の相続分を零(ゼロ)と指定することがあります。
相続分の指定は、遺留分に関する規定に反することはできませんので、遺留分を侵害した相続分の指定は、その範囲で遺留分権利者の減殺に服します。
民法第902条
1 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。
被相続人の「相続させない」旨の遺言を相続分を零(ゼロ)と指定したものと解し、その相続人の遺留分減殺を認めて相続分を算定し、遺産分割の審判をした事例があります。
被相続人の遺言で「相続分がない」とされた相続人の遺産分割事件申立を、この遺言は遺留分を侵害していないから適法であり、その相続人には遺産分割申立の当事者適格はなく、既に他の相続人の間で遺産分割協議が成立しているとしてこれを却下した事例などがあります。
これに対して、「私の財産年金の受給権は一切受け取らせないようお願いします」という趣旨の遺言は、推定相続人廃除の意思表示と解するのが相当であるとして、この遺言を「相続分零(ゼロ)とする」と指定したと解した遺産分割の審判が取消された事例がありますので、「相続分零(ゼロ)とする」旨の遺言は明確にされなければなりません。
被相続人の遺言で取得分がないとされた相続人を除く相続人全員が、遺言の解釈及び遺産全部をその解釈に基づいて遺産分割手続中で分割することに合意している場合には、既に遺言中で取得者が定められている物件についても遺産分割の対象とすることができ、また、相続人の一部の者がした遺留分減殺請求によって取り戻された遺産を含めて分割することに合意している場合には、その合意によって審判することが許されるとした事例があります。
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嫡出でない子の法定相続分・・・
民法第900条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
1.子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2.配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
3.配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4.子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
民法900条4号但書前段の「嫡出である子」には、婚姻届をした夫婦の間に出生したが、その後、婚姻が取消された場合の子を除外するものではないとされています。
また、嫡出でない子の法定相続分は嫡出である子の2分の1とされていますが、この規定は法の下の平等を定めた憲法14条1項の規定に反し無効であるとされていました。
それに対し、最高裁の決定はこの嫡出子と非嫡出子との間の相続分格差規定は合憲との判断をしました。
憲法第14条
1 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
非嫡出子が婚姻を取消された夫婦間の嫡出子に対して遺留分減殺請求をした場合、民法900条4号但書前段の規定を適用しても憲法14条に違反しないと解した事例があります。
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