不動産の財産分与の方法・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、生まれた長女、二女の双子は出生後間もなく死亡し、三女が生まれた。
妻は、地方公務員であり、夫は会社員である。
夫は、妻のみならず、三女や第三者にも暴力を振るい、夫は妻が用意した夕食が気に入らないとことから立腹して、妻を殴ったり、蹴ったりしたため、妻は三女とともに自宅を出て、以後別居している。
妻と夫は、代金3200万円で自宅不動産を(本件不動産)を購入し、夫妻の持分を各2分の1として登記した。
妻は夫に対して、離婚、三女の親権者を妻と指定する、本件不動産の妻持分を夫に移転登記手続するのと引換えに、財産分与として精算金2560万円の支払を求める、離婚慰謝料として500万円の支払を求める訴訟を提起した。
離婚の判例
①一審は、妻と夫の婚姻関係は、夫の妻に対する酷い暴力行為により完全に破綻したと認定して、離婚、三女の親権者を妻として、400万円の慰謝料を認めた。
財産分与については、妻が結婚前から所有していたマンションの売却代金の一部等を本件不動産の購入資金に充てたことから妻の寄与分を6割として、「夫は、妻に対し、妻が本件不動産の妻共有持分につき財産分与を原因として夫に持分全部移転登記手続きをするのと引換えに、金2000万円を支払え」、と命じた。
②控訴審は、財産分与の点以外は一審判決を維持した。
そして、財産分与の方法としては、「本件不動産には現在夫が居住しており、妻は同所には居住していないこと、その他夫は本件不動産に継続して居住するためその所有権を単独で取得することを強く希望し、妻はその所有権にはこだわらずむしろその代償として金銭の給付を求めている等の当事者双方の意見等を総合して考えると、本件不動産については、その妻の持分を夫に分与して、これを全部夫に取得させることとし、これに対して夫から妻に一定額の金銭を支払うべきものとするとして双方の利害を調整するのが一応相当である」とし、一審では4000万円と認定した本件不動産の時価を3500万円程度と認定し、本件不動産の購入ための債務の残元金1031万円を控除した残金の約2469万円の6割を基準等として、夫が支払う精算金を1600万円に減額した。
また、判決の主文を以下のとおり変更した。
「1、妻は、夫に対し、夫から金1600万円の支払を受けるのと引換えに、本件不動産の妻の共有持分について財産分与を原因として持分全部移転登記手続をせよ。
2、夫は、妻に対し、妻から本件不動産の持分全部移転登記手続を受けるのと引換えに、金1600万円支払え。」
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財産分与と慰謝料の詐害行為・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻届出をしたが、夫は働かずに飲酒しては妻に暴力を振るうようになり、協議離婚した。
夫が妻に対し、生活費補助として同月以降妻が再婚するまで毎月10万円を支払うこと及び離婚に伴う慰謝料として2000万円を支払うことを約し(本件合意)、これに基づき執行認諾文言付の公正証書が作成された。
銀行は、夫に対して貸し付けた約6000万円の貸金債権を有し、これについて確定判決を得ている。
銀行は、この確定判決に基づき、貸金請求権の内金500万円を請求債権として、夫の会社に対する給料及び役員報酬債権につき差押命令を得た。
妻は、前記公正証書に基づき、生活費補助220万円及び慰謝料2000万円を請求債権として、同じ給料及び役員報酬債権につき差押命令を得た。
会社は、法務局に約261万円を供託した。
裁判所は、妻と銀行の各配当額を各請求債権額に応じて按分した配当表を(本件配当表)を作成したところ、銀行が、異議の申立をした。
離婚の判例
①一審は、本件合意が通謀虚偽表示により無効であるとして、妻への配当を0と変更した。
②控訴審は、本件合意は通謀虚偽表示とはいえないが、詐害行為に該当するとして、控訴を棄却した。
③上告審は、以下のように述べて、詐害行為に関する控訴審判決を取消し、差し戻した。
離婚に伴う財産分与は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産分与であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない。
(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
このことは、財産分与として金銭の定期給付をする旨の合意をする場合であっても、同様と解される。
そして、離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取消されるべきものと解するのが相当である。
離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、その有責配偶者及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。
妻と夫の婚姻期間、離婚に至る事情、夫の資力等から見て、本件合意はその額が不相当に過大であるとした原審の判断は正当であるが、この場合においては、その扶養的財産分分与のうち不相当に過大な額及び慰謝料として負担すべき額を超える額を算出した上、その限度で本件合意を取消し、妻の請求債権から取消された額を控除した残額と、銀行の請求債権の額に応じて本件配当表の変更を命じるべきである。
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財産分与の退職金支給時の支払い・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女、二女、三女が生まれた。
夫は、18歳の頃から保線区員として会社に勤務し、原審判時には助役の地位にあった。
妻は、パートに出たが、その頃から夫婦仲が悪くなり、妻と夫は、二女及び三女の親権者を夫として協議離婚した。
妻は、夫に対して、慰謝料及び財産分与金の支払いを求める審判の申立をした。
離婚の判例
①原審は、以下のように述べて、夫が将来受領する退職金の財産分与として、退職金支給時に、約769万円の支払を命じた。
財産分与としては、離婚時に夫が任意に退職したと仮定して、その際に支給されるであろう退職金相当額から所得税等相当額を控除した残額の半分に相当する金額を基本として、婚姻以前の勤続年数(10年)とこの勤続10年の場合の退職金の支給率(15.0)をも考慮して定めた金額を、現実に退職金が支給された時に、支払うべきものとする。
②抗告審は、以下のように述べて、夫が妻に分与すべき退職金額を変更し、夫は、妻に対し、夫が会社から退職金を支給されたときは、612万円及びこれに対する同支給日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え、と命じた。
将来支給を受ける退職金であっても、その支給を受ける高度の蓋然性が認められるときには、これを財産分与の対象とすることができるものと解するのが相当である。
蓋然性とは、ある事柄が起こる確実性や、ある事柄が真実として認められる確実性の度合い。
そして、本件においては、夫の勤務する企業の規模等から照らして、夫が退職時に退職金の支給を受けることはほぼ確実であると考えられる。
ところで、退職金が仮に離婚前に支給されていたとしても、その全額が離婚時まで残存しているとは限らないし、夫が支給を受ける退職金について、妻の寄与分を夫と同一とみるもの妥当ではない。
したがって、本件においては、退職金についての妻の寄与率を4割とするのが相当である。
本件において財産分与として妻が取得すべき退職金の額は、次の算式のとおり612万円となる。
夫の月額基本給40万円×(離婚までの勤続年数33年の支給率54-婚姻以前の勤続年数10年の支給率15)-(所得税及び市町村民税概算合計額 30万円)×(妻の寄与率 0.4)=612万円
また、夫名義の住宅ローンについては、夫婦の協力によって住宅ローンの一部を返済したとしても、本件においては、当該住宅の価値は負債を上回るものではなく、住宅の価値は零であって、右返済の結果は積極資産として存在していない。
そうすると、清算すべき資産がないのであるから、返済した住宅ローンの一部を財産分与の対象とすることはできないといわざるをえない、と判示した。
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