扶養的な財産分与・・・

扶養的な財産分与・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻届をなし、5人の子供がいる。

夫は、会社に勤務していたが、会社を設立して代表者に就任した。

夫は、56歳ごろある女性と知り合い、以後親密な関係を続けた。

夫は、女性を会社の従業員にし、その後同社の取締役にした。

夫と女性との間に女児が生まれた。

夫は、68歳ごろ妻と別居して、女性と同居し、以後妻と夫との別居は一審口頭弁論終結時まで15年以上続いている。

妻は、夫に対して、離婚、財産分与、慰謝料、女性に対して慰謝料を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、離婚を認め、慰謝料請求として夫に800万円、女性に300万円の支払を命じ、財産分与として夫に2000万円の支払を命じた。

②控訴審では、以下のように述べて、慰謝料として夫に1000万円、女性に500万円(夫の支払う1000万円の内500万円と連帯債務関係)、財産分与として1200万円を認めた。

離婚歴、その間の夫の不貞関係、別居期間、婚姻破綻の原因は専ら夫個人にあること、別居後の妻に対する婚姻費用分担の実情、右分担額がその間の夫の収入に比し極めて低額であり、昭和59年1月からはその支払すら停止されたこと、いずれにしても妻は見るべき資産とて形成できず、今後の住居すら安定しておらず、これまででもその子らの援助でどうやら過ごしてきたこと、さらに後記の財産分与の額等諸般の事情を考慮すると、夫は妻に対し、離婚に伴う慰謝料として金1000万円を支払うべきである。

解約した生命保険、定期積金等の掛金、前記返済金等の出所が女性の収入によるものか疑う余地があり、むしろ専門家の指導の下に夫の資産の相続対策を含めての税法上の措置が行なわれているのではないか、売買代金の出所もその関係から形を整えたのではないかとの疑いも禁じえない。

しかし、それにしても、仮に取得費用の一部を夫が出捐したとしても、むしろそれらは女性に贈与する趣旨ではなかったのかとも解されるし、その他本件証拠によっても、住宅の一部にせよ現在夫の所有に属しているとまで認めることはできない。

妻は現在75歳であり、離婚によって婚姻費用の分担分の支払を受けることもなくなり、相続権も失う反面、これから10年はあると推定される老後を、生活の不安に晒されながら生きることになりかねず、右期間に相当する生活費、特に昭和61年当時で厚生年金からの収入のみを考慮しても夫の負担すべき婚姻費用分担額は10万円をやや下回る金額に達することが認められるところ、その扶養的要素や相続権を失うことを考慮すると、夫としては、その名義の不動産等はないが、前認定の収入、資産の状況等からして、妻に対し、財産分与として金1200万円を支払うべきである。

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離婚の財産分与義務の相続・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、二女が生まれた。

妻は、ある男性と不倫関係を結ぶようになった。

妻は、家出して、そのまま男性のもとにはしり、妻は夫と協議離婚をした。

男性は、男性の妻と協議離婚し、妻と再婚した。

夫は、死亡した。

妻は、長女、二女が夫の妻に対する財産分与義務を相続したとして、財産分与の審判申立てをした。

長女、二女は、妻に対して、夫と妻の離婚に基づく財産分与請求権が存在しないことの確認を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べ、妻に夫との離婚に基づく清算的・扶養的財産分与請求権が全く存在しないということはできないとして、長女、二女の請求を棄却した。

清算的財産分与義務に関しては、それが財産的請求権であることに鑑みると、その相続を否定する理由はない。

一方、扶養的財産分与義務については、妻ら主張のように、当該義務の一身専属性を肯定しつつ、被相続人の生前に財産分与請求の意思表示がなされたか否かで決する考えもあるが、にわかに採用し難いといわなければならない。

むしろ、第一に、民法上の相続制度の趣旨は、同法887条以下の所定の相続人に対し、相続財産中に存在するその潜在的持分の取戻しを認めるとともに、その生活保障を図ることなどにあると解されるところ、配偶者の場合、このような要請は、離婚の場合には存在し、これを規定したのが同法768条であると解することもでき、このような見地によると、扶養的財産分与義務は、その相続を認めるのが相当と考えられること、第二に、相続人が、その承継した被相続人の立場に立って、財産の分与に関する協議をすることも実際上は可能であること、第三に、当該義務の相続を肯定したとしても、相続放棄・限定承認など民法上の他の制度によりその責任を相続財産の限度にとどめることが可能であること、第四に、扶養に関する一般規定たる民法881条は「扶養を受ける権利は、これを処分することができない。」と規定するだけであって、同条も明文上は不要「義務」の「相続」を否定してはいないこと、などの諸点に鑑みると、扶養的財産分与義務についても、その相続を肯定するのが相当であるといわなければならない。

(子及びその代襲者等の相続権)
民法第887条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

(扶養請求権の処分の禁止)
民法第881条 扶養を受ける権利は、処分することができない。

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不動産の財産分与契約の錯誤無効・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻届をなし、二男一女をもうけ、東京都新宿区の建物(本件建物)に居住していた。

夫が、勤務先の銀行の部下の職員の女性と男女関係となったことから、妻は離婚を決意し、夫にその旨を申し入れた。

妻は、離婚条件として本件建物に残って子供を育てることを提示した。

夫は、女性と婚姻して裸一貫から出直すことを決意し、いずれも夫の特有財産である本件建物、その敷地の土地、その土地上の別の建物(以下併せて本件不動産)全部を財産分与として譲渡する旨を約し((本件財産分与契約)、その旨を記載した離婚協議書、離婚届に署名捺印して、その届出手続及び財産分与に伴う登記手続きを妻に委任した。

妻は、離婚届出をし、本件不動産につき所有権移転登記手続をした。

その後夫は、女性と婚姻し一男をもうけた。

夫は、離婚後銀行の上司の指摘で初めて自己に課税されていることを知り、税理士の試算によりその額が2億円前後であるあることが判明した。

その後、夫は、税務署長から、所得税について本税1億8631万円等とする決定処分を受けている。

夫は妻に対して、財産分与契約は要素の錯誤により無効であると主張して、本件建物につき所有権移転登記の抹消手続を求める訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫の請求を棄却した。

②控訴審も以下のように述べて、控訴を棄却した。

夫が本件土地建物を妻に財産分与した場合に右のような高額の租税債務負担があることを予め知っていたならば、本件財産分与契約とは異なった内容の財産分与契約をしたこともあり得たであろうと推測されるけれども、右の課税がされるかどうかについては単に夫の動機に錯誤があるにすぎないものというべきところ、本件財産分与契約において夫に対する譲渡所得税の有無は夫妻間において全く話題にもならなかったことや夫においてこれを合意の動機として表示したことを認めるに足る証拠はない。

③上告審は以下のように述べて、控訴審判を破棄して、差し戻した。

所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものであり、夫婦の一方の特有財産である資産を財産分予として他方に譲渡することが右「資産の譲渡」に当たり、譲渡所得税を生ずるものであることは、当裁判所の判例とするところであり、離婚に伴う財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。

したがって、前示事実関係からすると、本件財産分与契約の際、少なくとも夫において、右の点を誤解していたものというほかはないが、夫は、その際、財産分与を受ける妻に課税されることを心配して気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、妻も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。

そうすれば、夫において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるを得ない。

④差戻し後の控訴審では、夫は、本件不動産全部についての所有権移転登記の抹消登記手続に請求を拡張した。

そして、裁判所は、本件財産分与契約には要素の錯誤があり、夫が本件財産分与により自己に課税されないことを信じたことについて重大な過失があったとはいえないとして、本件財産分与契約を無効とし、夫の請求を認めた。

(譲渡所得)
所得税法第33条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
1.たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
2.前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
1.資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後5年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
2.資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの
4 前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、50万円(譲渡益が50万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。
5 第3項の規定により譲渡益から同項に規定する譲渡所得の特別控除額を控除する場合には、まず、当該譲渡益のうち同項第1号に掲げる所得に係る部分の金額から控除するものとする。

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