親権者指定協議無効確認の訴え・・・
離婚の事案
夫と妻は、婚姻し、長男が生まれた。
夫と妻は、双方とも離婚することに異存がない状態になっていた。
夫は、妻が用意した離婚届出用紙に署名して妻に交付した。
夫が署名した際に、長男の親権者を妻と指定する記載があったかどうかは不明であるが、妻は、離婚届に証人の署名捺印を貰った後、長男の親権者を妻と指定する記載がある離婚届を市役所に提出した。
夫は、家庭裁判所に親権者変更調停の申立をしたが、これを取下げた。
そして、夫は妻に対して、市長に対する届出によりされた長男の親権者を妻と指定する協議が無効であることの確認を求める訴えを提起した。
離婚の判例
①一審は、訴えの適法性については判断することなく、長男の親権者を妻と定めて離婚する旨の離婚届が夫の意思に反して作成されたものとは認められないとして、夫の請求を棄却した。
②控訴審は、訴えの適法性については、以下のようにこれを認めたが、夫は長男の親権者を妻と定める離婚届が提出されることを了解していたと推認されるとして、夫の請求を棄却した。
本件は、協議離婚をした元夫婦の一方である夫が、離婚意思及び離婚届出意思の存在は認めつつ、すなわち、協議離婚の成立は認めながら、離婚届に記載された未成年の子の親権を行なう者の記載に沿う、親権者を定める協議における合意の不存在を主張しているのである。
一般にこのような場合、親権者指定の合意の不存在あるいは無効を主張する元夫婦の一方は、戸籍法114条により、家庭裁判所の許可を得て、戸籍に協議離婚届に基づいて記載された親権者を父又は母と定める記載の訂正をすると共に、改めて元の配偶者と親権者を定める協議を行なうか、その協議が調わないものとして家庭裁判所へ親権者指定の審判を求めることが考えられる。
戸籍法第114条 届出によつて効力を生ずべき行為について戸籍の記載をした後に、その行為が無効であることを発見したときは、届出人又は届出事件の本人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。
この場合、戸籍法114条による戸籍訂正の許可を求める審判手続においても、親権者指定の審判手続においても、親権者を定める協議の不存在あるいは無効の主張の当否が判断の中心の一つとなるものと予測されるが、戸籍訂正の許可を求める審判手続では相手方配偶者は当事者ではないし、戸籍訂正の審判も親権者指定の審判も、親権者を定める不存在あるいは無効について判断がされても、その判断に既判力はなく、紛争が蒸し返される可能性がある。
このようなことを考えると、協議離婚をした元夫婦の一方は、他方を被告として親権者指定協議無効確認の訴えを提起することも許されるものと解するのが相当であるとして、訴えの利益を求めた。
更に、この訴訟は離婚無効確認訴訟と同様に解釈上、人事訴訟とするのが相当であるとした。
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離婚調停中の子の監護者の指定・・・
離婚の事案
妻と夫は、結婚後6年の夫婦で、長女と長男の子があるが、妻は、単身実家に帰って別居した。
夫は、妻に対して離婚及び長女、長男の親権者を夫と定める旨の調停申立をした。
他方妻は、夫に対して、長女、長男の監護者を妻に指定し、長女、長男の引渡しを求める本件審判の申立をした。
離婚の判例
①原審は、妻の申立を認め、長女、長男の監護者を妻と認め、夫に長女、長男の引渡しを命じた。
②抗告審において、夫は、原審は、離婚調停が係属しているのに、本件を調停に付さず当事者の審問もしないで、突然審判を下しており、手続き上重大な瑕疵がある。
原審における調査官の調査報告は、調査が不十分な点等があり、調査官が未成年者の監護者は母親が適当であるとの先入観をもって調査したと疑われるほどに妻に傾斜している。
原審判は母親優先原則のみに依拠している。
未成年者に最善の利益は現状の環境下での養育である等と主張した。
調査経緯に照らせば、審問の機会が与えられず、審判官が調査官の調査報告書に依拠して判断したとしても、それだけで原審判を取消し、差し戻しをすべきものとまでは認められない。
また、本件につき、調停に付されなかったとしても、関連の離婚調停や面接交渉につき本件との同時解決を目指して調停が進行していたことからすれば、原審判が夫にとって不意打ちであるとすることもできない。
本件調査報告書については、夫婦の別居に至る紛争経緯やその原因に関する記述が多く、子の監護の判断要素として、これほど詳細な記述が必要であるか否かは疑問なしとしないこと、「妻と未成年者らとの交流状況の観察から、未成年者らには母性の要求が満たされておらず、これを必要としていると判断を示しているにもかかわらず、交流状況のいかなる部分からこのような判断がされたのかが必ずしも明でないこと」等とその問題点を指摘したが、結局、このような点から直ちに夫を監護者とすべきものとの結論に結びつくものとは考えられないとした。
そして、「その置かれた状況下において、内心では妻に対する思慕の情を抱きながら、夫に対する愛情や配慮からそのような真意をなるべく包み隠そうとする未成年者らの心情を思えば、未成年者らにとって、現下の最善の利益は、妻から心身にわたる監護を受けて継続的情緒の交流を保ち、その母性に日常的に接することであると判断される。」と述べた。
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2歳の子の連れ去りの監護者の指定・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、子が生まれた。
妻は、夫が女性と携帯電話でメールをしているのを見たことから夫の浮気を疑い、未成年者を連れて実家に帰り、以後夫と別居している。
妻、未成年者、妻の実母が買い物に出かけた際に、夫が現れ、夫は、今日は未成年者を連れて帰って実家の母にも会わせたいと強く主張したため、妻は、折れてこれを承諾した。
翌日妻が夫に電話をかけて未成年者を引き取りに行く旨を伝えると、夫はこれを拒み、それ以後夫は、未成年者を妻に引き渡さず、会わせてもいない。
妻は、離婚調停申立をなし、更に監護者の指定と未成年者の引渡しを求める調停も申し立てた。
離婚の判例
①原審は、以下のように述べて、妻の申立を認め、未成年者の監護者を妻と定め、夫に未成年者の引渡しを命じた。
未成年者の養育に主として当たってきたのは妻であることは疑う余地がない。
また、妻の未成年者に対する養育態度に、格別問題とする点も認められない。
したがって、妻が夫と別居したことの是非はともかく、別居する際、妻が未成年者を実家に連れて行ったのは、主として養育に当たってきた者として、それまでの養育環境の継続という意味で、当然のことであったということができる。
これに対し、未成年者がこのような経緯で、現在夫の下にあることは、全体的に考察すれば、夫において未成年者を奪取した結果によるものというべきものであり、違法状態を形成しているものといわざるを得ない。
したがって、仮に未成年者が現在精神的その他において安定した状況にあるとしても、そのことを直ちに肯定的に評価することはできない。
②抗告審も、以下のように述べて、原審判を維持し、夫の抗告を棄却した。
夫は、未成年者の安定した状態、夫の実母の協力による監護態勢、夫の資力等、子の福祉という観点から、監護者は夫が適当であると主張する。
しかしながら、妻の監護権を侵害した違法状態を継続している夫が現在の安定した状態を主張することは到底許されるものではない。
また、未成年者がいまだ2歳の女児であり、本来母親の監護が望ましい年齢にあることに加え、記録からは、妻が育児をすることについて不適格な事情が認められない本件では、未成年者の監護者として妻が相当であることは明白である。
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