取得時効の占有の承継・・・
占有は、時効期間中継続することを要します。
占有者の承継人は、前主の占有期間を引き継ぐことができ、この場合、瑕疵も承継します。
(占有の承継)
民法第187条 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
所有権の取得時効のため、相続人が自己の占有に先代の占有を併せ主張し、自己の占有のみを主張しない場合には、先代が目的物の占有を取得したかどうかを認定する必要はないとした事例があります。
相続人が、被相続人の占有の態様からみて相続によって所有権を取得したものと考え、その後所有の意思をもって占有を始めたときは、被相続人が他主占有をしていた場合でも、右相続人は固有の自主占有をもつことになるとし、被相続人の死亡から起算した20年の経過により取得時効が完成し、本件土地は右相続人の所有に帰したと解した事例があります。
占有が善意・無過失で始まった場合、時効期間は10年ですが、占有の開始が善意・無過失でないときの時効期間は20年です。
(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきものであり、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできません。
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取得時効の善意・無過失・・・
占有者の善意とは、自己に所有権があると信ずること、無過失とは、そのように信ずるにつき、過失のないことをいいます。
相続人が登記簿に基づいて実地に調査をすれば、相続により取得した土地の範囲が甲地を含まないことを容易に知ることができたにもかかわらず、この調査をしなかったために、甲地が相続した土地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有を始めたときは、特段の事情のない限り、相続人は右占有の始めにおいて無過失ではないと解するのが相当であるとされます。
自己の耕作地を政府から農地として売渡しを受けた者は、特別な事情のない限り、その売渡処分に瑕疵のないことまで確かめなくても、所有者と信じるにつき、過失があるとはいえないとされます。
買収農地の売渡しを受けて農業用施設として占有している者は、その売渡処分が当然無効であっても、特段の事情のない限り、その占有の始めに善意・無過失というべきであるとされます。
占有の開始は相続によるもので取引によるものでなく、その他判示事実のもとにおいては、土地登記簿を調査しなかったことをもって占有のはじめ過失があったとすることはできないとされます。
占有者において、占有目的不動産に抵当権が設定されていることを知り、又は不注意により知らなかった場合でも、ここにいう善意・無過失の占有者というを妨げないとされます。
甲及び乙が丙所有の一筆の土地の各1部ずつを買い受けるに当たり、隣接の丁所有土地との境界を誤認したため、甲が乙の買い受けた土地の1部を占有した場合において、判示の事実関係(測量士が公図をも参照し、丁からも境界を聞いた上で測定した結果に基づき、丙の代理人、甲及び乙が立ち会って、甲及び乙各自が取得する範囲を定め、係争地を含む土地が丙から甲に引き渡されたものであるなど)があるときは、甲において事前に自ら公図を見るなどの調査をしなかったとしても、甲は、係争地の占有の開始につき無過失であったと認めることができるとされます。
判示の事情(農地法所定の許可を得て所有権移転登記手続きを経由し、その代金を支払ったなど)のもとにおいては、所有者の無権代理人から農地を買い受けた小作人は、遅くとも右登記の時には新権原により所有の意思をもって右農地の占有を始めたものであり、かつ、その占有の始めに所有権を取得したものと信じたことに過失はないいうことができるとされます。
(占有の性質の変更)
民法第185条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
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取得時効の占有承継と無過失 ・・・
占有の承継人が前主の占有を併せて取得時効の完成を主張する場合においても、右占有の善意・無過失の要件は、前主につき、その占有の開始時において充足されることを要し、かつ、それをもって足りるとされます。
不動産の占有主体に変更があって承継された2個以上の占有が併せて主張された場合には、占有者の善意・無過失は、その主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点において判定すれば足りるとされます。
(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
相続人が登記簿に基づいて実地に調査をすれば、相続により取得した土地の範囲が甲地を含まないことを容易に知ることができたにもかかわらず、この調査をしなかったために、甲地が相続した土地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有を始めたときは、特段の事情のない限り、相続人は右占有の始めにおいて無過失ではないと解するのが相当であるとされます。
不動産の交換契約の当事者甲が、右契約に基づき相手方乙の提供した不動産の占有を開始しても、甲が右契約の締結に際し詐欺を行い、そのため右契約が乙の錯誤により無効と認められるときは、右占有は、所有の意思をもって善意・無過失で開始されたと認めるべきではないとされます。
賃借地の一部に属すると信じて、賃貸人以外の第三者所有の隣地を占有していた者が、国に物納された右賃借地の払い下げを受け、以後所有の意思をもって右第三者の所有地を占有するに至ったというだけでは、これを自己の所有と信ずるにつき過失がなかったとすることはできないとされます。
農地の譲受人が、当該譲渡について必要な農地調整法所定の知事の許可を受けていないときは、特段の事情のない限り、右農地を占有するに当たってこれを自己の所有と信じても、無過失であったとはいえないとされます。
占有者は、所有の意思をもって、善意、平穏、公然に占有する推定を受けますが、取得時効を援用する場合、その不動産を自己の所有と信じたことについて、無過失であったことの立証責任を負います。
(占有の態様等に関する推定)
民法第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
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取得時効の援用・・・
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所は時効に基づいて裁判をすることができません。
(時効の援用)
民法第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
取得時効については、直接時効の利益を受ける者が、裁判上又は裁判外を問わず時効を援用することができ、時効の援用があると権利の取得は確定不動のものとなると解されています。
消滅時効の場合も、規定上、時効による権利消滅の効果は、当事者の意思をも顧慮して生じさせるこことしていることが明らかですから、時効による債権消滅の効果は、時効が援用されたとき、確定的に生ずると解されています。
(時効の利益の放棄)
民法第146条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
被相続人の占有により取得時効が完成した場合、共同相続人の1人は自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎないと解されています。
不動産の売主が売買契約の効力を争うとともに仮定的にその取得時効を援用した場合、売買契約の効力を判断することなく、売主のため取得時効の完成を認めることは妨げないとされています。
甲は、取得時効の援用により、占有開始の昭和37年2月7日にさかのぼって乙所有の本件土地を原始取得し、平成11年6月15日に所有権移転の登記をしたが、乙は、昭和58年12月13日に丙に抵当権者とする抵当権設定登記をしている場合、甲は、起算点を後の時点にずらせて、再度、取得時効の完成を主張し、これを援用することはできないとして、甲の抵当権設定登記抹消登記請求を棄却した事例があります。
時効完成前、あらかじめ時効が完成してもその利益を受けないことを約束しても、その効力はありません。
時効完成後は、自由に時効利益を放棄することができます。
時効利益の放棄は、裁判外でもすることができます。
不動産取得時効に関し、時効利益の放棄の主張が認められなかった事例があります。
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