自筆証書遺言の加除変更等・・・
「加除その他の変更」には、遺言者の署名が必要ですが、本件遺言書では、原記載を黒色ボールペンによる2本の線で抹消してその部分に押印し、抹消部分の右脇に黒色ボールペンで「消」と記載して更にこれに重ねて押印する方法でなされている場合、抹消の記載を抹消として効力を有するとして、抹消されないものとして取り扱うことを求めた控訴人の主張を排斥した事例があります。
遺言書の加除変更規定は、自筆証書遺言についてのものですが、公正証書遺言の場合を除いて、秘密証書遺言とすべての特別方式の遺言についても準用されています。
(自筆証書遺言)
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(秘密証書遺言)
民法第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
2.遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
3.遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4.公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
(普通の方式による遺言の規定の準用)
民法第982条 第968条第2項及び第973条から第975条までの規定は、第976条から前条までの規定による遺言について準用する。
遺言者本人によって、加除訂正のない本文と日付・署名、捺印から成る文書として自筆証書遺言が有効に作成された後、本文に加えられた加除、訂正の書き込みによって本文自体が判読不可能となると当該部分に限って効力を失うことがあります。
また、その加除、訂正が民法に定める方式に適合しない場合には、遺言の内容に何ら変更を生じません。
スポンサードリンク
成年被後見人の自筆証書遺言・・・
成年被後見人は、家庭裁判所の後見開始に審判により精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるとされた者です。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある者は意思能力、遺言能力を有しませんから、かかる者がした遺言は無効です。
成年被後見人でも、ときどき本心に復することもあります。
この本心に復し意思能力があるときは、遺言能力が認められ、成年後見人の同意を要しないで遺言をすることができます。
(遺言能力)
民法第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
民法第962条 第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。
本件遺言は、遺言者が本心に復した時になされたものと認められ、前記認定のとおり、本件遺言当時、心神喪失の状況になかったことは明らかであり、もちろん、遺言者が遺言能力を有していたことも明白であるとして、禁治産者である遺言者のなした公正証書遺言が有効であるとされた事例があります。
この事例の禁治産者がした公正証書遺言につき、遺言当時における遺言者の精神能力を検討した結果、遺言能力を欠いていた旨の主張を排斥しています。
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復し、有効な遺言をするには、医師2人以上を立ち合わせ、その医師の証明がなければなりません。
立ち会った医師は、遺言者が遺言する時に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名・押印しなければなりません。
ただし、秘密証書遺言の場合は、内容の秘密を保持しなければなりませんので、その封紙に右の文言を記載して、署名・押印します。
(成年被後見人の遺言)
民法第973条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に附記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
禁治産者が、自筆証書遺言をする場合は、全文・日付・氏名が自署されて押印されるまで、公正証書遺言の場合は、公証人の署名・押印がすむまで、医師が立会い、本心に復していたことを確認して付記することが必要です。
秘密証書遺言については、遺言者が公証人・証人に封書を提出している時に本心に復していることの証明で足りるを解されています。
スポンサードリンク
成年被後見人の遺言の立会人 ・・・
医師は、遺言の内容に関係する者ではないから証人ではなく立会人です。
民法974条の証人・立会人の欠格事由に該当する医師は、成年被後見人の遺言に立ち会うことができません。
(証人及び立会人の欠格事由)
民法第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族は、遺言の証人又は立会人となることができません。
遺言の証人又は立会人になれないのは受遺者の直系血族ではなく、遺言者の直系血族であるとの主張を排斥した事例があります。
遺言公正証書作成の場に民法974条所定の者(本件の場合、推定相続人・受遺者であるA)が事実上立ち会っていたこと、遺言者は意識もあったが、言葉の音量はかすかであり、その口元に耳を近づけなければ聞き取れない程度であったこと、公正証書遺言の公証人に対する遺言内容の伝達は、前記Aが誰にどれだけということを言って、これでよいかと遺言者に問いかけ、遺言者がうなずいたのに基づいて公証人又はその事務員が録取するという形でされた場合、遺言者が口授したことにならず、かつ、推定相続人・受遺者であるAが事実上の立会人となっていた点で、民法969条1項2号及び974条3号に該当し、無効とした事例があります。
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
これに対して、公正証書遺言につき、民法974条所定の者が事実上立ち会っていたとしてもそのこと自体は遺言の効力に何ら影響を及ぼさないと解した事例、死亡危急時の遺言につき、適格証人が3人以上立ち会って方式を遵守してされたものである以上、右証人のほかに欠格者が証人として同時に立会い遺言書に署名押印しても右遺言の方式遵守に影響を及ぼさないとした事例があります。
スポンサードリンク
自筆証書遺言の遺贈の対象・・・
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、自分で印を押して作成する遺言です。
遺言者の筆跡を手掛かりにして、遺言者が、いつ、どんな内容の遺言をしたかを明らかにするための方式です。
(自筆証書遺言)
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
遺言は、その文言のみにこう拘泥すべきでなく、遺言者の個人的事情、遺言者と受遺者との関係事情、遺言当時の状況等をも資料として遺言者の真意を探求し、その真意に添うように合理的に解釈すべきであるとされます。
この観点に立ち、遺言者の先代甲は本件土地及び同地上にあった建物を遺産として分割することなく相続人丙に譲る意思をもっていたが、生活上の都合からこれを他の財産とともに一時遺言者乙に遺贈したものであること、その後、乙は本件土地を丙に遺贈することにして知り合いの弁護士丁に相談したこと、丁は本件土地上にあった土蔵は焼け残りであり、当然、本件土地に従属するから遺贈物件としては本件土地を表示すれば特に土蔵を表示する必要はないと考えたこと、遺言者乙も焼け残りの土蔵は本件土地に従属し、本件土地を遺贈すれば前記土蔵もこれに従属して遺贈される考えたこと、乙はこの考えのもとに公正証書遺言の際、公証人に対して土蔵の点を口授しなかったことなどを認定して、丙は乙の死亡により受遺者として土蔵の所有権を取得したことを認めた事例があります。
スポンサードリンク