自筆証書遺言の日付の封筒記載・・・
自筆証書遺言の日付を記載する場所については、民法は特に規定していません。
判例は、日付は必ずしも遺言書の本文に自書する必要はなく、遺言者が遺言の全文及び氏名を自書して印を押し、これを封筒に入れて、右の印をもって封印し、封筒に、日付を自書したような場合は、たとえその日付が数字をもって「26 3 19」と記載されたとしても、その日付をもって適式な自書と解しています。
また、遺言書と題する書面は三葉に分かれ、番号が付されていること(日付の記載はない)、右書面は家庭裁判所の検認に際しては、封筒に入れられ、封をしたまま提出されたこと、その封筒の表面には「遺言状」の記載、裏面には「昭和52年4月2日」及び遺言者の住所氏名の記載がいずれも毛筆によってされ、封じ目には毛筆で〆の字が記載されており、その他の認定事実によれば、本件遺言状三葉及び封筒は遺言者の遺言書としてすべて一体をなすものと認めるべきであり、右封筒上には遺言者によって「昭和52年4月2日」と日付が自書されているのであるから、本件遺言には、自筆証書遺言の方式として要求される日付の自書があるというべきであるとして、日付の記載を欠く方式違反の主張を認めなかった事例があります。
学説も、遺言書とその封筒とは一体をなすものと解し、封筒の上だけ日付の記載のあるものを有効と解しています。
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自筆証書遺言の氏名の自書・・・
自筆証書遺言の氏名の自書は、遺言者の同一性と、遺言が遺言者の意思によるものであることを明確にするために要求されています。
したがって、氏名が明記されていない遺言書又は氏名を他人が書いた遺言書は無効です。
氏名の表示は、遺言書の同一性が確認できる程度のものであれば十分であるとされています。
通常は、戸籍上の氏名が用いられます。
しかし、遺言者本人の同一性が認識される限り、戸籍上の氏名でなくても、遺言者が日常用いているペンネーム・雅号・芸名・屋号・通称などを用いても差し支えないとされています。
氏又は名だけを記載しても、遺言書の内容その他から同一性が認識できれば有効とされます。
「汝の父」とか「上記の者」というような表示でも、遺言書の本文中に氏名の記載があり、遺言者が誰であるかが明らかであれば有効とされます。
自筆証書遺言に氏名の記載を要するのは遺言者を特定するためであり、遺言者の何人であるかが明確になる以上、右氏名は戸籍上の氏名でなくともまた氏名の一方でも足りるとし、遺言者(本件自筆遺言書作成前日本に帰化した元無国籍者)の戸籍上の氏名「サホブケイコ」と記載しないで「C・M サホルスキー」もしくは「キャサリン・M・サホルスキー」とある遺言書の署名は遺言者を表示するものとして自筆証書遺言の氏名記載の要件をみたしてると認めた事例があります。
氏名を自書しても、同一の氏名の他人と混同されるおそれがある場合です。
この場合は、氏名だけで足らず、住所・職業・雅号などを併記して遺言者が誰であるかを明確にすることが必要であるとされます。
住所などの併記を要求することは、遺言の方式をそれだけ厳格にすることとなり、妥当でないとの説もあります。
氏名の自書が遺言書自体になく封筒にだけある場合は、遺言書と封筒とは一体をなすものと解して氏名の記載のある遺言書として有効と解されています。
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自筆証書遺言の押印 ・・・
自筆証書遺言の押印は、氏名の自書と同じ趣旨で、遺言者の同一性と遺言者の意思を確認するために要求されています。
押印は、遺言者が遺言を作成する意思であったことを担保する機能をもつとされています。
押す印にも制限がありません。
印鑑証明のある実印や認印、拇印、指印でも足りるとされています。
被相続人甲は昭和57年**月**日に遺言をしたが昭和58年**月**日に**市所在の乙事務所において右遺言を取消す旨の本件遺言をし、本件遺言は甲が自らその全文及び日付を記載した上署名し、その署名の下の部分に指印をしたものである場合、この押印としては、遺言者が印章に代えて拇印その他の指頭に墨、又は朱肉等をつけて押捺することをもって足りるとしています。
この場合、指印が遺言者本人の押捺にかかるものであることは、必ずしも遺言者本人の指印の印影であることが確認されている指印影との対照によって立証されることを要するわけではなく、証人の証言等によって立証される場合のほか、遺言書の体裁、その作成、保管の情況等諸般の事情から確認される場合でも差し支えないと解されています。
本件遺言書は遺言者が被告の面前で全文を自書し、指印をして作成されたとの被告本人の供述等はその信憑性を肯定できるとして遺言無効確認請求を棄却した事例があります。
また、花印は印と同視することの問題がないわけではありませんが、遺言者の同一性を確認する上では、認印などよりも個性的ですから印と同視して有効と解されています。
印は、原則として遺言者が押さなければなりません。
(自筆証書遺言)
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
病気で手が震える遺言者が他人に手を支えてもらって押した場合はもとより、遺言者の依頼により他人が遺言者の面前で押した場合でも有効とされています。
入院中の遺言者の指示で、遺言者から実印を預かった娘がその印を自宅に持ち帰り、自宅で押印した場合も有効とされています。
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自筆証書遺言の押印の場所・・・
自筆証書遺言の押印の場所について制限はありませんが、押印は、通常、遺言書の末尾の氏名の下になされています。
遺言書自体に押印がなく、遺言書を封入した封筒に記載されている氏名の下だけに押印がある場合でも、日付の場所と同様、封筒を遺言書の一部とみて有効とされています。
遺言書が数葉にわたる場合、その間に契印、編綴がなくても一通の遺言書と確認できる限り、右遺言書による遺言は有効とされます。
自筆証書遺言に方式として遺言書の押印を要するとした趣旨は、遺言等の全文の自書とあいまって遺言書の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるというわが国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保するところにあると解されるから、押印を要する右趣旨を損なわない限り、押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しないとして、封筒の封じ目の押印は、これによって、直接的に本件遺言者を封筒中に確定させる意義を有するが、それは同時に本件遺言書を完結したことをも明らかにする意義を有しているものと解せられ、これによれば、右押印は、自筆証書遺言方式として遺言書に要求される押印の趣旨を損なうものではないから、本件遺言書は自筆証書遺言として有効であるとした事例があります。
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