遺言制度の意義・・・
①遺言制度の意義
被相続人の最後の意思表示は尊重されるべきだが、真意かどうか争いになることがあります。
また、被相続人の意思表示なら何でもかんでも効力を認めるというのも、逆に混乱を招きます。
そこで、遺言に厳格な「方式」を定め、「遺言をなしうる事項」について方式に従った遺言がなされる限り、その内容の実現を法的に保障する、という建前をとっています。
ただし、相続人全員の合意があれば、遺言の内容と異なる遺産分割は可能です。
②遺言をなしうる事項とは
□推定相続人の廃除、廃除の取消し
これは遺言執行者のみが執行可能です。
□相続分の指定
法定相続分と異なる相続分を指定することができます。
□遺産分割方法の指定
「相続させる」文言を用いることで、遺産分割を経ずに、相続人に直接相続財産を割り付けることが実務上可能とされています。
不動産を相続した相続人単独で不動産の相続登記が可能です。
ですので、法定相続人に対しては、「相続させる」という文言を用いたほうが無難です。
□特別受益の持ち戻し免除
□遺贈に関する事項
□認知
これは遺言執行者のみが執行可能です。
□遺言執行者の指定
②遺言の方式(ここでは2つの方式だけ記載)
□自筆証書遺言の方式
遺言書の全文、日付、遺言者の氏名のすべてを遺言者が自署し、遺言者が押印します。
これらの方式を欠いた自筆証書遺言は無効となります。
□公正証書遺言の方式
証人2人以上の立会いの下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人が遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させ、遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名押印し、公証人が、その証書が以上の方式に従って作ったものである旨を付記してこれに署名押印します。
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特別縁故者の遺言無効確認の訴え・・・
自筆証書遺言の訂正
自筆証書遺言を訂正する事を、加除変更するといいます。
遺言書中の文字を加除変更した場合には、そのことが実証されなければなりません。
民法は、加除変更の方式として、必ず、
①その場所を指示し、
②これを変更した旨を付記して、
③特にこれに署名し、
④その変更場所に印を押さなければならない
と規定しました。
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
遺言書の上部欄外に、「この行何字訂正」又は遺言書末尾に「この遺言書何行目中何々とあるを何々と訂正した」と付記して、そこに遺言者が署名し、かつ、加除変更した場所に印を押さなければなりません。
印は署名した場所に押さずに、加除変更した場所にだけ押します。
押す印は、実印であることを要せず、認印や拇印でもよいとするのが通説です。
訂正箇所に押された印影と署名下に押印された印影が相違していても、署名者の印影と認められる以上は有効であるとする見解と、これに反対の見解とがあります。
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自筆証書遺言の加除変更の判例 ・・・
民法968条2項の規定をすでにある遺言に加除・変更を加える場合の方法と解し、同条項の適用を認めなかった次の事例があります。
(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
民法968条2項はいったん有効に成立した自筆証書遺言を当該証書に加除を加えることにより変更しようとする際の方式を定めたものであり、一部書き損じの抹消を含む自筆証書による本件遺言は、いったん有効に成立した自筆証書の変更の場合と異なり、民法968条2項により無効とされるいわれはないとした事例があります。
民法968条2項にいう「加除その他の変更」は、基になる記載があっての「加除その他変更」であり、当該遺言書の文言中に生ずる余白は右基になる記載に当たらないというべきであるとした上で、遺言書の文言の余白に書き入れた「前述以外の土地その他の財産は全部与える」との記載は、黒色ボールペンを用いてあり、その前行の記載が黒インキを使用したペン書きであるのと異なるから、一般的には前行に続いて書き進められたものとは認めがたいが、前記条項にいう「加除その他変更」に当たらないとした事例があります。
民法968条2項の「自筆証書中の加除その他の変更」に当たるかどうか争われた事案で、一枚の紙に6行の記載があり、1行目に「証」、2行目、3行目にかけて「私****所有の土地家屋他現金書画一切を長男**の所有と」、4行目に「昭和**年**月**日」、5行目に「****」の署名捺印、6行目に「但し死亡後の事」と記載されていて、この6行目の記載が「加除その他の変更」に当たるかどうかについて、「自筆証書中の加除その他の変更」は、変更前の自筆証書遺言が一旦作成されて存在していることを前提とすると解されるところ、本件書面は、「但し死亡後の事」の記載がなければ遺言とみることは難しく、「但し死亡後の事」の記載を加えたことによって、自筆証書遺言としての意味をはじめて備えたものであり、一旦作成された自筆証書遺言に「加除その他の変更」を加えたものとはいえないとした事例があります。
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自筆証書遺言の方式に反する加除変更・・・
自筆証書遺言の方式に反する加除変更は無効とされます。
遺言全部が無効になる場合もあります。
判例でも、不適式な日付の変更によって抹消部分が判読できないため、遺言全部を無効としています。
自筆証書遺言書の前半部分には民法967条2項の要式を満たさない加除変更があるが、加除変更の結果、当該部分につき本文自体が判読不可能となるなど部分的にせよ毀損されたものと同視できるような特段の事情は認められないから当初の遺言の効力には何ら変更を生じさせることなく、本文後半部分については、その内容は本文前半部分と抵触するから本文前半部分に対する加除変更とみるべきであるが、押印がない以上、民法968条2項所定の要式を満たさない加除変更であるから、これも本文前半部分の遺言の効力に影響を与えるものとはいえないと解した事例があります。
(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
加除変更が僅少部分に止まり付随的補足的地位を占めるにすぎず、その部分を除外しても遺言の主要な趣旨が表現されている場合、方式違反のささいな字句の表現の訂正手続に瑕疵がある場合、遺言の効力に影響がないとされています。
遺言者が所有していた不動産は本件家屋とその敷地のみであり、その敷地面積は30坪であるから、遺言書に山林420坪とある記載は遺贈対象物件として明らかな誤記であり、これを抹消したからといって本件土地の一部を与えると変更した趣旨と解する余地はなく、また、右抹消は法定の方式を踏んでいないが、これによって、遺言を全面的に無効とすることは、かえって尊重すべき遺言者の意思を無視し、法の趣旨に反することとなるとした事例があります。
物件を特定するために加入された文言に方式違反があっても、もとの記載だけで、物件の特定が可能な場合には、遺言書自体の無効は来さないとした事例、死亡危急時遺言の方式に違反した加除変更部分(訂正変更箇所部分について立会い証人3名の署名押印を必要とするところ署名は全くなく、押印も2つしか存在しない箇所がある)だけを無効とし、同遺言の全部無効の主張を排斥した事例、被認知者の生年月日の訂正の付記に、方式違反があった場合、その訂正は無効であるが、被認知者の姓名・本籍等から判断して、被認知者の特定が可能であれば、遺言は有効であるとした事例があります。
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