人工授精子の親権者の指定・・・

人工授精子の親権者の指定・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻した。

夫は無精子症であったため、第三者からの精子の提供を受けて人工授精をなし、長男が生まれた。

妻は、実家に帰って夫と別居した。

長男の養育については、妻と夫が合意して、1週間のうち金曜日の夜から日曜日の朝まで妻宅で、その余りは夫宅でそれぞれ養育することにした。

妻と夫は、調停離婚するとともに、長男の親権者については本件審判で定める旨合意した。

離婚の判例

①原審判は、以下のように述べて、夫を親権者に指定した。

親権者の適格性については当事者双方に優劣をつけがたいものの、長男に自我意識が出始めている現在においては、夫宅での生活を本拠にしている様子が認められ、現段階における養育者としての親権者を考慮すると、夫宅での生活を継続させることが長男の心身の安定に寄与することになるものと思われることから、夫を親権者と指定することが相当であると認められる。

なお、一般的に、乳幼児期においては「母親」との安定した関係が必要不可欠であることは精神医学の研究からも明らかであり、本件の場合、長男は、母親への甘えや依存など母親との情緒的なつながりを求めており、実際、週末ごとに母子の良好で暖かい関係が保たれていることが認められる。

しかしながら、「母親」というのは、必ずしも「生物学的な母親」を指すのではなく、「母性的な関わりを持つ対象となった養育者」といった広い意味もあり、本件記録によれば、夫は、長男が乳児のころから、そして現在の平日においても、長男と過ごす時間をできるだけ大切にし、母性的な関わりの代理に努力してきていることが認められ、したがって、一般論としては、子供は母親を求め、母親により馴染むことは確かであるが、本件においては、一概に「母親」であるということを理由にしては判断しかねる面がある。

②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、妻を親権者に指定した。

夫の同意を得て人工授精が行われた場合には、人工授精子は嫡出推定の及ぶ嫡出子であると解するのが相当である。

人工授精子の親権者を定めるについては、未成年者が人工授精子であることを考慮する必要があると解される。

夫と未成年者との間に自然的血縁関係がないことは否定することができない事実であり、このことが場合によっては子の福祉に何らかの影響を与えることがありうると考えられるからである。

ただし、当然に母が親権者に指定されるべきであるとまではいうことはできず、未成年者が人工授精子であるということは、考慮すべき事情の一つであって、基本的には子の福祉の観点から、監護意思、監護能力、監護補助者の有無やその状況、監護の継続性等、他の事情も総合的に考慮、検討して、あくまでも子の福祉にかなうように親権者を決すべきものである。

一般的に、乳幼児の場合には、特段の事情がない限り、母親の細かな愛情が注がれ、行き届いた配慮が加えられることが父親によるそれにもまして必要であることは明らかである。

本件未成年者も、年齢的にはそのような母親の愛情と配慮が必要不可欠な段階であると考えられる。

そして、妻がこのような愛情と配慮に欠けるところはないことは、本件記録によって明らかである。

ところで、原審判は、「母親」というのは、「生物学的な母親」を指すのではなく、「母性的な関わりを持つ対象となった養育者」といった広い意味もあり、夫は、未成年者との母性的な関わりが築かれていれば、養育者が絶対的に実母である必要はないといえるであろうが、未成年者の年齢からすれば、夫が母親の役割を担うことには限界があるといわざるをえない。

なお、本件記録によれば、夫の母親はそのような役割を十分に果たしているとは認められない。

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子の無断連れ出しの監護者指定・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、二女が生まれた。

夫は、離婚調停申立をしたが、調停は不成立となった。

夫は、散歩と称して長女を連れて自宅を出て、妻に長女と一緒である旨の電話連絡をしたものの、その所在を明らかにしなかったことから、妻は、子の引渡しを求める審判とその審判前の保全処分の申立をなし、更に、離婚訴訟を提起し、長女の引渡し、長女、二女の監護者を妻に定めることを求める本件審判の申立をした。

夫に長女の引渡しを命ずる仮処分審判が下され、確定したが、夫は、代理人弁護士を通じて、裁判所の決定に従う意思がないことを表明した。

夫は、大宮市の賃貸マンションで、長女、夫の実母と生活していた。

家裁調査官立会いの上での面接調査の際、長女は妻に対して激しい拒否的態度を示した。

離婚の判例

①原審判は、以下のように述べて、夫を長女の監護者に指定し、妻の長女の引渡しを求める申立を却下した。

妻も夫も監護権者として格別に問題とすべき資質があるとは認められない。

長女の養育環境は前記審判前の保全処分時に比べると好転しているといえる。

主として長女を監護しているのは夫の実母であると認められるが、従来から長女とは祖母としての交流を保っていたものであり、夫の実母に長女を監護させることで長女の福祉上問題が生じるとも思われない。

その点からいえば、妻も有識者であって、妻が仕事についている間の子供の監護は妻の実母が行なっているのであるから、妻と夫との間でそれほどの格差があるとはいえない。

当庁での面接の際長女が妻に対して示した拒否的な態度は、裁判所も予想し得なかった激しいものであった。

長女としては、父母の対立による姉妹の分断はやむを得ない前提として、良好な関係にある夫と暮らすことを選択するといういわば苦渋の選択を表明したのではないかと判断されるのであって、そのような長女を、今度は夫と引き離すことは、長女にさらなる精神的な外傷を与えこそすれ決して分断された長女の福祉を回復するものではない。

②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、家裁に差し戻した。

まず、長女の監護状況についてみるに、夫が妻に無断で長女を連れ出すまでは、長女と同居していたのは妻や妻の実母であるから、近隣に住んでいたとはいえ、夫の実母と長女との接触時間より妻や妻の実母との接触時間が圧倒的に長かったと推測される。

夫は、長女と遊んだり共に就寝したりすることはあっても、日常生活上基本的な監護養育に当たったことはほとんどなく、仕事の都合を理由に人身保護手続に一度も出頭しなかったことを考えても、同じ有識者ではあっても、妻の方が長女との接触時間を長くとることができるとみるのが相当である。

また、長女は、その年齢等からすれば、まだ母親によるきめ細かな配慮に基づく監護が必要な生育段階にあると考えられるし、二女と分断して養育されることによって生じ得る心身発達上の影響についても慎重な配慮をする必要がある。

さらに、夫は、妻の下から長女を無断で連れ出し、家庭裁判所や高等裁判所の保全処分の決定にも従わず、地方裁判所の人身保護手続にも全く出頭しなかったのであり、そうこうしているうちに、長女は次第に夫らとの生活に安定を見いだすようになったという側面があることは否定できないのであって、その現状が安定しているからといって、安易に現状を追認することは相当ではない。

そうすると、妻と夫との監護権者としての適格性や養育環境については優劣付け難いとした原審の判断は、直ちにこれを相当として是認することはできず、上記の点につき更に審理を尽くさせる必要がある。

確かに、面接調査時における長女の妻に対する拒否的な態度は驚くほど強いものであるが、現在の監護者である夫らからの影響が全くないとはいいきれないし、5、6歳の子供の場合、周囲の影響を受けやすく、空想と現実とが混同される場合も多いので、たとえ一方の親に対する感情や意向を明確にしたとしても、それを直ちに子の意向として採用し、あるいは重視することは相当ではない。

したがって、長女が面接の際に示した態度が何に起因するものであるかを慎重に考慮する必要があり、いまだ6歳の長女が一度の面接調査時に示した態度を主たる根拠として監護者の適否を決めてしまうことには疑問がある。

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監護者を祖父母に指定・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻し、両者間に長女、二女が生まれた。

夫は、会社の産業医として勤務していた。

妻は、夫との夫婦喧嘩やその際に夫が自分や長女、二女に暴力を振るったこと等を原因として、長女、二女を連れて、実家に戻り妻の母と同居した。

夫と妻は、再度同居した。

これに伴い、夫妻が、長女、二女を連れて行こうとしたことから、長女、二女は、実家近くの久留米児童相談所に一時保護された。

長女、二女は、同相談所から逃げ出し、妻の母方に戻り、小学校に通学していた。

すると、夫妻が小学校から長女、二女を連れ出し、一緒に生活を始めた。

しかし、長女は、夫らの家を逃げ出し、妻の母とホテルにいるところを警察官に保護され、再度久留米児童相談所に一時保護された。

なお、二女は、夫妻宅に戻っている。

妻の母は、夫妻に対して、長女、二女の監護者を妻の母と指定し、長女、二女の引渡しを求める審判前の保全処分の申立をした。

離婚の判例

①原審は、以下のように述べて、妻の母の申立を却下した。

家庭裁判所に対し子の監護者の指定の申立をすることができるのは、子の父と母であり、第三者にはその指定の申立権がないとも解されるところ、母は、長女らの祖母でもあって第三者であるから、本件の子の監護者の指定の申立権がないとはいえなくもない。

しかし、子の親族や事実上の監護者にも、民法766条の規定の趣旨を類推し、子の監護者の申立権を認める見解も存しないではないので、ここではこの問題は一応さておき審判前の保全処分の当否について検討することとするとしたが、本件では、本案の審判の申立が認容される蓋然性も保全の必要性もないとした。

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3 前2項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

②抗告審は、以下のように述べて、原審判のうち長女に関する部分を取消し、長女の監護者を仮に母と定め、夫妻は母に対し、長女を仮に引き渡せと命じた。

本件の場合、度重なる両親の暴力を伴った紛争、長女に対して父親である夫による暴力や性的虐待が加えられている可能性が極めて高いこと等が現段階では否定できないのであるから、夫らの親権の行使が長女の福祉を害すると認めるべき蓋然性があるというべきである。

また、長女は、原審判後、暫くは一時保護先である久留米児童相談所で生活していたところ、まもなく同所から逃走し、現在のもとにかくまわれている状況であって、母と長女は、夫から連れ戻されるのを恐れて、現在学校にも登校することができない状況におかれているものである。

そうすると、上記のような長女の状況は同児の福祉に反することは明らかであって、現時点においては、同児の生活環境を早期に安定させる必要があるから、保全の緊急性もまたこれを認めることができる。

そして、同児の早急な生活の安定を図るためには、現在長女が望んでいる母による監護につき法的根拠を付与することが必要であると解される。

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