婚姻費用分担の住宅ローン支払い分の控除・・・

婚姻費用分担の住宅ローン支払い分の控除・・・

離婚の事案

夫は、家を出て妻と別居した。

夫は、税理士として独立して事務所を自営している。

妻は、婚姻当初から専業主婦で、夫の独立後はその事務所の専従者として給与を得ていたが、夫より解雇され、以後無収入であり、生活保護を受給している。

妻は、夫名義の自宅で3人の子と同居し、子を監護教育している。

夫は、自宅ローンとして年間約116万円を支払っている。

妻は、夫に対して、婚姻費用分担調停を申し立てた。

離婚の判例

①原審判は、以下のように述べて、標準的算定方式に基づき夫に対して月21万円の支払を命じた。

妻は現在無収入であるが、夫の事務所に通っていることから、一定の稼働能力はあると認められる。

もっとも、妻が夫から解雇された現状において、自営業の専従者として従前同様の収入を得ることを期待することはできないから、妻の稼働能力はパートタイム就労の収入程度と認めるのが相当であるとして、妻の潜在的総収入を賃金センサスのパートタイム女性労働者の40歳ないし44歳の年間額119万3129円と推定した。

夫の総収入は、平成16年度の所得合計830万3197円から「所得から差し引かれる金額」として計上した206万2067円を控除した上で、扶養控除114万円を持ち戻した738万1130円と認定した。

また夫が負担している住宅ローンについては、夫の負債の返済であるとともに、夫の資産の維持のための出費であるから、特別経費として控除することは相当でないとした。

②抗告審は、原審判を維持した。

③最高裁は以下のように述べて、抗告を棄却した。

原審は、夫の所得金額合計830万3197円から社会保険料等を差し引いた738万1130円を夫の総収入と認定し、この総収入から税法等に基づく標準的な割合による税金等を控除して、夫の婚姻費用分担額算定の基礎となるべき収入(以下「基礎収入」という。)を推計した上、夫の分担すべき婚姻費用を月額21万円を算定したものである。

以上のようにして婚姻費用分担額を算定した原審の判断は、合理的なものであって、是認することができる。

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離婚の慰謝料請求権の性質・・・

離婚の事案

夫と妻は、事実上の婚姻をして同棲し、婚姻届をした。

夫は、応召したが、夫の応召中も妻は、夫の母とともに田畑の耕作をした。

応召(おうしょう)とは、呼び出しに応じること。

特に、在郷軍人などが召集に応じて軍務につくこと。

妻は、農耕による過労のため健康を害し、農耕を休むようになったため、母から冷淡な態度をとられた。

夫は、復員したが、母は、妻を非難し、夫も母の言動に追随したため、妻は婚家を去った。

その後、女児が生まれた。

夫は、妻に対して、離婚請求訴訟を提起し、妻は、夫に対して離婚と慰謝料請求の反訴を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫と妻の離婚を認容したが、妻の夫に対する慰謝料請求は棄却した。

②控訴審は、夫と妻の夫婦関係が破綻した発端は母の妻に対する思いやりのない態度にあり、夫は、母を諌めその啓蒙に十分の努力を払わなかったとして、夫に対して7万円の慰謝料の支払を命じた。

③夫は、上告理由として現行民法においては離婚の場合に離婚をした者の一方は、相手方に対して財産分与の請求ができるから、離婚につき相手方に責任がある故をもって、直ちに慰謝料の請求をなし得るものではなく、その離婚原因となった相手方の行為が、特に身体、自由、名誉等の利益に対する重大な侵害であり、不法行為の成立する場合に、損害賠償の請求をなし得るにすぎないと主張した。

最高裁は、この上告理由に対して、以下のように述べて、夫の上告を棄却し、控訴判決を維持した。

離婚の場合に離婚した者の一方が相手方に対して有する財産分与請求権は、必ずしも相手方に離婚につき有責不法の行為のあったことを要件とするものではない。

しかるに、離婚の場合における慰謝料請求権は、相手方の有責不法な行為によって離婚するの止む無きに至ったことにつき、相手方に対して損害賠償を請求することを目的とするものであるから、財産分与請求権とはその本質を異にすると共に、必ずしも所論のように身体、自由、名誉を害された場合にのみに慰謝料を請求しえるものと限局して解釈しなければならないものではない。

されば、権利者は両請求権のいずれかを選択して行使することもできると解すべきである。

ただ両請求権は互いに密接な関係にあり財産分与の額及び方法を定めるには一切の事情を考慮することを要するのであるから、その事情の中には慰謝料支払義務の発生原因たる事情も当然に斟酌されるべきものであることは言うまでもない。

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財産分与後の慰謝料請求権・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻の際に、前妻との間の男子を連れ子として、妻と夫の間にも長女が生まれた。

妻は、夫及び夫の母からの暴力、虐待を受け、長女を連れて家を出ることを夫の母に阻止されたので、単身実家に帰った。

妻は、夫に対して離婚訴訟を提起し、離婚及び長女の親権者を夫と定め、夫から妻に整理ダンス1個、水屋1個の財産分与を命じる判決が下された。

妻は夫に対して離婚による慰謝料30万円の支払を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫に対して15万円の慰謝料をの支払を命じた。

②控訴審も一審判決を維持した。

③最高裁も、以下のように述べて、控訴審判決を維持した。

本件慰謝料請求は、夫と妻との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となった夫の虐待等、妻に身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、妻において、夫の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右損害を知り得たものとすることは相当ではなく、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当である。

財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額及び方法において、請求者の精神的苦痛を慰謝するには足りないと認められるものであるときは、すでに財産分与を得たという一事によって慰謝料請求権がすべて消滅するものではなく、別個の不法行為を理由として離婚による慰謝料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。

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