日本人妻のカナダ人夫に対する離婚反訴・・・

日本人妻のカナダ人夫に対する離婚反訴・・・

離婚の事案

カナダ人の夫は来日し、日本人の妻と日本法に従って婚姻届をし、日本とカナダの二重国籍の長男が生まれた。

夫と妻は、長男を連れてカナダに渡った。

妻が夫の女性関係に疑いを持ち、この女性のことを夫に問いただしたことから喧嘩となり、夫は妻に離婚の申入れをし、別居状態となった。

双方が代理人を立てて、離婚条件の話し合いをし、合同調停が開かれたが、その期日において、妻が長男を連れて日本に帰ることを希望したことから、夫は必ず長男を連れてカナダに戻ることを条件にこれを承諾した。

妻は、長男と共に日本に帰り、以後長男にカナダには帰さず、自分もカナダに戻らなかった。

長男の親権者を妻と定めて協議離婚届が提出されたが、その夫の署名押印欄は妻が署名押印を代行したものであった。

夫は、妻に対して、本件離婚の無効確認を求める訴訟を提起した。

妻は、夫に対して予備的反訴として、離婚を求めた。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、妻の予備的反訴の訴えを却下した。

妻が夫から遺棄されたとはいえないこと、夫が行方不明であるとはいえないことは明らかであるし、妻と夫が名実ともに夫婦としての生活を継続していた昭和56年5月から平成2年4月までの約9年間のうち、日本を生活の本拠としていたのは約3年間に過ぎず、昭和59年5月以降約6年間はカナダを生活の本拠とし、夫婦としての最後の生活地及び共通の住所地はいずれもカナダであること、前記の妻の本件反訴における請求原因に記載したとおり、妻が離婚原因として主張する事情はそのほとんどがカナダにおける結婚生活時に生じているのであって、右離婚原因事実の存否を判断するためには妻と夫のカナダにおける結婚生活の状況を審理の対象とすることが不可欠であり、そのためには証拠収集の便宜及び証人の出頭確保等の観点からカナダの裁判所において審理を行なうことが相当であること、夫は、既にカナダ国内及び日本国内において、事実上失われた長男に対する親権及び監護権を回復するため、相当な精神的、物質的負担を余儀なくされており、更に本件反訴について日本において実質的な防御活動を行なう負担には耐えがたい状態となっていることが認められる。

また、前記認定のとおり、妻とその長男が現在日本に居住しているのは、妻がカナダで行なわれていた合同調停の席において成立した合意の内容に反し、長男を日本に連れ帰ったままカナダに戻ってこなかったことに原因があるのであって、これを妻に有利な事情として重要視することは、訴訟手続き上の信義則に反するといわなければならない。

さらに、日本国内において夫側から離婚無効の本訴が提起されている点に関しても、本件本訴と反訴は事実上の争点を異にし実質的な関連性に乏しいことが認められるばかりでなく、本件本訴は、前記渉外身分訴訟における国際裁判管轄権の分配の原則に照らすと、妻の住所地国である日本に裁判管轄権がありカナダにはないと解されるところ、夫が多額の費用をかけて日本において離婚無効の訴えを提起することを余儀なくされたのに乗じ、本件本訴の存在を理由に妻が本来カナダでした提起できないはずの離婚訴訟を日本で提起できることとなると解することは、妻とその長男が日本に居住するに至った前記事情に照らしても、訴訟手続における公正を損なうおそれがあり妥当でないというべきである。

以上の諸事情を比較検討すると、本件反訴の裁判管轄権は、原則どおり夫の住所地を管轄するカナダの裁判所に専属すると解するのが相当である。

②控訴人は、以下のように述べて、原判決を取消し、名古屋地裁に差し戻した。

本件反訴のごときいわゆる渉外離婚訴訟事件について、日本に国際裁判管轄権を肯定するには、当事者間の便宜公平、判断の適正確保等の訴訟手続き上の観点から、当該離婚事件の被告の住所が日本にあることを原則とすべきであるが、他面、国際私法生活における正義公平の見地から、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合、その他これに準ずる場合等、特別の事情の存する場合においては、被告の住所が日本になくても、原告の住所が日本にあれば、補充的に日本に裁判管轄権を認めることができるというべきである。

そうすると、夫は、本件反訴提起の当時から、行方不明とまではいえないまでも、少なくとも常住居所が明らかでないものというべきであるのに加え、現に妻を相手方として日本の裁判所に離婚無効確認の訴えを提起し、これが原裁判所に係属中であることが明らかであるから、本件反訴については、訴訟当時者間の公平という基本理念に照らし前記渉外離婚訴訟事件の国際裁判管轄権についてのいわゆる被告主義の一般原則の例外である特別の事情が存するものとして、日本に国際裁判管轄権を認めるのが相当である。

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給与天引による養育費のミネソタ州判決の執行・・・

離婚の事案

日本人の母は、男の子を出産した。

母は、日本人の父に対し、子の父親確認の訴えを提起し、父は不出頭のまま、子の父親であるとし、子の養育費の支払を命じる本件外国判決が下され、同判決は確定した。

母は、夫に対して、本件外国判決に基づき、同判決主文3項の養育費の給付を命じる部分につき、強制執行することの許可を求める本件訴訟を提起した。

なお、本件外国判決3項は、以下のとおりである。

父の現在の使用者、又は将来の使用者、又は他の基金の支払者は、その原因いかんにかかわらず、父の収入から天引し、ミネソタ州ミネアポリス市はヘネピン州サポート・アンド・コレクションサービスに、次のとおり、父の支払い期間及び義務に応じ、分割して送金する。

子の養育費として、同人が18歳に達するまで、同人が中等学校に就学している場合は20歳まで、同人に肉体的精神的疾患があって自活できない場合にはその間、さらに裁判所の決定があるときはこれに基づき、毎月1250ドル。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、母の訴えを却下した。

民事執行法24条、民事訴訟法200条により、外国判決の給付を命じた部分につき執行判決を求める訴えは、わが国において当該外国判決を承認しこれに基づく執行を可能とすることを目的とするものであるから、同条にいう外国裁判所の判決は、わが国の強制執行に親しむ具体的な給付請求権を表示してその給付を命じる内容を有する判決のみをさし、当該外国判決の給付を命じる部分が、わが国の強制執行にそぐわず、同部分につき執行を許可しても、そのままでわが国において強制執行をすることができないような内容を有する外国判決については、執行判決を求める利益がないのみならず、給付を命じる部分を承認し、執行を許可することもできないものというべきである。

②控訴審は、以下のように述べて、原判決を取消し、下記の養育費支払い義務について、母が父に対して強制執行することを許可した。

子の養育費として、1993年10月1日から同人が18歳に達するまで、同人が中等学校に就学している場合は20歳まで、同人に肉体的精神的疾患があって自活できない場合にはその間、さらに裁判所の決定があるときはこれに基づき、毎月1250ドル。

養育費支払についての給与天引制度は、アメリカが州国の前記法律によって認められたものであって、わが国には存在しない制度であるから、わが国においては、本件外国判決によって、判決の当事者ではない父の使用者等に対し、差押等を介することなく、子の養育費を父の給与から天引し、これを公的な集金機関に送金すべきことを命ずることができないのは明らかであるが、判決によって支払を命じられた養育費については、ミネソタ州法上、支払が30日以上ないときには、支払い請求権者が支払い義務者に対し所定の通知をし、支払義務者が支払をするか、所定の手続をとらない限り、執行することができるとされているのであって、本件外国判決のうち、父の使用者等に対し、父の給与の天引とヘンピン州サポート・アンド・コレクションサービスへの送金を命ずる部分は、ミネソタ州において、父に対し養育費の支払を命ずるものとして執行力を有しているというべきであるから、本件外国判決のうち養育費の支払を命ずる部分の執行力を、わが国においても外国裁判所の判決の効力として認めることができるものである。

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日本居住米国人夫の米国居住妻の離婚請求・・・

離婚の事案

米国籍の夫は、日本企業の香港駐在員として勤務していた際に、中国籍の妻と知り合い、在日米国大使館において婚姻手続をとった上、これを港区長に届出受理され夫婦となり、長男が生まれた。

夫と妻は、日本に転勤となり、西宮市で生活した。

妻は、長男を連れて上海の実家に帰省したまま戻らず、夫が長男だけを上海から日本に連れて帰り、以後別居状態となった。

妻は、上海から米国カリフォルニア州に転居したが、その後、トランジットのビザをとるため数日間夫と会ったのを最後に、1年に1回くらい米国から一方的に電話をかけてくるにとどまり、米国内での住居所は不明である。

夫は、妻に対して、離婚、長男の親権者を夫と定めることを求める本件訴訟を提起した。

なお、妻は公示送達による呼び出しを受けたが、出頭していない。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、夫の請求を認容した。

①本件離婚請求の準拠法については、法例16条本文により、同法14条を準用することになるが、まず、夫は米国籍であり、妻は中国籍であるから、共通本国法は存在せず、また、夫は日本に定住者の資格で在留しており、その常居所は日本であるのに対し、妻は永住権を取得している米国のいずこかに住居所を有しているにすぎないから、夫婦の共通常居所地法も存在しない。

そこで、夫婦に最も密接な関係がある地の法律によるべきところ、前記のとおり、夫と妻は、日本で婚姻した後、夫の転勤に伴って香港から長男を伴って来日し、1992年6月から一時期日本で共同生活を始めたことがあり、夫と長男は、いずれも日本における定住者の在留資格を有し、在留期間を3年ごとに延長し、夫婦が別居状態となった以降も、引き続き日本で生活して現在に至っているから、こうした事実に照らすと、夫婦に最も密接な関係がある地の法律は日本法であり、本件離婚請求については日本法が準拠法になるというべきである。

②離婚に伴う未成年の子の親権の帰属は、父母の離婚によって発生する問題ではあるが、離婚を契機として生ずる親子間の法律関係に関する問題であるから、準拠法は法令21条によるべきである。

本件において、夫と妻の間の長男は、米国籍を有するが、米国は、実質法のみならず抵触法についても各州ごとに相違しており、統一的な準国際私法の規則も存在しない不統一法国であるから、法令28条3項にいう内国規則はなく、当事者に最も密接な関係ある地方の法律を当事者の本国法とすべきことになるが、子の国籍が米国である以上、子の本国法としては、米国内のいずれかの法秩序を選択せざるを得ない。

外国人登録原票上の国籍の属する国における住所又は居所は、長男及び夫とも、オハイオ州クリーブランド市であることが認められ、夫がオハイオ州で生まれ、同州の大学を卒業して来日してことは前示のとおりであるから、右事情に鑑みると、子の本国法としては、法令28条3項にいう当事者に最も密接な関係ある地方の法律としてオハイオ州法と選択し、長男の親権の帰属は、法令21条による子と父の共通本国法である同州法の定めるところによって決するのが相当である。

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