子を奪取した場合の監護者の指定・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、夫の実家が改築された以降、そこで夫の両親と一緒に暮らすようになり、長男が生まれた。
妻は、出産後1年間は育児休暇を取得し、その後職場復帰して、事件本人の育児を実妹に9ヶ月程度依頼し、事件本人が2歳になってから保育園に通園させた。
妻は、事件本人を連れて実家に行き、以後夫と別居した。
夫は、夫婦関係円満調停の申立をし、事件本人の監護者を夫と指定することを求める本件審判及び審判前の保全処分を申し立てた。
事件本人が妻の実母と共に通園バスを待っていたところ、夫が両親と共に車で待ち伏せをして、夫の自宅でその両親の協力の下に事件本人を監護養育し、地元の保育園に通園させた後、地元の小学校に入学させた。
妻は、事件本人の監護者を妻と指定することを求める本件審判及び審判前の保全処分の申立をし、離婚を求める調停申立をした。
離婚の判例
①原審は、事件本人の監護者を夫と定めた。
②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、事件本人の監護者を妻と定めた。
事件本人は現在7歳とまだ幼少の年齢であり、出生以来主に実母である妻によって監護養育されてきたものであって、本件別居により妻の実家に移ったが、夫らによる事件本人の本件奪取時までの妻側の事件本人に対する監護養育状況に特に問題があったことをうかがわせる証拠はない。
ところが、その後にされた夫及び同人の実父母による事件本人の実力による奪取行為は、調停委員等からの事前の警告に反して周到な計画の下に行なわれた極めて違法性の高い行為であるといわざるを得ず、この実行行為により事件本人に強い衝撃を与え、同人の心に傷をもたらしたものであることは推認するに難くない。
夫は、前記奪取行為に出た理由について、妻が事件本人との面会を求める夫の申出を拒否し続け、面会を実現する見込みの立たない状況の下でいわば自力救済的に行なわれた旨を主張しているものと解せられるが、前記奪取行為がされた時点においては、夫から妻との夫婦関係の調整を求める調停が申し立てられていたのみならず、事件本人の監護者を夫に定める審判の申立及び審判前の保全処分の申立がされており、これらの事件についての調停が続けられていたのであるから、その中で夫と事件本人との面接交渉についての話し合いや検討が可能であり、それを待たずに強引に事件本人に衝撃を与える態様で同人を奪取する行為に出たことには何らの正当性も見いだすことはできない。
そうすると、このような状況の下で事件本人の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限られるというべきである。
しかるに、本件においては、このような特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
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親権者の変更の判断基準・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長男が生まれた。
夫が妻に相談しないで計画した会社の設立に失敗し、多額の負債を抱えたことなどが原因となって夫婦関係が破綻し、長男の親権者を夫と定めて協議離婚した。
妻は、離婚に際し、自分が親権者になって事件本人と養育することを希望したが、まだ離婚後の生活指針や事件本人の養育体制についての見通しが立っておらず、妻の母、弟も事件本人を引き取ることに反対した。
また、夫の父の提案で、「妻が就職して生活が安定したことを妻の母と弟が認め、事件本人を引き取ることを願い出たときは、事件本人を引き渡す。なお、妻が事件本人に会いたいときは、いつでも会って差し支えない」との誓約書を交付されたこと等から、夫を親権者とすることに同意し、事件本人は夫の実家に預けられ、夫の両親の下で養育されることになった。
しかし、妻は、子を思う気持ちを断ち切れず、親権者変更の調停申立をし、調停は不成立となり、本審判に移行した。
離婚の判例
①原審は、妻の申立を認め、長男の親権者を妻に変更した。
②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、妻の親権変更の申立を却下した。
妻は、夫を事件本人の親権者と定めることに一旦は同意して協議離婚をしたものの、子を思う気持ちを断ち切れず、事件本人の親権者になって同人を監護養育することを強く望んでおり、妻の健康状態、性格、愛情、監護養育に対する意欲、経済力など親権者としての適格性において、夫との間にそれほど優劣の差はなく、事件本人の養育態勢についても真剣に配慮していることが認められる。
しかし、他方、夫の事件本人に対する監護養育の現状を見るに、夫が昭和60年12月に実家に戻ってからは、事件本人は、祖父母の家において、父、祖父母及び叔母という家族構成の中で、それぞれの人から愛情をもって大事に育てられ、心身ともに健全に成長して、安定した毎日を過ごしており、その生活環境にも何ら問題はなく、経済面においても祖父母の協力によって不安のない状態に置かれていることが明らかである。
そうすると、親権者を変更するかどうかは、専ら親権に服する子の利益及び福祉の増進を主眼として判断すべきところ、まだ3歳になったばかりで、その人格形成上重要な発育の段階にある事件本人の養育態勢をみだりの変更するときは、同人を情緒不安定に陥らせるなど、その人格形成上好ましくない悪影響を残す恐れが大きいものと予想されるから、妻において夫から誓約書を交付された事情を考慮しても、将来再度検討の余地は残されているものの、なお現段階においては、事件本人のために親権者を夫から妻に変更することは相当でないといわざるを得ない。
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親権者変更の審判前の保全処分・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、夫の実家がある和歌山県で生活し、長女、二女、三女が生まれた。
妻は、夫の女性関係を原因として離婚を決意し、3子を連れて妻の実母の住む札幌市内に転居し、3子とともに生活した。
夫は、3子の親権者を夫とするなら離婚に応じる態度であったため、長女と二女の親権者を夫と定め、三女の親権者を妻と定め、3子の監護は妻が当たることを合意して、協議離婚した。
長女と二女が夏休みを利用して夫のもとに行き、夫は、そのまま2子を引き留め、転校の手続をとった。
長女と二女は、札幌の妻のもとに行き、以後妻のもとで生活している。
妻は、親権者変更の審判申立て、本件審判前の保全処分として、夫の職務執行停止、職代行者に妻を選任することを求めた。
離婚の判例
原審は、以下のように述べて、以下の主文の保全処分をした。
主文「上記本案申立事件の審判が効力を生じるまでの間、夫の事件本人に対する親権者としての職務の執行を停止し、その職務代行者に妻を選任する。」
「本案事件においては、申立を認容し、長女の親権者を夫から妻に変更する旨の審判をする蓋然性が高いということができる。」
「長女の利益のため、長女の意向を尊重し、早急に**高校へ転入学を図るべきところ、その手続をとることを可能とするため、この手続を取ることを拒否する夫の親権者としての職務を現時点において本案事件についての審判の効力が生じるまでの間停止し、その間その職務代行者に長女の教育の現況に照らし妻を選任するのが相当である。」
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