日本人夫の米国人妻への離婚請求・・・

日本人夫の米国人妻への離婚請求・・・

離婚の事案

日本人の夫は、名古屋市において、米国人の妻と婚姻し、名古屋市で生活を始めた。

長男、長女が生まれた。

子らは、いずれも日本、米国双方の国籍を有している。

妻は、夫に無断で、2人の子を連れて米国に帰った。

妻は、米国オレゴン州マリオン郡巡回裁判所に、永久別居及び2子の親権者を妻と指定する旨を求める訴訟を提起した。

夫は、妻に対して離婚、2子の親権者を夫と定める500万円の慰謝料の支払を求める本件訴訟を提起した。

妻は、米国裁判所に、上記永久別居の訴えを離婚の訴えに変更する旨の申立をし、夫と妻の婚姻が終了する旨及び2子の親権を妻とする旨の判決が下され、同判決が確定した。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、夫と妻の婚姻は、夫の暴行、虐待によって破綻したと認定し、夫と妻とを離婚する旨の判決を下し、夫のその余りの請求は棄却した。

①国際裁判管轄について

被告がわが国に住所を有しない場合であっても、原告の住所がわが国にあり、原被告の婚姻共同生活地がわが国にあった場合には、原告が被告を婚姻共同生活地から強制的に退去させたなどの当事者間の公平を害する特段の事情のない限り、わが国が国際裁判管轄を有すると解するのが相当である。

婚姻共同生活地には、通常、離婚の訴えの審理に必要な証拠の多くが存在するから、裁判の適正・迅速に資するし、応訴を強いられる被告にとっては、不利益があるとしても、婚姻共同生活地は、通常、夫婦の協議によって決定されるものであるから、同地で離婚の裁判を受けることはやむを得ないし、また、同地で生活した経験を有する以上、言語や文化的障害も比較的小さいといえるから、特段の事情のない限り、当事者間の公平に合致し、条理にかなうと解されるからである。

以上に加えて、管轄を定める基準は可能な限りあらかじめ明確であることが望ましいところ、原告の住所と婚姻生活地を基準とすることは明確であり、当事者の予測可能性を確保しうるものであるといいうる。

ただし、原告が被告を婚姻共同生活地から強制的に退去させた場合は、被告にとって、不利益の大きい婚姻共同生活地で裁判を受けることがやむを得ないとはいえず、当事者間の公平に合致せず、条理にかなうとはいえないから、原告の住所がわが国にあり、原被告の婚姻共同生活地がわが国にあったとしても、わが国は国際裁判管轄を有しないと解するのが相当である。

夫が妻を婚姻共同生活地から強制的に退去させたなどの当事者間の公平を害する特段の事情は認められない。

したがって、夫の住所地があり、夫妻の婚姻共同生活地があったわが国は本件離婚の訴えの国際裁判管轄を有すると解するのが相当である。

親権者指定の裁判の国際裁判管轄は、離婚の訴えの国際裁判管轄を有する国及び子の住所地の所在する国が有すると解するのが相当である。

②米国確定判決の日本における効力

米国確定判決中の夫妻間の婚姻が終了するとの部分は、民事訴訟法118条1号の要件を満たさないからその余りの点について判断するまでもなく、わが国において、効力を有しないというべきである。

米国確定判決中の親権者指定に関する部分は、民事訴訟法118条各号の要件を満たすから、わが国において、効力を有するものと解するのが相当である。

したがって、本件親権者指定の申立は、米国確定判決の効力に抵触するから、不適法である。

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中華民国国籍夫婦の財産分与・・・

離婚の事案

台湾・中華民国国籍の夫と妻は、婚姻した。

日本人であった妻は、中華民国国籍に帰化した。

夫と妻は、本件土地上にあった本件建物4に住むようになった。

その後本件建物4は滅失登記をしないまま解体して移築され、その跡に未登記の本件建物2が建てられ、そこに夫妻及び長女が住んだ。

夫と妻は、協議離婚した。

その際に、夫は、妻に対して、本件土地と本件建物2を財産分与することが合意され、本件土地については、財産分与を原因とする所有権移転登記手続がされた。

本件建物2については、未登記であったことから、登記上は本件建物4について財産分与を原因とする所有権移転登記手続がされた。

夫は、妻に対して、財産分与をしたことはない等と主張して、本件土地及び本件建物2外について所有権確認、本件土地について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続等を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、夫の請求を棄却した。

②控訴審も、以下のように夫の控訴を棄却し、一審判決を維持した。

夫は、夫と妻の離婚に関しては本国法である中華民国民法が適用され、同民法でも協議離婚が認められているが、本件の協議離婚においては同民法が要求する手続がされていないから、両者間に離婚は成立しておらず、したがって、財産分与もあり得ないと主張する。

しかし、離婚の方式については、婚姻のような特別な定めがないから、旧法例8条が適用されると解するのが相当である。

そうすると、本件の協議離婚は、同条2項により行為地法である日本法の手続によることができるところ、夫と妻の離婚届は適法に世田谷区長に受理されていることが認められるから、夫と妻の離婚は有効に成立したというべきである。

夫は、中華民国民法は財産分与を認めていないから、夫から妻への財産分与を全く認めないことは、わが国の公の秩序又は善良の風俗に反するものといわざるを得ないから、旧法例30条により、財産分与を認めない中華民国民法は適用されないと解すべきである。

そうすると、財産分与の成立及びその効力は、日本民法によることになるから、夫から妻に対する本件土地及び本件建物2の財産分与は有効である。

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カリフォルニア州の離婚後の妻への扶養料・・・

離婚の事案

日本人の妻と日本人の夫は、いずれも日本において医師免許を得た医師であるが、婚姻し、米国カリフォルニア州法によって離婚した。

妻と夫は、結婚生活の大半を米国カリフォルニア州で送っており、カリフォルニア州上級裁判所によって、夫に対して清算的財産分与を命じる内容の判決が出され、離婚後の扶養料支払を命ずる内容の判決が出された。

①妻は、夫から夫婦共有財産の財産分与の一部として、夫が金融機関に設定したIRA口座内の金員についてその38.95%、すなわち41万0923米国ドルを与えられる。

②夫は妻に対し、同人の生活費として5年間、毎月1万米ドルを、毎月1日に半額、15日に半額の支払条件で支払え。

妻は、日本と米国を行き来していたが、帰国し、以後日本において医師をしている。

夫も日本に帰国し、医院を開業している。

妻は、夫に対して、財産分与判決の執行不能を夫の債務不履行として、損害賠償として約11万3000ドルの支払と扶養料判決に基づき強制執行の許可を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、扶養料判決の承認は公序良俗に反しないとして、妻の請求すべてを認容した。

外国判決の承認の要件として内容面での公序良俗の有無は、事件の渉外性を考慮した上での内国の基本的価値や秩序を害するかという国際私法的公序であるところ、わが国でも夫婦の離婚にあたって、財産分与の一環として扶養的要素も考慮されるものであって、補充性の要件に有無について相違があるとしても、それのみで本件扶養料判決が公序良俗に反することはなく、本件での具体的な事情のもとで、本件扶養料判決が過酷な結果をもたらすものであるかどうかを検討すべきである。

②控訴審は、以下のように述べて原判決を取消し、妻の請求をすべて棄却した。

共に日本国籍を有する夫婦の離婚に伴う権利関係が、離婚後の元夫婦の常居所地である外国の裁判所でその常居所地の法律に基づいて判決され、当該外国法からみてその判決内容に問題がない場合でも、当事者の常居所が判決の前提とする土地からわが国に変り、当該判決の内容がわが国の法律の定める内容と大きく隔たるものであるときは、当該外国判決の内容どおりとしても障害が生じないという特別の事情があるのでない限り、その判決の内容は、わが国の公序に反するものと解するの相当である。

本件扶養料判決は、他の離婚給付に照らした元配偶者の生活維持の必要性を要件とせずに、すでに離婚した者に相手方の扶養を命じている。

これは、カリフォルニア州家族法には、「当事者の婚姻の解消又は法定別居を命ずる全ての判決において、裁判所は、一方の当事者に他の当事者の扶養のためになにかしかの金額を、また、裁判所が正当かつ相当であると考え得る期間支払うよう命ずることができる」との規定が存するからである。

しかし、その内容は、わが国の法律と内容と大きく隔たるものである。

そして本件の場合は、夫、妻とも米国での生活は、扶養料判決後の帰国によって、行なわれなくなったのである。

妻の米国での医学修行の必要性も消滅している。

この面で扶養料判決のそれ自体の内容上の妥当性は、その前提が存在しないことによって、すでに失われているというべきである。

夫は、外国裁判所に対する不信感から、本件扶養料判決の取消しを外国裁判所に申し立てていない。

しかし、そのような申立を外国でするには、一般に、多額の費用もと時間を要することを考慮すると、そのような外国裁判所に対する申立がなくても、その判決についてわが国において執行を許可するかどうかを検討するに当たり、受訴裁判所がその内容的な妥当性を審査することが許されるものというべきである。

そうすると、共に日本国籍を有する夫婦の離婚についてされた本件扶養料判決は、当事者の常居所が判決の前提とする土地からわが国に変り、当該判決の内容がわが国の法律の定める内容と大きく隔たっていること及び当該外国判決自体の前提とする事実関係が判決後に消滅していて、その内容自体の妥当性も失われていること、以上のいずれの観点からも、これをそのまま執行させることは、わが国の公序に反するものといわねばならない。

外国判決は、その成立に至る手続や内容にわが国の公序に反するものがあるときには、そのわが国における執行を許可することはできないのであって、妻の執行許可の請求は、理由がなく、これを認容することができないものである。

なお、財産分与判決の執行不能の事実もないとして、執行不能を理由とする損害賠償請求も理由がないと判示した。

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フランス人夫の暴力による離婚請求・・・

離婚の事案

日本人の妻は、仕事のため日本で生活していたフランス人の夫と知り合い、仕事を終えて帰国する夫とともに渡仏した。

妻と夫は、パリ第3区区役所に婚姻届を提出し、長男が生まれた。

妻は、夫から暴力を受けたとして夫を告訴し、長男を連れて家を出て、日本の帰国し、以後夫と別居している。

妻は、フランスの裁判所に離婚調停手続を申し立てたが、これを取下げた。

夫は、妻に対して、暴行を加え、日常生活への支障が8日間を超えない傷害を負わせた罪により、フランスの裁判所で有罪判決を受けた。

妻は、夫に対して、離婚、長男の親権者を妻と定めること、慰謝料として1000万円の支払を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①裁判所は、以下のように述べて、離婚、長男の親権者を妻と定め、夫に対して300万円の慰謝料の支払を命じた。

妻としては、こうした夫の暴行等により、このまま夫との婚姻生活を継続した場合には、妻や長男の身体ひいては生命に危害が及ぶものと考え、やむを得ず、乳飲み子であった長男を連れて日本に帰国し、両親の保護を求めたものと認められ、妻の行動は、その経緯に照らすと合理性があり、妻が日本へ帰国することを余儀なくしたのは、専ら夫のこうした言動にあるというべきである。

そもそも、生命、身体の自由、安全を求める権利は、人が人として当然に保有する権利であって、何人もこれを犯すことはできないとし、その権利性は、国際人権規約の条項等を指摘するまでもなく、いずれの国においても尊重されるべき普遍的権利であるというべきである。

その権利は、正当防衛等特に法が許容した場合以外には犯すことができないのであって、ただ、婚姻関係にあるというだけで、夫から妻への暴行等を許容し得ないことはいうまでもない。

そして、広く世界的に制定されているDV防止法の立法趣旨等に鑑みれば、配偶者から暴力行為を受けた他方配偶者は、その制定がない場合においても、人格権に基づき、その接近等を排除する権利を有するものというべきであり、訴訟提起、遂行等のために、相手方配偶者と接近することを余儀なくすることが相当でないことはいうまでもない。

そして、証拠によれば、フランス民法251条1項は、「共同生活の破綻によって、又は有責事由によって離婚を請求するときは、勧解の試みが裁判上の審理の前に義務付けられる。」とし、同法252条1項は、「裁判官は、夫婦を勧解しようと務めるときは、その立会いの下に夫婦を合わせる前に、個別に夫婦のそれぞれと個人的に話し合わなければならない。」としている。

したがって、本件で、妻がフランスにおいて離婚を請求しようとする場合、妻の請求する離婚はフランス民法にいう有責事由による離婚であるから、裁判官が勧解の試みを行なう必要があり、その際には、当事者の出頭が義務付けられ、その結果、妻は、フランスに入国し、滞在しなければならなくなる。

しかし、先に判示した妻が日本へ帰国するした経緯、妻の帰国後に調査会社による不審な行動があること等に照らして考えると、妻にフランスに入国し、滞在することを求めることは、妻を夫から従前同様の暴力等を加えられる危険にさらす可能性を高めるものというべきであって、妻の人格権の保護の要請にそぐわないというものである。

そうすると、妻が夫の住所地国であるフランスに離婚請求訴訟を提起することについては、妻の生命、身体が危険にさらされるという事実上の障害があり、夫が妻の首を絞め、絞首のあとを残したこともあるという事実を考えると、その程度は、妻の生命に関わるもので、障害の程度は著しいものというべきである。