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相続財産(無権代理の追認)・・・
無権代理人が本人を他の相続人とともに共同相続した場合、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人に不可分的に帰属し、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解するべきであり、そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではないとされます。
無権代理とは、本人を代理する権限(代理権)がないにもかかわらず、ある者が勝手に本人の代理人として振る舞うことをいう(広義の無権代理)。
広義の無権代理には代理権の外観について一定の要件を満たす場合に有権代理と同様の効果を認める表見代理が含まれるが、狭義の無権代理はこの表見代理が成立しない場合のみをいう。
追認とは、過去にさかのぼって、その事実を認めること。
不完全な法律行為を、のちに確定的に有効なものとする意思表示。
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相続財産(他人の権利の売主を権利者が相続)・・・
他人の権利の売主が死亡し、その権利者において売主を相続した場合には、権利者は相続により売主の売買契約上の義務ないし地位を承継しますが、相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができます。
その理由を、相続により権利者自身が売買契約をしたことになるものではなく、これによって売買の目的とされた権利が当然に買主に移転するものと解すべき根拠もなく、また、権利者は、その権利により、相続人として承継した売主の履行義務を直ちに履行することができるが、他面において、権利者として権利の移転につき諾否の自由を保有しており、それが相続による売主の義務の承継という偶然の事由によって左右されるべき理由はなく、また権利者が権利の移転を拒否したからといって買主が不足の不利益を受けるというわけではないとしています。
このことは、他人に属する権利を売買の目的として売主を権利者が相続した場合だけでなく、売主がその相続人足るべき者と共有している権利を売買の目的とし、その後相続が生じた場合も同様であるとして、売主及びその相続人たるべき者の共有不動産が売買の目的とされた後相続が生じたときは、相続人はこの持分につき売買契約における売主の義務の履行は拒み得ないとする判例は前記判断と抵触する限度で変更されました。
この大法廷判決は、原審が被相続人甲が被上告人乙に代物弁済として供した土地建物が甲の所有でなく、上告人丙の所有であったとしても、その後甲の死亡により丙が共同相続人の1人として、土地建物を乙に給付すべき甲の義務を承継した以上、これによりこの物件の所有権は当然に丙から乙に移転したと判断したのに対して、他人の権利の売主をその権利者が相続した場合の法理は、他人の権利を代物弁済に供した債務者をその権利者が相続した場合に妥当するとされたものです。
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相続の対象とならない権利義務(扶養)・・・
扶養債務は純然たる過去のものであっても当事者間の協議、調停審判により、その内容が確定するまでは一身専属の抽象義務であって相続の対象とならないと解されます。
しかし、扶養審判によって形成された扶養料は金銭債権となり、審判に対する抗告事件係属中に扶養権利者が死亡したときは、審判において認定された扶養請求権の始期から死亡の日までの分についてこの債権は相続の対象になります。
民法第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
扶養請求調停とは
直系血族及び兄弟姉妹は相互に扶養義務がありますが,扶養を要する者(扶養権利者)と扶養義務者との間で,引取扶養や扶養料の支払などについて話合いがまとまらない場合や話合いができない場合には,家庭裁判所に扶養請求の調停又は審判を申し立てることができます。
調停手続を利用する場合には,扶養請求調停事件として申立てをします。
ほかに,直系血族及び兄弟姉妹以外の三親等内の親族に扶養義務を負わせる申立て,複数の扶養義務者がある場合にその扶養すべき順序を指定する申立てなどもできます。
調停手続では,各扶養義務者の経済状況や生活状況,扶養権利者の意向等を考慮し,当事者双方から事情を聴いたり,必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握して,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をし,合意を目指し話合いが進められます。
なお,話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には原則として自動的に審判手続が開始され,家事審判官(裁判官)が,必要な審理を行った上,一切の事情を考慮して,審判をすることになります。
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相続の対象とならない権利義務(年金受給権)・・・
厚生年金の被保険者が重婚的内縁関係にあった場合、被保険者の戸籍上の妻が被保険者の死亡当時、被保険者によって生計を維持していたものということができないとして戸籍上の妻に遺族厚生年金を支給しないとした処分は適当であると認めた事例があります。
厚生年金法による老齢年金受給者の配偶者が、被保険者と昭和43年頃別居し、被保険者の死亡時には住居を異にし、双方間で同居再開の話し合いがされたこともないこと、別居後被保険者がその収入から配偶者の生活を維持するための出費をしていたと評価できないこと、などから厚生年金保険法59条1項にいう「被保険者の配偶者」に該当しないとした事例があります。
厚生年金保険法第59条
1 遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当事。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
1.夫、父母又は祖父母については、55歳以上であること。
2.子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、又は20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。
2 前項の規定にかかわらず、父母は、配偶者又は子が、孫は、配偶者、子又は父母が、祖父母は、配偶者、子、父母又は孫が遺族厚生年金の受給権を取得したときは、それぞれ遺族厚生年金を受けることができる遺族としない。
3 被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、第1項の規定の適用については、将来に向つて、その子は、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者によつて生計を維持していた子とみなす。
4 第1項の規定の適用上、被保険者又は被保険者であつた者によつて生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は、政令で定める。
戸籍上の妻は、遺族厚生年金の受給に関する配偶者要件を満たさないとして受給権を否定し、32年間同居していた内縁の妻に受給権を認めた事例があります。
甲乙夫婦は約19年間別居して事実上の離婚状態にあり、甲と丙は約19年間同居して、丙は事実上の妻として甲の身の回りの世話をし、甲の収入によって生計を維持していた場合に、丙が遺族共済年金の受給権者に該当するとした事例があります。
全国労働者共済生活協同組合連合会の個人定期生命共済契約の共済金受取人を定める個人定期生命共済事業規約にいう「配偶者」には、本件の場合、契約者と妻との婚姻関係が契約者の死亡時において、すでに実体を失っていたものと認めるべき特段の事情が存するから、契約者と共同生活していた内縁の配偶者が「配偶者」に該当すると解した事例があります。
民法第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
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