相続させる遺言の遺産確認請求・・・
特定の相続人に特定の財産を相続させる遺言がある場合、遺産確認請求の対象財産が、被相続人の死亡当時、同人の財産であったとしても、本件遺言で指定された者に当然に承継され、遺産共有の状態にならず、遺産分割の余地もないから、右財産について、遺産分割の前提として相続財産に属することの確認を求める利益はないとして、この請求を却下した事例があります。
判例により、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定と解するとされ、当該遺産が不動産である場合、当該相続人が単独で登記手続をすることができるとされています。
「相続させる」遺言によって不動産を取得した相続人は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとの判例が出たことから、他の相続人の債権者による相続財産の差押えを未然に防ぐことができます。
原告らが被相続人の相続財産であるとし、遺留分減殺に基づきこれらの財産個々について自己が取得したとする共有持分権の確認等を請求している本件においては、この請求に対する判決によって、原告らがこれらの財産について現に有する権利の確定を図ることができるのであるから、右権利確定の前提にすぎないこれらの財産が相続財産に属するか否かの確認を求める利益はないとして、この請求を却下した事例があります。
(遺留分の帰属及びその割合)
民法第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
1.直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
2.前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1
(遺留分の算定)
民法第1029条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
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相続人の共有持分譲渡・・・
共有者の1人は、その持分権に基づき、共有不動産に加えられた妨害を排除することができます。
共同相続人の1人が共同相続人4人名義の相続登記をした後、自己の共有持分を第三者甲に譲渡して、持分移転登記がされている場合、その譲渡が無効であるときは、その登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているということができるから、他の共有者は、共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し、単独で、その持分移転登記の抹消登記を請求することができます。
(占有保持の訴え)
民法第198条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
民法(占有保全の訴え)
第199条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
民法第200条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
(占有の訴えの提起期間)
民法第201条 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。
3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。
(本権の訴えとの関係)
民法第202条 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
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第三者の遺産の処分・・・
遺産を、相続人以外の第三者が処分した場合、相続人はその者に対して、遺産が現存すれば返還を請求し、現存しないときは損害賠償を請求します。
被相続人甲は、母乙、姉丙、妹丁にたいし、平成**年**月**日に甲名義の預金を管理し、これを甲及び乙の生活費や医療費、**家の家屋の維持のために使用すること、また、その事務は甲の死後も引き続いて乙、丙、丁において処理することを委任したと認定して、甲名義の預金は、甲、乙、丙、丁らの共同所有財産であるなど丙、丁の主張は排斥しましたが、甲が乙、丙、丁らに対し、死後の事務処理を含めてこれを委任するものとして預金の管理をまかせたとの主張を認めて、丙、丁らが甲名義の預金を払い戻しても不法行為を構成しないし、乙の指示で費消されたものについて丙、丁らに不法行為責任を問えないし、丙、丁が費消した金員は、乙の生活費、医療費又は**家の家屋・祭祀の維持のために使われたものと認められ、不法行為の事実は認められないとして、甲の相続人Aの損害賠償請求を棄却した事例があります。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
民法第710条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
被相続人の委託により財産を管理する受託者が管理上の不正行為により、委託者に損害を与えたときは、賠償損害金が遺産となり、受託者の使用者の使用者責任が問題になることがあります。
銀行の従業員が長年にわたり、高齢者の預金通帳、印鑑を預かり、預入、払戻などの事務を代行し、高額の使途不明金を発生させた場合、このような事務処理を看過し、黙認した銀行に対して損害賠償を命じた事例があります。
(事務管理)
民法第697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
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共同相続人の株式の処分・・・
遺産確認の訴え
遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであり、その原告勝訴の判決が確定すると、既判力によって、遺産分割の手続及び同審判確定後に遺産帰属性を争うことが許されなくなるので、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要性共同訴訟と解されています。
相続人Aが相続人Bに対して被相続人甲からの相続による本件土地の共有持分権を主張することは前訴の判決の既判力に抵触する場合であってもAは他の共同相続人とともに原告となってBを被告として遺産確認の訴えを提起することができます。
この場合、前訴の判決の既判力は、遺産確認の判決に従って将来行なわれる遺産分割の際に考慮されます。
遺産確認の訴訟係属中にした共同被告の一部に対する訴えの取下げは効力を生じません。
遺産確認の訴えは、その性質上共同相続人全員が当事者となり、全員の関係で合一にのみ確定するべき必要的共同訴訟ですから、一部の者に関して弁論を分離することは許されず、弁論を分離したまま別々に言渡された判決もまた違法な手続によるものとして取り消しを免れません。
弁論を分離することが許されず、従って別々の判決をすべきでないのに誤って別々の判決がなされた場合には、いずれかの判決につき、いずれかの当事者から不服の申立があれば、事件は全員に対する関係で上級審に移審します。
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