共同相続人の担保責任を減免・加重する遺言・・・
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責に任じます。
(共同相続人間の担保責任)
民法第911条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
共同相続人は「売主と同じ」担保責任を負いますから、代金の減額、解除、損害賠償がその内容となります。
既に一部が遺産に属さなくなった不動産を遺産分割の対象とした審判が確定したときは、審判により当該不動産を取得するものとされた相続人Aは、他の共同相続人に対して損害賠償を請求することができ、この場合、審判時に相続人Aが右事実を知っていたとしても、審判は家庭裁判所が行なうものであるから、右相続人が「善意」でないとしてその損害賠償請求権の取得を否定されることはないとした事例があります。
確定判決により、遺産分割審判の対象物権の一部が遺産でないとされた場合、特段の事情のない限り、遺産でないとされた物件についての前の審判による分割の効力のみが否定され、その余りの物件についての分割は有効であると解すべきであり、本件では、特段の事情はないとして、遺産分割審判の無効を理由とする再分割申立を却下した事例があります。
この場合、遺産でないとされた物件を取得するとされた相続人は、民法911条に基づき、他の相続人に対し、その相続分に応じた担保責任を求めることになると解しています。
瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡を受けた時から進行します。
民法563条の権利は、権利者が善意のときは事実を知った時から、悪意のときは契約の時から1年以内にしなければなりません。
(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
民法第563条 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
民法第564条 前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ1年以内に行使しなければならない。
遺産分割審判の民法911条、564条の除斥期間は、債権者が既にその財産が売却されたため相続人において取得できないこと、それを債権者に取得させる家庭裁判所の審判がされたこと、その審判が確定したことの3つを知った時から進行するとした事例があります。
共同相続人の担保責任に関する規定は、被相続人の通常の意思を推定したものですから、被相続人が右の規定と異なる別段の意思表示を遺言において示したときは、その意思が優先します。
別段の意思表示とは、共同相続人の担保責任を減免又は加重する意思表示をいいます。
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債務不履行による遺産分割協議の解除・・・
遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができず、遺産分割は協議の成立とともに終了し、その後は、右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務の関係が残るだけと解するべきであるとされています。
(履行遅滞等による解除権)
民法第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
遺産分割協議の中で定められた代償金、特定物の引渡、共有物の分割、遺産に関する費用の立替金などに不履行があっても協議の解除は認められず、その履行を調停又は訴えの方法で請求できるだけになります。
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取得した遺産の売却・・・
共同相続人甲乙は、遺産分割で取得した甲の借地権30坪と乙の借地権の一部5坪を一括売却しました。
遺産分割の際、角地である甲の借地部分は角地でない乙の借地部分より高く評価されていたので、借地権の売買において、甲の借地部分と乙の借地部分とを等価とする合意であったか、甲の借地部分を遺産分割時の割合どおり乙の借地部分より高く評価する合意であったかが争いになったのですが、乙の売却が加わることにより、甲単独の売却価格よりも間口が広がっただけ相対的に高価になることはあっても安価になることは考えられず、乙の5坪を区別して低く評価する合理的理由はなく、乙の5坪は坪単価ににおいて甲の30坪と同額と認めるのが相当であるとされました。
甲は土地とその上の建物を乙(姉)と共有していたが、甲の土地持分が強制競売され、第三者丙が買い受けた場合、右強制執行による売却によって丙が右持分を取得するに至ったとしても、甲につき民事執行法81条の規定に基づく地上権が成立することはないとされます。
(法定地上権)
民事執行法第81条 土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
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囲繞地通行権・・・
遺産分割によって生じた袋地から公路に通ずる囲繞地通行権に関して紛争が生ずることがあります。
囲繞地通行権に関する民法210条1項は、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」とされています。
(公道に至るための他の土地の通行権)
民法第210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
民法第211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
隣地通行権を主張するために袋地につき所有権取得登記を経ている必要はありません。
分割により公路に通じない土地を生じた場合、その土地の所有者は公路に至るために他の分割者の所有地のみを通行することができます。
民法第213条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
共有物の分割又は土地の一部譲渡によって公路に通じない土地が生じた場合には、袋地の所有者は民法213条に基づき、これを囲繞する土地のうち、他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人の所有地についてのみ通行権を有するが、同条の規定する囲繞地通行権は残余地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではなく、袋地の所有者は民法210条に基づき残余地以外の囲繞地を通行し得るものではないと解されています、
公道に1.5メートル接する土地上に建築基準法施行前から存在した建築物が取り壊された場合に同土地のためにいわゆる接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が認められないとされた事例があります。
袋地所有者の囲繞地通行権及び下水管設置請求が認められた事例があります。
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