遺言執行者の任務・・・

遺言執行者の任務・・・

遺言執行者の任務は、遺言認知の届出、遺言による推定相続人廃除・取消し請求及びその届出、相続財産目録の作成、破産手続開始の申立等については別に定めがありますが、遺言執行者は相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。

(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

遺言執行者が遺留分権利者に対し、相続財産管理権に基づく相続財産の引渡し等を請求した場合、有効な遺留分減殺請求権を行使されたときは、包括受遺者と相続人はすべての相続財産を共有することになるから、遺言執行者は遺言を執行する余地はないとしてその請求を棄却した事例があります。

債権者亡き甲遺言執行者、債務者**銀行間の貸金庫開扉請求仮処分命令申立事件において、亡き甲の遺言は、その全財産を乙らに包括遺贈したものと解するのが相当であり、債権者は遺言執行者として本件貸金庫の開閉権を有するとして、担保を立てさせないで、「債務者は、債権者に対し、債権者が本決定送達の日から1ヶ月以内の間、債務者の営業時間内に債務者**支店において、同支店貸金庫の開扉を求めたときは、右貸金庫を開扉しなければならない」旨の仮処分を命じた事例があります。

包括遺贈された土地について受遺者が所有権移転登記を経由していない場合、遺言執行者は、被相続人からその生前に遺贈にかかる土地を賃借りした賃借人に対し賃料支払請求をすることはできないとした事例があります。

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遺言執行者の任務の判例・・・

包括遺贈の遺言執行者は、遺贈登記申請の登記義務者になります。

しかし、包括遺贈者が生前に売却し、その移転登記が未了である土地の所有権移転登記の申請の代理権限を当然に有するものではないとされます。

遺言者甲は本件建物を所有していたが、公正証書遺言により、これを長女乙、次女丙に2分の1ずつ遺贈し、戊を遺言執行者に指定して死亡した場合、遺言執行者は相続による移転登記後、本件建物を占有している相続人三女丁に対してその明け渡しを請求することができます。

銀行が公正証書遺言により指定された遺言執行者の預金払戻請求を拒絶したことが違法であるとして、損害賠償(①預金払戻請求の翌日から払戻日までの間の払戻額に対する民事法定利率年5分に割合による金員、②預金払戻請求訴訟の弁護士費用)請求が認められた事例があります。

遺言執行者が財団法人設立準備のため設立準備委員会を組織し、本件株式を同委員長名義に名義書換申請手続をなさしめたことは遺言執行者の権限の範囲内に属する行為であるとして原審の判断を正当とした事例があります。

(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

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遺言執行者の任務の判例2 ・・・

危急時遺言で遺言執行者に指定された弁護士の注意義務に反するとして、遺言者甲の相続人乙は、請求原因①として、遺言執行者丙が甲の危急時遺言確認の手続をとらず、同書面は遺言として失効したので、これに基づく4000万円の遺贈を受けられなくなったとして2000万円の損害賠償を丙に請求しました。

裁判所は、本件書面は、危急時遺言の方式を具備しているが、遺言の内容は「**製作所所有の財産を売却処分し、得られた代金の中から乙に4000万円を支払う」というのであり、これは**製作所所有の財産の分割方法を指定したと解するのが相当であり、遺言者と**製作所は法律上別人格であり同社の財産が遺言者の相続財産を構成するものではないから右内容の指定は遺言としてなすことはできないというべきであり、本件書面は、その後手続のいかんにかかわらず、遺言としての効力を有し得ないのであるから、これによって乙が受贈者としての権利を取得することはあり得ず、右取得を期待すべき法律上の利益もないとしてその主張は理由がないとしました。

乙は、請求原因②として、丙は遺言者から依頼されて本件書面の作成に関与し、本件書面において遺言執行者に指定されてこれに受諾し、本件書面の保管を承諾しているが、弁護士として、本件書面が遺言書として効力を有しないときは外見上の受遺者である乙に対して速やかにその旨を告げ、乙が本件書面によってその記載内容のとおりの遺贈を受ける権利を有するものと誤信して甲の遺産に対する権利行使の機会を失することがないようにする注意義務を怠ったとして2000万円の損害賠償を請求しました。

これについて、裁判所は、丙には専門家としての注意義務があることを認めましたが、乙にも自己の相続上の権利の確保について落ち度があり、丙の責任を検討するにあたっては、公平の見地からこれを斟酌して乙には損害のうち500万円の賠償を得せしめれば、自己の権利主張の機会を失したことによって被った損害の賠償として十分であるとしました。

特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がある場合には、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに当該相続人に承継されるから、遺言執行者には当該不動産につき財産分与を原因とする所有権移転登記手続等請求訴訟の当事者適格はないとした事例はあります。

特定の不動産を相続人甲に「相続させる」旨の遺言により、甲が被相続人の死亡により、当該不動産を取得した場合、遺言執行者には相続登記の申請義務はありません。

(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

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遺言執行者指定の効果・・・

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の失効を妨げるべき行為をすることができません。

この規定に違反した行為は絶対的に無効と解されています。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であっても、民法1013条にいう「遺言執行者がある場合」に該当します。

「遺言執行者がある場合」とは、遺言によって指定されている等現実に遺言執行者が存すれば足り、必ずしも遺言執行者が就職することを要しないとして、指定遺言執行者が家庭裁判所の許可を得て辞任し、後任の遺言執行者が選任される以前の相続人がした処分を無効とした事例があります。

民法1013条が、遺言執行者がある場合に相続人の相続財産の処分権を喪失させているのは、遺言者の意思を尊重し、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的にでたものであり、その反面として、その限りで、民法177条による不動産登記簿等による公示的機能を後退させる趣旨と解されるから、民法1013条は、遺言執行者が遺言執行に合理的期間を超えて任務を懈怠し、又は任務遂行が困難な心身の状態にある場合は想定していないのであり、このような場合には、遺言執行者の指定を受けた者が具体的に就職拒絶の意思表示をしていなくても、法的にはこれを拒絶したものと同視して、民法1013条の適用は排除されるべきであり、本件は、丁は、丙から遺言執行者に指定され、かつ、丙が死亡したことを知っていたにもかかわらず、体調上の理由で、甲が強制競売の申立をするまでの間、4年数か月に渡り、遺言執行者としての活動をしなかったのであり、この期間は、本件遺言の執行に必要とされる合理的期間を優に超えるというに十分であるとして、民法1013条の適用を排除し、受遺者による第三者異議の訴えを棄却した事例があります。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

遺言執行者と指定された者は、遺言に拘束されませんから、就職するか否かは随意ですが、意思決定は遅滞なくすべきです。

(遺言執行者の指定)
民法第1006条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

遺言執行者が速やかに就職の諾否に関する意思表示をしないときは、相続人その他の利害関係人は相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾する否か確答すべきことを遺言執行者に対して催告することができます。

(遺言執行者に対する就職の催告)
民法第1008条 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。

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