婚姻破綻後の不貞行為の慰謝料・・・
離婚の事案
夫と妻の夫婦関係は、非常に悪化し、夫は、妻と別居する目的で夫婦関係調整の調停申立をしたが、妻は調停期日に出頭せず、夫は調停を取下げた。
夫は、本件マンションを購入手続をし、手術を受けて退院した直後に自宅を出て本件マンションに転居し、妻と別居した。
夫は、スナックでアルバイトをしている女性と知り合った。
女性は、夫から妻とは離婚することになっていると聞き、次第に親しい交際をするようになり、肉体関係をもち、本件マンションで同棲した。
女性は夫との間の子を出産し、夫はその子を認知した。
妻は、女性に対して、慰謝料として1000万円の支払を求める本件訴訟を提起した。
離婚の判例
①一審は、妻の請求を棄却した。
②控訴審も、女性と夫が肉体関係をもったのは、昭和62年5月に夫が別居した後のことであり、その当時、既に妻と夫との夫婦関係は破綻し、形骸化していたものと認められるところ、女性は、当初夫から妻とは離婚することになっている旨聞き、その後別居して1人で生活していた夫の話を信じて夫と肉体関係を持ち、同年10月頃から同棲するに至ったものであるから、女性の右行為が妻と夫の婚姻関係を破壊したものとはいえず、妻の権利を違法に侵害したものとは認められないとして、妻の請求を棄却した。
③最高裁は、以下のように述べて、控訴審判決を維持した。
甲の配偶者と乙と第三者丙が肉体関係をもった場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。
けだし、丙が乙と肉体関係をもつことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
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不貞の共同不法行為の慰謝料・・・
離婚の事案
妻と夫の間には、離婚調停が成立した。
妻は、夫の不貞行為の相手の女性に対して、慰謝料として300万円の支払を求める本件訴訟を提起した。
離婚の判例
①一審は、女性に対して300万円の支払を命じた。
②控訴審も、本件不法行為に基づく慰謝料は300万円が相当であるとしたが、女性の債務免除の抗弁について以下のように述べてこれを一部認め、女性に対して150万円の支払を命じた。
女性と夫の不貞行為は妻に対する共同不法行為というべきところ、妻と夫との間には平成元年6月27日離婚の調停が成立し(以下、これを「本件調停」という。)、その調停条項には、本件調停の「条項に定めるほか名目の如何を問わず互いに金銭その他一切の請求をしない」旨の定め(以下「本件条項」という。)があるから、妻は夫に対して離婚に伴う慰謝料支払義務を免除したものというべきである。
女性と夫が妻に対して負う本件不法行為に基づく損害賠償債務は不真正連帯債務であるところ、両名にはそれぞれ負担部分があるものとみられるから、本件調停による右債務の免除は夫の負担部分につき女性の利益のためにもその効力を生じ、女性と夫が妻に対して負う右損害賠償債務のうち女性固有の負担部分の額は150万円とするのが相当である。
③最高裁は、以下のように述べて、控訴審判決を破棄し、一審判決を支持した。
民法719条所定の共同不法行為が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されないものと解するのが相当である
(共同不法行為者の責任)
民法第719条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
(連帯債務者の一人に対する免除)
民法第437条 連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。
原審の確定した事実関係によれば、妻と夫との間においては、平成元年6月27日本件調停が成立し、その条項において、両名間の子の親権者を妻とし、夫の妻に対する養育費の支払い、財産の分与などが約されたほか、本件条項が定められたものであるところ、右条項からは、妻が女性に対しても前記免除の効力を及ぼす意思であったことは何らうかがわれないのみならず、記録によれば、妻は本件調停成立後4ヶ月を経過しない間の平成元年10月24日に女性に対して本件訴訟を提起したことが明らかである。
右事実関係の下では、妻は、本件調停において、本件不法行為に基づく損害賠償債務のうち夫の債務のみを免除したにすぎず、女性に対する関係では、後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべきであり、本件調停による債務の免除は、女性に対してその債務を免除する意思を含むものではないから、女性に対する関係では何らの効力を有しないというべきである。
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婚姻関係が破綻していない慰謝料・・・
離婚の事案
妻は、勤務していたデパートの同僚であった夫と婚姻し、その後専業主婦をしており、男の子が2人生まれた。
女性はデパートに勤務し、職場の上司であった夫から仕事上の指導助言を受けるうちに親近感を覚え、夫と肉体関係をもった。
妻は、夫に対して、女性との関係を続けていることを責めたため、女性とは交際を断つ旨の念書を書いた。
妻は、女性と夫との不倫関係を解消させるため、弁護士に相談して、弁護士は、女性に対して500万円の慰謝料の支払を請求する内容証明郵便を送付した。
女性は、これに動揺して、勤務しているデパートの店長等の立会いのもとで、妻に対して謝罪と夫との交際を断つことを誓う誓約書を作成し交付した。
女性は、デパートを退職して岩手県の実家に帰り、以後一切夫とは交際していない。
妻は、女性に対して、500万円の慰謝料の支払を求める本件訴訟を提起した。
離婚の判例
①判決は、女性とは妻と夫が婚姻関係にあることを知りながら夫と情交関係にあったもので、右不貞行為を契機として妻と夫とが婚姻関係が破綻の危機に瀕し妻が深刻な苦悩に陥ったことに照らせば、妻がこれによって被った精神的損害について不法行為責任を負うべきものである。
しかしながら、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方において自己の優越的地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘束したような特別の事情が存在する場合を除き、不貞の相手方の責任は副次的というべきであると判示した。
そして、本件においては、不倫関係において、どちらかといえば女性の上司であった夫が主導的役割を果たしていたこと、婚姻関係の破綻の危機を招来したのは、夫の性格や行動に由来し、夫がこのような行動をとったことについては、夫婦間の生活、価値観の相違、生活上の感情等の行き違い等が無関係であったかどうかは疑問であること、妻は、第一次的な責任を有する夫に対する請求を宥恕していること、妻は、本訴によって夫と女性との関係の解消という目的を達していること、妻と夫との夫婦関係破綻の危機は乗り越えられたこと、女性が勤務先を退職して岩手県の実家に帰ったことにより、夫との最終的な関係解消が達成されたこと、女性は、退職して、東京での転職を断念して岩手県の実家に帰ったことで、相応の社会的制裁を受けていること等の事情を考慮して、女性が支払うべき慰謝料額を50万円とした。
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