面接交渉拒否の間接強制・・・
離婚の事案
いずれも医師である夫と妻は、婚姻し、別居した。
夫と妻の間で、長男との面接交渉等に関する下記の内容の調停が成立した。
「3、妻は、夫が第1項記載の未成年者と毎月少なくとも2回面接することを認める。
具体的な面接方法は以下のとおりとする。
(1)面接は、毎月第2土曜日からその翌日の日曜日、及び第4土曜日からその翌日の日曜日に行うこととする。
(2)夫は、第2土曜日、第4土曜日の午前9時ごろから午前10時ごろまでの間に妻の住所において、妻から第1項記載の未成年者を引き取り、妻は、翌日の日曜日の午後5時台の特急に乗ることができるような時間帯に、夫から第1項記載の未成年者を引き取ることとする。
(3)なお、面接日は、土曜日の昼頃から翌日の日曜日とし、具体的な時間については、当事者双方が事前に協議の上定める。
(4)夫と第1項記載の未成年者とが面接交渉するにつき、その日時、場所、方法等で都合が悪い場合には、未成年者の意思を尊重し、かつ、その福祉を慎重に配慮して、その都度、当事者双方が事前に協議の上、前項の日時等を変更することとする。
4、第1項の未成年者が前項の他にも夫妻との面接を希望する場合などには、その意思を尊重し、当事者双方が協議の上、適宜、面接回数を増やすなどすることとする。」
しかし、妻は面接交渉を行なわず、2度の履行勧告も功を奏さなかった。
そこで、夫は、上記調停条項3項に基づき、間接強制を求めた。
離婚の判例
①原審は、以下のように述べて、夫の申立を却下した。
面接交渉においては、子の意向をできる限り尊重する必要があり、また、現に未成年者を監護している親の反対を押し切って面接交渉を強制的に実現することが子の福祉に反する結果となる可能性が高い。
したがって、面接交渉の義務については、その方法の如何を問わず、強制執行することは許されないものと解するのが相当である。
②抗告審は、以下のように述べて、原決定を取消し、神戸家裁に差し戻した。
家庭裁判所の調停又は審判によって、面接交渉権の行使方法が具体的に定められたのに、面接交渉義務を負う者が、正当の理由がないのに義務の履行をしない場合には、面接交渉権を行使できる者は、特別の事情のない限り、間接強制により、権利の実現を図ることができるというべきである。
さらに、間接強制の申立に対する決定をするには、妻の審尋が必要であるから、本件を原審裁判所に差し戻すこととする。
③差戻し審は、次のように述べて、以下の主文を決定を下した。
主文
1、妻は、調停申立事件において平成13年3月14日に成立した調停調書の執行力のある正本に基づき、別紙同調停調書の3項のとおり、夫を当事者双方間の長男である未成年者と、毎月少なくとも2回面接させなければならない。
2、妻が、本決定の告知を受けた日以降、前項の義務を履行しないときは、妻は夫に対し、不履行1回につき20万円の割合による金員を支払え。
非監護者である実親の子に対する面接交渉権は、子の福祉のために認められるべきものと解されることからすれば、面接交渉義務者である監護者実親が間接強制を拒むことができる「正当の理由」とは、例えば、監護している子が面接交渉権利者である実親に対し、その従前の養育態度などに起因する強い拒否的感情を抱いていて、面接交渉が、子に情緒的混乱を生じさせ、子と監護者実親との生活関係に悪影響を及ぼすなど、子の福祉を害する恐れがあるといった、主として子及び監護者実親の側における、間接強制を不相当とすべき諸事情をいうものであり、他方で、面接交渉権利者である非監護者実親が、間接強制を求めることが許されない「特別の事情」とは、例えば、非監護者実親の面接交渉が、専ら監護者実親に対する復縁を目的とするものであるとか、その方法、手段が不適当であるなど、面接交渉が権利の濫用に当たるといった、主として非監護者実親の側における、間接強制を不相当とすべき諸事情をいうものと解される。
④差戻し後の抗告審も抗告を棄却し、最高裁も抗告を棄却した。
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暴力を原因とする離婚で面接交渉・・・
離婚の事案
夫と妻は、約10年間の同棲生活を経て、婚姻し、長女が生まれた。
妻が夫とその妹の関係を問い詰めた際、夫は、長女及び妹の面前で同人の顔面を数回殴るなどの暴力を加えた。
その後、夫は、妻に暴力を振るい、妻は、加療2ヶ月を要する肋骨骨折等の傷害を負った。
また、夫は、保育園において、喧嘩をして泣いていた長女を突き飛ばし、同人に全治4週間を要する上腕部骨折の傷害を負わせた。
妻は、長女を連れて家を出て、夫を別居した。
妻は、離婚を求める調停申立をしたが、不成立となり、離婚訴訟を提起した。
長女の親権者を妻と定めて離婚を認め、夫に慰謝料として500万円の支払を命ずる判決が確定した。
夫は、妻に対して、長女との面接交渉を求める本件審判申立をした。
離婚の判例
裁判所は、以下のように述べて、夫の申立を却下した。
子の監護者とならなかった親と子との面接交渉をすることは、一般、抽象的には、子の利益にそうものと考えられるところから、子の監護に関する処分の内容として認められているが、具体的に面接交渉を認めるか否かは、監護について必要な事項か否か、あるいは、子の利益のため必要があるか否かという観点から、決められるべきことがらであり、面接交渉を認めることが子の最上の利益にそうものであると認められない場合には、面接交渉を求めることはできないと解するのが相当である。
夫は妻に対し、繰り返し、暴力を振るい、骨折を伴うような重大な傷害を与えていること、そのため、妻は、夫に対し、強い恐怖感を抱いており、所在を知られることによって、再び暴行を受けるかもしれないという危惧感を抱いており、そのような感情を抱くことが不自然、不相当ということはできないこと、これに対し、夫において、例え暴力をふるったことに理由があるとしても、その暴力について反省し、妻の恐怖感を和らげるような行動が十分にとられているとは認めがたいこと、妻及び長女は、現在は、暴力を受けることなく、安定した状態で生活していること、前記認定のような暴力が過去にあり、長女は積極的に接触を求めてはいないことなどが認められ、これに本件記録に現れた一切の事情を総合すると、夫が長女に愛情を抱いている事実があるとしても、現時点において、夫が求める面接交渉を認めることが子の最上の利益に合致するとは認められない。
反対に、もし、これを認めると、長女が再び両親の抗争に巻き込まれ、子の福祉が害される危険がある。
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面接交渉の調停の間接強制・・・
離婚の事案
妻は、夫に対し、長男の親権者指定、面接交渉を求める調停申立をなし、次の内容の調停が成立した。
1、当事者双方は、当事者間の長男の親権者を夫と定める。
2、夫は、妻に対し、妻が長男と毎月2回面接することを認め、その方法、場所等については、妻において良識にかなった面接方法を選択することができるとし、特に制限をしない。
3、当事者双方は、面接場所は、夫の自宅以外の場所とする。
4、妻と夫は、長男が通っている保育所の行事への参加等については、これを協議して定める。
5、夫は、妻に対し、長男の保育記録等の成長を記載した記録を随時見せることを約束する。
妻は、調停成立後、長男と1回面接交渉をしたが、その後は、妻が妊娠した子を産むか産まないかで夫と意見が対立したことから、長男との面接交渉は実現できなかった。
妻の申立により、面接交渉の履行勧告がされたが、夫はこれを拒否した。
妻は、前件調停条項第2項に基づき、面接交渉の間接強制等を求める本件申立をした。
離婚の判例
①原審は、妻の申立を認め、以下の主文の審判を下した。
夫は、妻に対し毎月2回妻の指定する日時、場所において、両者間の長男と面接交渉させよ。
夫が、審判送達の日以降において、前項の債務を履行しないときは、夫は、妻に対し、1回につき金5万円を支払え。
②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、間接強制の申立を却下した。
調停条項のうち、債務名義として執行力を有するのは、当事者の一方が他方に対し、特定の給付をなすことを合意の内容とする給付条項のみであり、特定の権利者もしくは法律関係の存在又は不存在を確認する旨の合意を内容とする確認条項については、債務名義にはならない。
そして、ある調停条項が、当事者の給付意思を表現した給付条項であるか、権利義務の確認にとどまる確認条項であるかは、当事者の内心の意思によって決まるものではなく、調停条項全体の記載内容をも参酌しつつ、当該調停条項の文言から客観的に判断すべきものである。
本件においては、上記調停条項の第2項は、「夫は、妻に対し、妻が長男と毎月2回面接することを認め」と記載されているのみであり、その文言から直ちに夫が特定の給付をなすことを合意したことを読み取ることはできない。
かえって、同調停条項で使用されている「認め」との表現は、裁判所において調停条項や和解条項が作成される場合に確認条項を表示する場合の常套文言であり、仮に給付条項とするのであれば当然「面接させる」等の給付意思を明確にした表現がされるべきものであるから、特段の事情のない限り、上記調停条項第2項は給付条項ではなく確認条項にとどまると解される。
もっとも、上記調停条項第2項には、面接の「方法、場所等については、妻において良識にかなった面接方法を選択することができることとし、特に制限をしない」との記載もあり、面接の方法、場所等について妻に選択することが認められている。
しかし、面接の方法、場所等について妻に選択する権利があるといっても、現実に長女と面接を行なうに当たっては、事前の連絡、調整等が当然必要になるものであること、上記調停条項には、今後の長男の監護に関し、当事者間の協議を予定していることが明らかな条項も存することなどを考慮すると、妻が面接の方法、場所等について選択することができるとされているからといって、上記調停条項第2項をもって確認条項ではなく、給付条項であると解することはできない。
そして、他に、上記調停条項第2項をもって給付条項であると解するに足りる特段の事情を認めることはできない。
そうすると、上記調停条項第2項をもって給付条項と解することはできず、これを債務名義として強制執行の申立をすることはできないといわざるを得ない。
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