別居中の連れ去りで人身保護請求・・・

別居中の連れ去りで人身保護請求・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、二女が生まれた。

妻は、夫に対して「別れたい」と言い、夫が「夜にでもその話をしよう」と言って、話し合いを拒むと、しばらくして子らを連れて妻の両親宅に移り、子らの転校等の手続をした。

夫は、離婚調停申立をしたが、子らの親権をめぐって対立したため、不調となり、離婚訴訟を提起した。

夫は、小学校付近で、登校してきた子らを車に乗せ、夫宅に連れて行き、以後子らと生活している。

妻は、人身保護法に基づき、夫に対して子らの釈放、妻への引渡しを求めた。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、妻の請求を認容した。

被拘束者らが平成5年4月以来妻の両親宅に同居し**市立**小学校に通学して、約8ヶ月間教育上十分配慮の行き届いた安定した生活を送っており、被拘束者らが夫宅に居ては、これらが全て失われること、被拘束者らの気管支喘息が妻の両親宅への転地により改善されたが、夫宅がある地域は、環境的には被拘束者らの気管支喘息を悪化させるおそれがあること、被拘束者らは、8歳と6歳の女児で、母親である妻からの監護を欠くことは適当でないことを考慮すると、被拘束者らが夫の監護の下に置かれるよりも、妻に監護されることが子の幸福に適することが明白であると解すべきであり、すなわち、夫が被拘束者らを監護することが子の幸福に反することが明白であると解すべきである。

②上告審は、以下のように述べて、原判決を破棄し、大阪地裁に差し戻した。

請求者であると拘束者であるとを問わず、夫婦のいずれか一方による幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情のない限り適法であることを考えると、右の要件を満たす場合としては、拘束者に対し、家事審判規則52条の2又は53条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分に従わない場合がこれに当たると考えられるが、更には、また、幼児にとって、請求者の監護の下で安定した生活を送ることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たるというべきである。

結局、原審は、被拘束者らにとっては夫の下で監護されるより妻の下で監護される方が幸福であることが明白であるとはしているものの、その内容は単に相対的な優劣を論定しているにとどまるのであって、その結果、原審の判断には、人身保護法2条、人身保護規則4条の解釈適用を誤った違法がある。

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調停での合意に反する子の拘束・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長女、二女が生まれた。

夫が単身転居したため、その後は、妻が子らを監護養育してきた。

妻は、離婚調停を申し立てた。

その第1回目に、妻と夫の間で、子らが冬休みの間、夫が子らと一緒に暮らせるように、子らを夫の下へ行かせ、子らを妻の下へ帰す合意が成立した。

妻は、本件合意に基づき、子らを夫の下へ行かせたが、夫は、第2回、第3回の調停期日にも子らを同行せず、妻に引き渡すこと拒否した。

夫は、子らの住民票を妻に無断で夫の住所地に移動し、夫の住所地において長女の小学校等の手続を進めている。

妻は、人身保護法に基づき、夫に対し子らの釈放、妻への引渡しを求めた。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、妻の請求を認容した。

夫が、女児である被拘束者らの父親として適さないと、一般的に断定する証拠はなく、夫による監護が被拘束者らの幸福に反することが明白であるとは、特に、長期的な視野でみた場合には、一概にはいえない。

しかし、他方、夫による本件拘束の開始は、前示のとおり、妻と夫の夫婦関係の紛争を、被拘束者らに対する監護を含めて調停するための、裁判所における家事調停手続の場において、夫の是非とも被拘束者らと休暇を過ごしたいという趣旨の、妻のもとに被拘束者らを帰す期限をつけた要望に対し、調停委員の勧めがあって、妻が応じたことを契機とするものである。

したがって、夫、妻及び関係者の間において、被拘束者らの夫のもとでの滞在は、前示約束の期限内の一時的なものであることが了承され、右期限後に、夫が被拘束者らを妻のもとに帰さない事態は、全く予定されていなかったのである。

しかるに、夫は、前示家事調停手続、本件人身保護請求手続を通じて、本件合意に反し、被拘束者らを今後引き続き監護する意思を示し、妻のもとですでに公立の小学校への入学通知書が届いている状況であるにもかかわらず、急遽被拘束者らの住民票を妻に無断で夫の住所に移転し、夫の住所地において、被拘束者らの入学等の手続を進めている。

このような夫の性急な行為は、一般的に、幼児にとって居住環境を安定させること、感じやすい年齢の女児にとって母親の存在が大切であることについて配慮しないものであることに加えて、いたずらに紛争が複雑化することを顧みず、単に被拘束者らを自らの手許にとどめて家事事件手続を自己の望む方向へ進行させようとするものとみられても仕方がないものである

右夫による被拘束者らに対する監護・拘束は父親によるものとはいえ、現時点では、子の幸福を希求する法の趣旨にそわず、すでに開始された家事事件手続の裁判所による運用に対する信頼を損なうものであって、著しく信義則に反し、許されないものというべきである。

②上告審も、以下のように述べて、原判決を維持した。

夫が調停委員会の面前でその勧めによってされた合意に反して被拘束者らの拘束を継続し、被拘束者らの住民票を無断で夫の住所に移転したことなどの事情に鑑み、本件拘束には、人身保護法2条、人身保護規則4条に規定する顕著な違法性があるとものとした原審の判断は、正当と是認することができる。

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強制執行による子の引渡・・・

離婚の事案

母は、本件幼児の親権者変更申立事件を本案として、家庭裁判所に審判前の保全処分を申立て、本件幼児の引渡仮処分審判が下された。

その主文は、「父は母に対し、本件幼児を仮に引き渡せ」となっていた。

母は父に対し、本件債務名義に基づき、強制執行申立をしたが、札幌地方裁判所執行官は、強制執行申立却下をの執行処分をした。

そこで、母は、同執行処分の取消と本件債務名義に基づく強制執行の実施を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

裁判所は、以下のように述べて、母の申立を棄却した。

本件債務名義は、家事審判法15条の3及び家事審判規則52条の2による審判前の保全処分として発令された仮処分命令であるところ、その執行について、家事審判法は、「民事保全法その他の仮処分の執行に関する法令の規定に従う。」としているのみで、何ら特別の執行方法を規定しておらず、これを承けるべき民事保全法52条1項も、「仮処分の執行については、強制執行の例による。」とするに止まっている。

とすれば、執行官が本件強制執行を執行官法1条1項事務として遂行し得るか否かは、結局のところ、民事執行法に基づいて幼児の引渡請求をなし得るかという点にかかっていることになる。

民事執行法上、執行官が執行機関とされている引渡執行のなかで、本件において利用可能な方法としては、動産の引渡執行以外に想定できない。

本件において、申立代理人が本件債務名義に基づく引渡執行を執行官に対して申し立てたのも、かかる理解に基づくものであろう。

しかしながら、一般に引渡執行lは、執行官が債務者の目的物に対する占有を解いてこれを債務者に引き渡す方法によりなされるものであるから、それには債務者による目的物に対する排他的全面的支配関係が存在することが前提である。

そして、引渡執行が許される実質的根拠は、目的物に対する債務者の支配を解いてそれを債権者に引き渡すことにより、債務者と目的物との関係を債権者と目的物との関係に置換することが可能であることから、国家が強制的にこれを実施しても債務者の人格尊重の理念に抵触せず、かつ、最も効果的な方法であることに求められると考える。

そうだとすると、たとえ幼児であってもそこには人格の主体もしくは少なくともその萌芽を認めるのが相当であって、その引渡執行を許容するときは、親の子に対する占有ないし支配関係なるものを想定するのと同一の結果をもたらすことになり相当でなく、物と幼児とを同一視することはできないというべきである。

しかも、この種の強制執行申立の実質は、債務者と幼児との間の人格的接触と債権者と幼児との間のそれと異質性を前提にしたうえで、債務者と幼児との人格的接触を遮断するとともに、債権者と幼児との間の親子の人格的接触を暫定的にせよ確保しようとするところにあると解されるのであって、人格的接触が本来的に相互交流的性格を有することからすると、幼児の引渡によって、債務者と幼児との関係と同一の関係を債権者との間で実現することにはならず、これを強制的に行なうとすれば、もはや国家機関による強制的実現の許容性の範囲を逸脱するといわざるを得ない。

したがって、民事執行法上、幼児の引渡を許容する明文の規定は存在しないといわざるを得ない以上、子の引渡を直接的に求める執行は許されないというべきである。

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