子の連れ去りの直接強制による引渡・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長男、二男が生まれた。
夫は、新婚時代から、気に入らない事があれば、妻に対し、殴る蹴る、髪をつかむ、物を投げる等の暴力を振るった。
妻は、離婚を決意して、子らを連れて、長野市にある実家に戻った。
夫は、妻の実家を訪問し、妻に対し、「今後はいつ会えるかわからないので、おもちゃを買ってあげたい」などと言って、子らを連れ出し、そのまま戻らなかった。
その後、子らは、草加市にある夫の父の自宅で、夫、夫の父、夫の父の同棲相手女性と生活している。
妻は、子らを連れ去られた後、離婚調停の申立と、人身保護請求訴訟を提起したが、その後、子の監護者を妻と指定し、子の引渡を求める本件審判申立及び仮処分申請をした。
夫に対して子らを引き渡すことを命じる仮処分審判がされ、審判書は、同日夫に執行官送達された。
当日、妻及び代理人は、執行官に随伴して、夫宅に赴き、子らの引渡を求め、説得を試みたが、夫は承知しなかった。
妻は、前記仮処分について履行勧告の申立及び間接強制の申立を行った。
夫に対して決定書送達の日から3日以内に子らを引き渡すこと、引渡をしないときは、1日当たり3万円の金員を支払うことを命ずる決定がされた。
しかし、夫はたとえ間接強制により損害金をとられようとも子らの引渡はしない、との姿勢を崩さなかった。
離婚の判例
①裁判所は、以下のように述べて、子らの監護者を妻と指定し、夫に対して子らの引渡を命じた。
本件夫婦間の問題を解決するには、相当の時間を要するものと予想されるので、妻と夫が別居中の、子らの監護者を指定する必要がある。
今回夫に連れ去られるまで、子らは、妻の監護の下で平穏に成長してきており、従前の妻の監護は良好に行なわれてきている。
そうすると、このような関係にあった実母と乳幼児が離れて生活することは、生物学的、発達心理学的にみても、未成年者らの今後の心身の発達に障害となる可能性があるといえよう。
夫や夫の父が、現在、子らを、愛情をもって育てていることは想像に難くないが、その養育対応は刹那的であり、子らに精神的安定をもたらすには不十分であるといわざるをえない。
子らの年齢からすれば、母親の細やかな愛情を最も必要とする時期である。
この時期に、夫や夫の父による監護が、妻のそれに比して良好であると窺うに足りる資料は全く存在しないのである。
併せて、夫のこれまでの裁判所に対する対応は監護者として適格性に疑問を抱かせるものである。
したがって、当裁判所は、子らの福祉のためには、妻がその監護にあたることこそ相当と考える。
②当裁判所は、子らの年齢、これまでの夫の対応等を考慮すれば、本件子らの引渡を実現する方法は、直接強制によるしかないものと考えており、また、直接強制こそが、子の福祉に叶うものであると考えていることを付言しておく。
③なお、本審判確定後、妻からの直接強制の申立に基づき、執行官及び妻の代理人が夫及び子らの居住する夫の実父の住居に臨場して執行が試みられた。
しかし、夫の実父らが玄関のドアに施錠したまま執行官等の立ち入りを拒否し、夫が引渡に応じなかったため、執行官は、妻の代理人の了承を得て執行不能とした。
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非監護者への子の引渡の人身保護請求・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長女が生まれた。
妻と夫は、円満を欠くようになり、妻は長女を連れて実家に戻り、夫と別居した。
夫は、妻の実家を訪れたところ、妻が不在であったことから、妻の母の承諾を得て、長女を夕食に連れ出した。
夫は、その後長女を夫宅に連れ帰り、妻の電話をかけ、長女をどうするか問いかけたところ、妻がどちらでもよいと返答したため、夫が育てる旨を告げ、以後長女を監護養育している。
夫は、離婚訴訟を提起し、妻も離婚の反訴を提起し、離婚と長女の親権者を夫と定める判決がされたが、控訴審では、妻を親権者と定める判決がされ、確定した。
妻は、夫に対して長女の引渡を求める審判を申し立てたが、同申立は却下された。
妻は、夫に対して、本件人身保護請求をした。
なお、夫は、夫を長女の監護者と指定することを求める調停申立をしたが、調停は不成立となり審判に移行した。
離婚の判例
①一審は、以下のように述べて、妻の請求を棄却した。
妻は、被拘束者に対する愛情及び監護意欲に点において欠けるところはないと考えられはするものの、人身保護の手続が非常の救済手続きであり、かつ、夫の子の監護者の指定の審判が係属中であることに鑑みると、右の審判手続において夫の申立が却下された場合に改めて人身保護の申立をするのは格別、本件においては、夫による被拘束者の監護が権限なしにされていることが顕著である場合には該当しないと解するのが相当である。
②上告審は、以下のように述べて、原判決を破棄し、地裁に差し戻した。
法律上監護権を有しない者が子をその監護の下において拘束している場合に、監護権を有する者が人身保護法に基づいて子の引渡を請求するときは、被拘束者を監護権者である妻の監護の下に置くことが夫の監護の下に置くことに比して子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、非監護者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合に該当し、監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当であるところ、本件においては、妻の被拘束者に対する愛情及び監護意欲に欠けるところがなく、監護の客観的態勢も調っているということができるから、妻の監護の下に置くことが被拘束者の幸福の観点から著しく不当ということは到底できない。
原判決の挙げる夫の監護が平穏に開始され、夫の愛情の下にその監護が長期間続いていること、被拘束者が現在の生活環境に慣れ、安定した生活をしていること等の事情は、妻による監護が著しく不当なものであることを基礎付けるものではない。
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面接交渉での子の連れ去りの人身保護請求・・・
離婚の事案
妻と夫は、婚姻し、長男、長女が生まれた。
妻と夫は、婚姻後に夫宅で生活をしていたが、妻と夫の両親、姉との折り合いがよくなかったことから夫婦の仲も悪化し、妻は、2人の子を連れて夫宅を出て、婦人保護施設に入った。
妻は、離婚調停申立をなし、夫は、子らと面接交渉を求める調停申立をした。
調停期日に、児童相談所において夫と子らが面接交渉する旨の合意が成立したが、その日は長女が発熱したため、再度協議し、妻の代理人である弁護士の事務所で面接することを合意した。
夫は、その面接の際に、2人の子のうち、長男を連れ去った。
夫は、医師であり、夫らが所有するビルの1階で開業し、4階に居住してる。
長男は、夫及び同じビルに住む夫の両親、姉が監護養育に当たっており、監護養育状況は良好である。
妻は、人身保護法に基づき、長男の引渡を求めた。
離婚の判例
①一審は、以下のように述べて、妻の請求を棄却した。
右事実関係の下において、夫が被拘束者を連れ去った行為の態様は悪質であるが、夫並びにその両親及び姉による被拘束者の監護養育状況は良好であり、妻が被拘束者の引渡しを受けた場合に同人の監護養育することを予定している寮は同人の監護養育にとって必ずしも良好な環境であるとはいえないことからすると、夫による被拘束者の監護が同人の幸福に反することが明白であるということはできず、夫による被拘束者の拘束が権限なしにされていることが顕著であるとは認められない。
②上告審は、以下のように述べて、原判決を破棄し、原審に差し戻した。
妻と夫は、本件調停の期日において、調停委員の関与に下に、現に妻が監護している2人の子を日時場所を限って夫と面接させることについて合意するに至ったものであり、夫は、右の合意によって2人の子と面接が実現したものであるにもかかわらず、その機会をとらえて、実力を行使して被拘束者を面接場所から夫宅へ連れ去ったのである。
夫の右行為は、調停手続の進行過程で当事者の協議により形成された合意を実力をもって一方的に破棄するものであって、調停手続を無視し、これに対する妻の信頼を踏みにじったものであるといわざるを得ない。
一方、本件において、妻が被拘束者を監護することが著しく不当であることをうかがわせる事情は認められない。
右の事情に鑑みると、本件においては、夫による被拘束者に対する拘束には法律上正当な手続によらない顕著な違法性があるというべきである。
被拘束者が、現在、良好な養育環境に下にあることは、右の判断を左右しない。
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